第104話 湊姉妹④

「あなたがうちの学校に来てしまったせいで私の頭の中は野球でいっぱいになってしまったわ。どれだけ離れようと思っても、あなたはどんどん野球部を創ったりして前に進んで行くし、おまけに私に野球部に絶対に入ってもらう、なんて宣言しちゃうんだから」


由里香は優しく微笑んで、言葉を続けた。


「せっかく野球と関係のない学校に来たのに、華菜が野球部を作ったせいで、毎日毎日打球音聞かされてたら、もう野球無しの生活に戻れなくなっちゃうじゃないの……」


そこまで言うと、由里香はこれまでのことを噛み締めるみたいに時間をかけてから、続きを発した。


「私はやっぱり野球をしていないとダメみたいね」


華菜の方をしっかり見ながらクスクスと笑っている由里香は、これまで見た事ないくらいに無邪気で可愛らしい顔をしていた。


「あの……つまり、それは野球部に入ってくれるということでいいんですか?」


華菜の心が破裂してしまいそうなくらい激しく鼓動していた。完全に告白の答えを待つ少女と化している。


「そんなこと今さら聞かなくてもわかるんじゃない?」


「つまりそれって……」


「あなたが一緒のチームにいてくれたら凄く頼もしいわね。楽しみだわ」


ノーヒットピッチングをされたのだから頼もしいが適切なのかどうかはわからないが、由里香が野球部に入ってくれるという事実の前ではそんな些細なことはどうでもよかった。


「やった! よろしくお願いします!」


華菜が握手の為の手を差し伸べた。千早のせいで、すっかり華菜も握手が習慣になってしまっていた。だが、そんな華菜の握手の手を由里香は握り返そうとはしなかった。


「ちょっと待って」


「え?」


「正式な回答はまだ待ってほしいの」


「入ってくれないんですか?……」


華菜は突然崖下に突き落とされた気分になる。再び涙がこみ上げてきそうなくらい動揺してしまう。

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