第96話 お呼び出し致しますわ②
「ねえ、一体旧第2校舎に行って何をするつもりなの? 私木川さんにそんなところに連れて行かれる心あたりがないんだけど?」
「ボクは心当たりあるし、きっと着いたら湊さんも用のある子が待ってると思うから」
「ふうん」
納得したのか納得していないのかよくわからないような曖昧な返事が返って来た。
2人は校舎から少し離れた
黙って歩いていると、突然由里香が不安そうに口を開いた。
「ねえ、もしかして私の事呼び出してボコボコにするとかじゃないわよね?」
「そんなことしないって」
美乃梨は笑った。初めて華菜と千早に出会った時に危うく誘拐犯か何かに仕立て上げられそうになったことを思い出す。
由里香のことを勝手に今までのマウンドでの佇まいとか教室内でのカリスマ性とかを見ていて、クールでとっつきにくい人だと思っていたけど、もしかしたら案外純粋で楽しい人なのかもしれない。
野球部に入ってくれたら戦力としてはもちろんだけど部の雰囲気もさらに良くなるかもしれないな、と美乃梨はひそかに期待した。まあ、うまくいくもいかないも華菜次第ではあるところだけど。
「さ、ついたからボクはここで」
「私1人で行けってこと?」
「うん。もう入り口のところで待ってるよ」
美乃梨がまだもう少し距離のある旧第2校舎の出入り口に向けて指を差す。そこにはとても緊張した表情をした華菜が立っていた。
「え? あの子に会えってこと?」
「そう」
美乃梨の返答を聞くよりも先に、由里香が踵を返して本校舎の方に戻ろうとしたので、慌てて美乃梨が由里香の手首をつかんだ。
「待ってよ」
「ムリ、私帰るわ。あの子に会うなんて聞いてないから」
「華菜ちゃんの何が嫌なのさ? 中学時代に2人の間に何があったのかは知らないけど、せめて華菜ちゃんに謝る機会くらいあげてよ! 湊さんの為にこんだけ必死に華菜ちゃんは頑張って来たんだよ?」
由里香が頼んだわけでもないことだから、華菜が頑張って野球部を作ったのは華菜の自己満足かもしれない。
だけど、華菜が野球部を作るためにどれだけ苦心してきたか、近くで見てきた美乃梨としては、華菜が由里香と話す機会すらもらえないことは納得がいかなかった。
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