第97話 お呼び出し致しますわ③

「知ってるわよ……」


由里香がポツリと呟いた。


「あの子がどれだけ頑張ってくれているかなんて、毎日放課後にグラウンドから聞こえてくる音を聞いていれば嫌でも伝わってくるわよ……。だけど、私が身勝手に突き放してしまった子と、どんな顔して会えばいいのよ?」


「え?」


てっきりずっと、由里香は華菜に対して怒っているから会いたくないのだと思っていた美乃梨は困惑する。今の由里香の言いようだと、まるで華菜に対して罪悪感を抱えているから会いたくても会えないかのように聞こえてしまう。


「突然連絡を無視してしまって、そのうえ入学してきて教室まで訪ねてきたあの子のことを知らないふりしたのよ? それなのにもう野球をする気のない私の為に健気に頑張って野球部を作ってくれている子に、どんな顔して会ったらいいっていうの?!」


「待って、華菜ちゃんのこと怒ってるんじゃないの?」


「私は自分のコンプレックスのせいであの子のことを身勝手に遠ざけてしまっている自分に腹が立ってるのよ」


「じゃあ、別に華菜ちゃんのことが嫌いで避けてるって訳ではないんだね?」


「嫌いになんて……。なるわけないじゃないの……」


由里香が俯きながら、声を絞り出すようにして呟いた。


「ねえ、それならせめて話だけでも聞いてあげてよ。最後に入部するかどうかは湊さんが決めることだって華菜ちゃんもわかってると思うんだ。もし強引に勧誘しようとしたらボクも止めるからさ。一度華菜ちゃんと2人で話だけでもしてあげて欲しいんだ」


そこまで言うと、美乃梨はどこか寂しそうな目をしながら由里香の顔から視線を逸らした。


「でなきゃこのままずっと、湊さんに後ろめたさを感じたまま野球をやめてしまう華菜ちゃんが可哀そうだよ。せめて納得してからやめさせてあげて欲しいんだ」


「やめる? あの子が? せっかく野球部を作ったのに?」


静かに美乃梨は頷いた。今どう思っているかはともかくとして、少なくとも野球部を作るという話になったとき、華菜は由里香が入ってくれなければやめると言っていた。


「わかったわよ……」


由里香が旧第2校舎に向けて歩き出した。美乃梨は静かに華菜に向かって親指を立てる。美乃梨に背を向けている由里香からは見えないように。


これからいよいよ華菜にとっての大事な説得の時間が始まるのである。

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