第84話 最後のピースを探して③

「どうしてそんな話を私の前でするのですか?」


必死に無感情を装って怜に聞いてみるが、声が震えてしまっていた。


「ふふっ、いえ、別に深い意味はないですわ。ただ、キャッチャーのできる方がもしこの学校にいらっしゃったら、わたくしとても助かると思っただけですわ」


怜は不敵に、桜子を見下ろす形で微笑んだ。桜子は怜のことを睨むように見上げた。


「うふふ、そんなに怖い顔なさらないで欲しいですわ。それでは、わたくしこれから用事がありますので一旦帰りますわね。また来ますのでゆっくり考えておいて頂きたいですの」


それだけ言うと怜は生徒会室から去っていった。



「読心術でも使えるのですか、あの人は……」


桜子は1人になった生徒会室の中でぽつりと呟いた。触れないで欲しい場所に次々と踏み込んでくる怜のことはやはり苦手だった。桜子はストレスで、無意識のうちにボールペンのノック部分を連打していた。


その直後に再びドアの開く音がして、怜が戻って来たので桜子は思わず体を震わせてしまった。机の上にカランとボールペンの落ちた音がする。


「1つ言い忘れてましたわ」


「な、何ですか?」


「わたくしの怪我のお話はどうかご内密に。まだ美乃梨さんにも言ってませんので」


そんなに深い事情を教えてもらったわけでもないのに、怜は口止めをしにきた。怜にとっては、あまり触れられたくない話なのかもしれない。


「別に人に吹聴するような面白いお話でもなかったですから、誰にも言いませんよ。ですが、どうしてそんな大事な秘密を私に伝えたのですか?」


「一応、わたくしなりの誠意ですわ。わたくしだけ桜子さんの心の中にずかずかと入っていってしまいましたら失礼かと思いまして、わたくしも桜子さんに聞かれた通りに胸の内をお話いたしましたの」


「お気遣いありがとうございます。ですが、私は別に言われて困るようなことをあなたに言われた覚えはありませんから!」


100%強がりだった。もう桜子は怒りの感情や羞恥の感情を隠せなくなってしまっている。言葉とは裏腹に顔は真っ赤になって、語気も強くなっていた。


「あら、そうでしたわね」


クスクスと怜が口元を隠しながら笑う。すべてを見通されているかのような対応をされてしまい、桜子は何とも言えない嫌な気分になってしまった。


「それではごきげんよう」


怜が再び生徒会室から出ていった。


こんどこそ、怜が去ったあとの部室に1人残った桜子は、由里香にメールを打つ。


『生徒会の仕事が終わったら由里香の家に行ってもよろしいですか?』


返信はほんの数秒で返って来た。OKというボードを持った可愛らしいクマのスタンプが押されている。


ストレスを抱えてしまった日は、由里香と会って気持ちをリフレッシュしたかった。


桜子は大きなため息をついた後、引き続き資料確認の作業を再開した。

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