第68話 華菜と千早の作戦会議③
「でもとりあえず、今回は今までに比べたら比較的簡単な作戦だよね!」
「そう?」
華菜はそんなに簡単だろうかと疑問に思う。凄美恋を野球に誘ったときのあたふた感を見たのは華菜だけだ。
「うん。だって今回のスミレちゃんは野球好きどころかバリバリの経験者で練習まで見に来てるんだよ? だったらもうあと一押しするだけで入ってくれるよ!」
「でも家の問題みたいだし、そんな簡単にはいかなさそうだけど?」
「そこはもう具体的に何が問題なのかストレートに聞いちゃうしかないんじゃないかな?」
「この前直接聞こうと思ったのに答えてくれずに逃げ帰っちゃったけど?」
「なら、次は追いかけて捕まえて聞こうよ!」
「いや、でもあの子結構足速かったわよ?」
そう言うと千早がわざと大げさにため息をついた。
「まったく、華菜ちゃんは目の前に誰がいると思ってんの? 千早が捕まえてあげるから大丈夫だって」
千早がフフン、と得意げに胸を張る。普段他の子から足の速さを褒められても謙遜ばかりしている千早にしては珍しい。
ただ、事実として本当に速いのだから、自分の武器として自覚してくれている方が、今後本格的に試合をやっていくうえで良いことだとは思う。
「千早より足速い人なんてこの学校にいなさそうだもんね」
千早の足の速さは明らかにうちの学校のお嬢様たちとは一線を画している。
「ていうか千早に前から聞きたかったんだけどさ」
「ん?」
千早が口に加えたピザのチーズを伸ばしながら返答する。
「千早って、なんでそんなに足速いのに高校で陸上しようとか思わなかったの? あれだけ速かったら推薦とかも来そうなもんだけど」
「ん!」
千早がピザを持っていない右の手のひらを向けてちょっと待って、とジェスチャーで表現する。
「食べきるまで待つからゆっくり食べたらいいわよ」
前回一緒にここのお店に来た時も思ったけど、千早は本当に美味しそうに料理を食べる。料理を作った人もさぞ喜ぶだろうな、と思って華菜は千早のことを眺めていた。
「千早、そもそも陸上部じゃなかったから、推薦なんて来なかったんだよね」
ピザを食べ終わった千早が口を開いた。そう言えば野球部に誘ったときにもいろんな部活の助っ人にばかり行っていた、と言っていたような気がする。
「そんなに速いのになんかもったいないわね」
おかげで野球部の強力な1番バッターになってくれそうだから、華菜にとってはありがたいことではあるが、短距離でも活躍できそうな千早の才能を考えると、少し勿体ない気もしてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます