第67話 華菜と千早の作戦会議②

そういうわけで、華菜と千早は練習終わりに千早のバイト先のファミレスに来ていた。


ここに来るのは、“湊先輩こっち向け作戦”という華菜にとってあまり思い出したくない作戦について話し合って以来である。


「前に千早が言ってたずっと練習見てた子のことなんだけどね」


華菜が話を切り出した。


「華菜ちゃんが声かけに言ってくれてから毎日練習見に来てくれてるよね?」


華菜が、注文したピザを一切れ手に取りながら頷いた。今日は話を聞いてもらっているから、そのお礼という名目で、千早にも半分ピザを食べてもらうことにしている。


「でも美乃梨先輩が声かけたら逃げて行っちゃってたよね。千早と一緒で人見知りなのかな?」


千早が困ったように首を傾げた。華菜はこの間凄美恋から聞いたことをどこまで話してもいいのか悩んだ。


「人見知りではないみたいだけど、なんか野球とは深く関わってくれなさそうな感じなのよね」


「そうなの? でも、練習見に来てるってことは、きっと野球には興味あるんだよね?」


「興味あるというか去年まで野球やってたみたい」


「ええっ! じゃあすぐにでも声かけて部員になってもらおうよ」


「もちろんちゃんと勧誘はしたわよ」


華菜が大きなため息をついた。


「でもダメだったの?……」


「そう」


「野球部入りたくないって?」


「入りたくないというか、なんか家の都合で野球やったらダメみたい」


「家の都合?」


「そう。詳しくは教えてくれなかったけどね」


華菜はゆっくり頭を振った。


「なんで去年まで野球してたのに、突然今年になってから禁止されちゃったんだろうね?」


千早がピザを自分の取り皿に乗せながら、何の気無しに言う。


「言われてみれば……」


たしかに、家の方針で野球をやってはいけないというのなら、どうして去年の途中までは野球をしていたのであろうか。突然凄美恋の両親の育て方の方針が変わったとでもいうのだろうか。


「そう言えば、なんか中3になってから、大阪からこっちに引っ越してきたって言ってたわね。何かそれと関係あるのかも」


「何の関係があるんだろうね?」


華菜は腕組みをして宙を見つめながら、凄美恋との会話に何か他にヒントが無かったか、頭を回転させてみたが、とくにそれらしいエピソードは思い出せなかった。


「ってことはさ?」


千早がウキウキした様子で華菜に声を掛ける。


「ってことは?」


一緒に頭を悩ませ、真剣な顔つきをしていたのに、突然千早が楽しそうに話し出した。


「謎の見学者勧誘大作戦だよ!」


「ああ、また作戦名つけるのね……」


華菜が苦笑いをする。ウキウキした表情の理由は作戦名が付けられるからだったみたいだ。


「ちなみにその子、名前なんて言うの?」


そう言えばまだ千早には名前を言っていなかった。


「雲ヶ丘凄美恋だって」


「スミレちゃんかぁ。見た目通りのお淑やかで可愛らしい名前だね」


「漢字で書いたら賑やかそうで、見た目通りになるわね……」


千早はどういう意味かよくわからなかったのか、首を傾げていた。そしてポツリと、「スミレちゃん勧誘大作戦」の方がいいかな、と呟いていた。

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