第64話 大阪生まれのおてんば姫②

「イメチェンはまあ言いたくないなら一旦置いとくわ。けどそれよりも、なんでこんな木の陰からストーカーみたいにこっそりばれないように練習見てたの? 多分1週間くらい毎日見てたでしょ?」


本当は昨日気付いたばかりだが、1週間前から気付いていたと話を盛っておくことにした。


「ストーカーってひどない?! うちは5月入ってから毎日静かに練習風景を覗かせてもらってただけやのに!」


5月に入ってからということは半月以上、休みは挟んでいたにしてもかなりの長期間見られていたことになる。


「ずっとこの木陰で見てたの?」


「そうやで! みんなが野球やってたの見て、めっちゃわくわくしてたもん!」


少女の目がキラキラしていて、テンションが明らかに上がっていた。


「半月以上もここから人にバレずに覗いてたなんて、もはや忍者じゃない……」


華菜がため息をついた。だけど、これだけ熱心に野球部の活動を見てくれていたということは、野球に興味があるということ。部員を増やす大チャンスである。


「野球好きなの?」


「めっちゃ好き! 元スパローズの湊って知ってる? うち、めっちゃあの人の大ファンで中学まで野球やっててん!」


ずっと元気に喋り続けていたが、目の前の少女はそこからさらにテンションを1段階あげて話し出した。


「スパローズの湊って湊唯さんのこと?」


「そう、あんたも知ってるんやな! めっちゃかっこいいやんな! トップレベルの男子選手をぴしゃりと抑えるあの姿、めちゃめちゃかっこいいもん! うちも湊みたいなかっこいい選手になりたくて野球始めてんで!」


関西弁のお嬢様はうっとりとした目をしていた。恋バナでもしているかのようなとろけようである。多分自分も湊唯の話をしているときには、こんな顔になっているのだろうな、と華菜は苦笑した。


「まあ、たしかに湊選手がかっこいいのはわかるけど。なんなら私も湊選手に憧れて野球始めたし」


「あんたもそうなんや! やった、仲間やん!」


黙っていればお淑やかな、関西弁のお嬢様が元気に飛び跳ねて喜んでいる。本当は華菜も湊唯きっかけで野球を始めたという同士に出会えたことを、同じテンションで喜びたいところだが、2人してグラウンドのはずれで飛び跳ねるのも奇妙な光景なのでそこはグッとこらえることにした。


そして、こんなにも野球について熱く語ってくれる子なら、勧誘もうまくいくのではないだろうかということにも、華菜は内心飛び跳ねて、ガッツポーズでもして喜びたかった。

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