第55話 怜が見つけた双子ちゃん③

「で、あなたたちは何をしていましたの?」


「わ、私たちはほんとに何も……」


「さっき言った通りキスしてましたー」


真希が咲希を無言で睨んだ。


「という風におっしゃってますけど? そうなんですか?」


怜が真希の方を見ると、真希が視線を逸らした。そんな真希の姿を見ても咲希は笑顔のままである。真希の怯えた顔を見て、咲希が表情を変えてくれれば、少しでも咲希のことを理解できそうなのに、と怜は内心ガッカリしていた。


「まあいいですわ。とりあえずクラスと名前をフルネームで教えていただけませんか?」


「1年5組の菱野咲希ですよー。私の方が後から生まれたけど名前は咲希なんですー」


「そ、そうですのね」


終始居心地悪そうにしている姉とは違い、名前の覚え方まで披露するまったく物怖じしない咲希。同じ顔なのに反応が違い過ぎてさすがの怜も困惑してしまう。


「で、もう1人の方もお名前とクラスを教えていただけませんか」


「こっちは姉の菱野真希で――」


「わたくしはその真希さんという方から直接聞きたいですわ」


怜がビシッと言うと咲希はわざとらしく、大げさに首をすくめた。


「だってさ、おねーちゃん」


「……1年2組菱野真希」


咲希に促されて真希が渋々返答した。


「お二人は血のつながりがおありで?」


「双子だよー」


見ればわかるくらいそっくりだったが念のため確認しておくと、案の定双子だったかと怜は納得する。


とりあえず、怜は名前とクラスを忘れないうちに2人には黙って、勝手に野球部の部活動申請用紙に名前とクラスを書き込んだ。


そして、わざと大きく咳払いをしてから話し始めた。


「まずあなたたちのおこなっていた学内でのキスという行為は、学園の風紀を乱す危険な行為ですの。そのような行為をしたということは場合によっては退学もあり得ますわね」


もちろん、そのくらいで退学なんてことにはならないし、万が一、学校側がそれを理由に退学処分を検討なんてし出したら、怜は全力で止めるだろう。


だが、そんな怜の内心なんて2人は知らない。入学早々退学なんてことになったらシャレにならないだろうから、顔を青くして震えあがっている真希の反応は至って正常なのだろう。


むしろ、怜にはその横で子どもが絵本を読んでもらう時みたいにキラキラした目で怜の脅し文句を聞いている咲希の方が気になってしまう。これだけ感情の読めない同世代の子に初めて出会ったので、さすがの怜も困惑してしまう。


「ま、まあ、ですがわたくしも鬼ではございませんので、一つ交換条件ということに致しましょうか」


「交換条件……?」


「はい。わたくしちょっと人手が借りたいものでして」


「人手……?」


真希が必死に状況の整理をしようと怜の言葉を繰り返してくる。咲希は相変わらず楽しそうに笑っていた。

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