第54話 怜が見つけた双子ちゃん②

そして今日が、怜が華菜たちとの勝負に負けた次の日に当たる。つまり、メッセージを受け取ってから3日後のことになる。


怜はいまだに咲希の残していったメッセージが気になっていた。別に紙に気が付かなかったことにして無視してもいいのだろうけど、それはそれでなんだか負けた気がして嫌だった。


それに、上手くいくと野球部にとって都合の良い展開に持っていける。ちょうど彼女たちは2人で一緒にいるのだから。


「ま、とりあえず動いて見て、その後でどうするか考えることにしますわ」


怜は野球部部室(仮)の扉を思い切り開けた。2人のキスの真っ只中に。


「あなたたち、ここで何をやっておりますの?」


入り口側に背を向けていた真希が大慌てで怜の方を見た。いつも怜に背を向けていたので、見られていたことを初めて知ったのだろう。


同じ顔の2人なのに怜を見つめる2人の表情は全然違った。


見られたくないものを上級生に見られてしまった絶望の表情を見せる真希と、人懐っこそうに上手に笑顔を作る咲希。


「もう一度聞きますがあなたたちは何をやっておりますの?」


怜も別に糾弾する気持ちはないが、とにかく咲希の感情を探るには、可哀そうだけど少し脅かすくらいがいいのかも、とさらに声を大きくして尋ねる。


だが怜の戦略は外れた。元から怯えていた真希がさらに動揺して顔を青くして口をパクパクさせているのと対照的に、肝心の咲希は涼しい顔で怜のことを見ていた。


「キスしてましたー」


咲希が隠す気も無く、のんびりとした口調で答えた。


「ちょっと咲希!」


真希は小声で咲希のことを注意しながら睨みつけていた。そして慌てて怜に向けて逃げるための言い訳を伝える。


「あ、あの……わ、私たちそろそろ6限の授業が……」


「6限の授業は出なくても良いように、わたくしが取り計らって差し上げますので、詳しくお話を聞かせて頂きますわ」


怜がきっぱりと言い放つと、もともと絶望の表情を浮かべていた真希の顔がさらに青ざめた。真希からすれば先生に取り計らえるような人物に、校則違反の不純な行為を見られたのだから、動揺しても仕方ないことなのかもしれない。


真希が可哀そうになるくらい怖がっているので、もう教室に帰してあげたいところだけど、肝心の咲希はなんだか楽しそうな表情を浮かべていた。2人のちょうど間くらいの反応を求めていた怜はヤキモキする。

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