第43話 華菜VS怜③
ほんの少し
「えっとれーちゃんが華菜ちゃんのボールをバットに当てたからこの勝負は――」
「当たってませんわ」
美乃梨が言い終わる前に、怜が声を上げた。
「いや、れーちゃん、今ちゃんとバットに当たったよ?」
「あんな少し
なぜかルール上勝ったはずの怜が納得していない様子である。
「華菜さん、今のは空振りでいいですわよね?」
マウンド上で勧誘失敗を覚悟していた華菜に向けて、怜が確認する。
「私はいいですけど……」
「なら2ストライクから再開しますわよ」
「いいんですか?」
怜にとって損をする話になるのではないだろうか。華菜は腑に落ちず、聞き返した。
「わたくしは華菜さんたちに完勝して、お2人の作る野球部が如何にお遊びでふざけたものであるかをはっきりと証明したいのです。こんな結果では納得できませんわ。わたくしが華菜さんの投げたボールをホームランしたうえで容赦なく断る展開にさせていただきますわ」
華菜は一瞬、対戦相手からのそんな甘い提案を受け入れてもいいものか悩んだが、今は怜の加入が最優先。少し悩んだのち、提案をありがたく受け入れることにした。
「……わかりました。じゃあ2ストライクから再開ということでお願いします。でも春原先輩が勝つような展開にはさせません。私が三振取って春原先輩には野球部に入ってもらいますから!」
「じゃあ試合再開ってことでいいね」
「美乃梨先輩、その前にタイム取っていいですか?」
美乃梨が仕切りなおそうとしたところに千早がタイムの要求をした。
タイムを取った千早が華菜の元へと駆け寄る。当初の作戦通り千早がタイムをかけてやってきたが、まだ華菜の頭の中で何を投げれば良いかということは決まってはいなかった。
「華菜ちゃん、3球目フォークボール投げられる?」
「え? 投げれるっちゃ投げれるけど……」
1球目は内角高めのボールを微動だにせず見逃され、2球目は低めにうまく投げられなかった。想像以上にしっかりと対応してきている怜がバットに当てられないボールは何か。3球目に何を投げるか悩んでいた華菜としては、フォークを選択肢に入れさせてもらえると助かるといえば助かるのだ。
とはいえ、千早は野球初心者でキャッチャーは今日初めてやるのに、上手く捕球できずに怪我でもさせたら可哀そうだ。
「あんまり無理して怪我してもダメだし普通に直球にするわよ」
返事がないので千早の方を見ると、頬を膨らませながら華菜のことを睨んでいることに気が付いた。昨日の怜と違って睨み方に迫力は全くないが、千早にこんな表情を向けられるのは華菜には珍しいことだった。
「華菜ちゃんってさ、千早の事ぜんっっぜん信用してないよね!」
「え?」
どうしてそんな話になったのかわからなかったが、千早は怒っていた。
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