第39話 対決に向けて③

「とりあえず、勝負の条件はかなりきついよね。華菜ちゃん、ハンデつけ過ぎだよ」


美乃梨が苦笑いをする。


「もともと1球でもバットに当たればれーちゃんの勝ちっていうルールだけでもかなり厳しいのに、それに加えてボール球を投げた時点で華菜ちゃんの負けにするなんて」


「あの時は春原先輩がそんなすごい人だって思わなかったのとちょっとエキサイトしちゃったのとで……」


あの時点では怜のことをただのお嬢様かと思っていたので、売り言葉に買い言葉でハンデを上乗せしてしまったが、バレーボールで全国に行ったことがあるとなれば話は変わってくる。おそらく初めてやる野球でも全く対応できないということはないだろう。


それに、華菜自身がどのくらい狙ったコースに投げられるのだろうかという不安もある。コントロールを最優先にして、球速や球威を無視して投げても難しいのではないだろうか、と不安は尽きない。


しかし、華菜が不安になることで千早にも不安が伝染してしまいそうなので、無理やり余裕を持ってふるまうことにした。


「でも言ってしまったことはもう変わらないのでとにかく明日ルールの範囲内で春原先輩を抑えるまでです」


「ま、そうするしかないよね。ちなみに華菜ちゃんって変化球とかはなげれるの?」


「一応ほとんど落ちないフォークだけなら」


小学生の頃に遊びで投げていたフォークは、華菜が投げられる唯一の変化球である。実践ではそもそも投手として試合に出たことがほとんどないので,

投げた事もないが。


「ほとんど落ちなくても今回の相手は初心者のれーちゃんだし上手く空振りとれるかもよ?」


初心者相手なら華菜のフォークもどきでもなんとかごまかせるかもしれない。ただ、今回の対決に参加するメンバーで初心者なのは怜だけではない。


「変化球は千早の負担が大きすぎるんで今回は直球だけにしようかなと思ってます。ただでさえ難しいキャッチャーをやってもらうので」


まだ硬球の扱いにも慣れていないのに初めてキャッチャーをやってもらう千早に、いくら華菜の不格好なフォークといえども変化球を受けてもらうのは負担が大きい。


「なるほどね」


「せっかくなんでついでに明日の配球についても相談させてもらってもいいですか?」


一般的に日本では、投手が投げる球種やコースを考えるのは捕手の仕事とされていることが多い。しかし、今回千早にそこまで任せるのは酷である。千早にはボールを受け取ること以上の負担は掛けたくなかった。


「もう配球も考えてるの?」


「はい、だいたいはもう決めてます」


美乃梨が腕組みをして華菜の意見に耳を傾ける。千早もその横で膝の上に手を置いて、前のめりの姿勢になって華菜の指示を聞く姿勢を整えた。


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