第30話 美乃梨の激励④
「でもどっちにしても野球部設立の方法はちゃんと考えないと。正式な部活動にするには最低あと3人は必要みたいだし……」
「そのことなんだけどさ、もう屋上って行った?」
「ちょうど今日のお昼に行って確認してきましたよ」
「どうだった?」
「霊はいませんでしたよ」
「あれ? 今日は珍しくお昼に居なかったのかな?」
「いや、お昼に霊がいる方が珍しいと思いますよ。まあどのみち今日はいなかったですけど。屋上にいたのは優雅に紅茶を飲んでる人だけでしたよ」
「いや、いるんじゃん! その優雅に紅茶飲んでる人だよ!」
「え?」
美乃梨が笑ったが華菜は言ってる意味がわからなかった。
「まあいいや。それでなにか話は聞けた?」
「いや、とくに何も話はしてないです」
「あれ? れーちゃんと話してないの?」
「霊ちゃん? そんな親しみを込めて呼んでるんですか?」
「むしろ華菜ちゃんこそれーちゃんのことをれいって呼び捨てにしてるし、会話もしてないのにいつの間に親しくなったの?」
美乃梨と華菜がお互い顔を見あって首を傾げた。なんだか話が食い違っているような気がする。
「あの、もしかして屋上にいる霊が何者か知ってたりします?」
「あの人はボクの友達の春原怜って子だよ」
美乃梨の言葉に華菜が一瞬固まる。固まった後にワンテンポ遅れて頭の中で美乃梨の発言が繋がっていく。
「春原怜……れーちゃん……怜ちゃん……あ、霊じゃなくて怜か!」
華菜はようやく自分の勘違いに気が付いた。
「私も千早も勘違いしてたみたいです」
「そうみたいだね……」
美乃梨が苦笑した。
「いずれにしてもまだれーちゃんとは会ってないってことだね?」
「そういうことになりますね。千早がひどい人見知りみたいで初対面の人と話すのが怖いって言って、春原さんを見つけた後に走って逃げちゃいまして。とりあえず明日のお昼休みもう1度屋上に会いに行くつもりです」
「ぜひ会ったほうがいいと思うよ。多分野球部の話が一気に進展すると思うし、味方になってくれたらすごく頼もしい人だから」
美乃梨は力説するが、華菜が一目見た印象では頼もしさはあまり感じられなかった。どちらかというと頼もしい執事みたいな人にいつも守ってもらっている側に見えた。お嬢様のような見た目だし、お金に物を言わせて助けてくれるのだろうか。
「そんなにも頼もしい人なんですか? お金でトラブルをなんでも解決してくれるとかそういうことですか?」
「華菜ちゃんなかなか鋭いねえ。当たりではないけど大外れでもない感じだね」
曖昧な回答が返ってきたので華菜も首を傾げながら頷き、曖昧な反応で返した。
「まあ何にしても今は1人でもたくさん部員を増やさないといけないから、とりあえずボクの数少ない知り合いってことで紹介しておくよ」
「でも仮に5人にしたところであの生徒会長が野球部を認めてくれますかね? また難癖つけて野球部が作れないようにしてきたりしませんか?」
「その為のれーちゃんだよ」
どの為の? と華菜は聞こうかと思ったがやめておいた。聞いてもまた曖昧な答えが返ってくるだけだろうから。
「とりあえず明日その怜さんって人に会いに行こうと思います。美乃梨先輩もお昼休み一緒に来てくれませんか?」
「もちろん。初めからボクも一緒に行くつもりだったよ」
「じゃあまた明日それでお願いします」
こうして華菜たちは3人で屋上に佇むお嬢様に再び会いに行くこととなった。
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