第25話 感情的な生徒会長①

「湊由里香は絶対に野球部に入れます」


今日一番はっきりとした声で返答ができた。華菜自身が驚くくらい冷静な芯の通った声で。


ここでごまかして逃げてしまうと、由里香や生徒会長に対して戦わずして負けた気分になってしまう。それに一緒に頑張ってくれている千早や相談に乗ってくれた美乃梨に申し訳が立たない。


突然しっかりとした受け答えをした華菜に対して生徒会長がほんの一瞬だけ驚いて目を見開いた。一矢くらいは報えたのかもしれない。


生徒会長はすぐにまた元の冷たい視線に戻る。


「湊さんをあなたの自分勝手な都合で野球部に加入させて振り回すということですか?」


「別にそういうつもりは」


「あなたがどう思っていようと湊さんを野球部に入れるということはそういうことなのですよ?」


「最終的に野球部の部員を集めて湊由里香を誘ったうえで断られたらもう諦めます。少なくとも今の湊由里香の野球に対する気持ちもわからないまま諦めるのは嫌です。やれるべきことはやっておきたいんです」


「気持ちがわからないまま諦めるのが嫌? あなた一体何様のつもりなんですか?」


生徒会長の話し方がどんどん感情的になっていく。


「よりによってあなたにヒロイン面されたら由里香も不愉快極まりないでしょうね」


由里香の呼び方が”湊さん“から”由里香“に変わっていた。学校の生徒会長としての立場ではない、私情を挟んだ言い方で、明らかに知人として由里香のことを呼んでいるように聞こえる。


しかもその言い方は由里香と親しい者としての立場から、華菜のことを糾弾しているみたいだった。


「生徒会長は湊由里香のお知り合いか何かなんですか? 同級生という関係以外の何かがあるんですか?」


「私と由里香の関係性? 絶対あなたには言いたくありません」


生徒会長の言い方は“関係がある”と答えているも同然だった。


「そんなことよりも、あなたはどうして由里香が野球をやめたか分かったうえで、図々しくもこの場に野球部の申請をしに来てるのですか?」


「わからないんでそれを確認したいんです」


華菜は努めて冷静に答えた。


先ほどまでの冷静な生徒会長には何を言っても軽くあしらわれるだけだったが、今の感情的になっている生徒会長になら隙を突けばうまく野球部の承認をさせられるかもしれない。


「あなたには絶対あの子に関わらせたくないです。なんせあの子が野球を止める原因を作ったのはほかでもない小峰華菜、あなたなんですから!」


「私のせい?」


生徒会長から予想していなかった言葉が飛んできた。華菜の視界がぐらりと揺れた。

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