第26話 感情的な生徒会長②

生徒会長からの予期せぬ言葉に華菜の顔が青ざめた。


由里香が野球をやめたのが自分のせいである可能性なんて華菜は考えたことがなかった。


「ま、まああなただけのせいとは言えないですけど……」


想像以上に華菜がダメージを受けているのを察したのか、生徒会長の口調が少しだけ弱まった。


「あの、もし湊由里香が野球をやめた原因が私にあるんだったら、湊由里香に謝りにいかないといけないです。もし詳しい話を知ってるんだったら教えてもらえませんか?」


自分のせいだといわれても何が何だかわからなかった。


中2の秋にいつものようにスマホでやり取りをしていたら、突然既読無視をしてきたのは由里香なのだ。自分から勝手に連絡を絶って疎遠にしていたのは由里香なのだ。


どのやり取りを機に既読無視をされたのかは覚えていないが、少なくとも由里香の悪口とかではないはずだ。


あのとき由里香に憧れ、マウンドでの佇まいに魅了されていた華菜が由里香のことを悪く言うはずがなかった。


「絶対に教えたくないですね」


「そこをなんとか……」


生徒会長がため息をついて再び着席した。華菜はただただ焦っていた。


「私も暇じゃないのでこれ以上あなたとお話する時間は取れないです」


「私が湊由里香に何かしたんですか?……」


だんだんと華菜の声に元気がなくなってくる。


「さっきの話はもう忘れてください。少なくともあなたが何も関わらなければ、湊さんもあなたのことをわざわざ責めたりはしないと思いますので」


「責めるとか責められないとかの問題じゃないです! 由里香さんが大好きな野球から離れる原因を作ったのが私にあるんだったら野球部に入ってもらうとかの話以前に謝らないと……」


華菜の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


挑発とか呼びかけの意味を込めていた“湊由里香”とフルネームで呼ぶ呼び方も、もう意味がない。


ずっと由里香は自身の都合で野球を止め、その理由は華菜とは全く関係ない事だと思い込んでいた。


だから華菜が説得し、奮起を促すことで由里香も自信を取り戻して野球をまた始めてくれると思っていた。


それなのに華菜のせいで止めたとなると話は変わってくる。


華菜が由里香を野球から遠ざけたのに、再びその由里香に華菜が野球を始めるように促すなんて自作自演以外の何物でもないのではないだろうか。


華菜の頭の中に様々な感情が渦巻いていく。


「謝るよりももう会わないことが湊さんの為かと思いますよ。あなたはあなたで湊さんのいない野球部を作るなり、勉学に励むなりしたほうがよろしいかと」


生徒会長は机の上に置いてあった書類に手を伸ばす。


生徒会長の話し方は嵐が去った後のように、元に戻っていた。ただ無感情に華菜を諭した。


「忙しいのでもう帰って頂けますか?」


もう一度生徒会長に出ていくように言われて華菜は渋々生徒会室から出ることにした。


心当たりのない罪悪感を抱えたまま……

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