第24話 交渉失敗②

「部の設立には部員が最低5人は必要なのですよ。せめて部活動の申請をするのならそのくらいは確認しておいてほしいところですけど」


生徒会長が容赦なく正論で注意をしてくる。部の設立はもっと軽い気分でできるものだと思っていたし、華菜の予想では優しい生徒会長がもっと融通を効かせてくれるものだと思っていた。


「すいませんでした……きちんと5人揃えてもう一度申請しに来ます。」


「部活の申請には部活動申請用紙も必要ですのでお忘れなく」


「わかりました。申請用紙を持ってもう一度戻ってきます……ところでその紙ってどこでもらったらいいんですか?」


「生徒会長である私が持っているので、私からしかお渡しすることはできません」


生徒会長が持っているのならこの申請用紙を巡るやり取りをしなくてもそのまま渡してくれればいいのでは、と華菜は疑問に思った。


「えっと、じゃあその紙もらえませんか?……」


「申し訳ありませんが、部活動申請用紙はお渡し致しかねますね」


「え?」


華菜は困惑する。貰わないと部を設立できないのに、その紙を貰うことができないとは。


「申請用紙のお話をする前に私から質問があります」


答えるかどうか有無を言わせない強い口調で言い切られる。


「えっと……何の質問ですか?……」


華菜はおそるおそる生徒会長の目を見つめた。


「以前2年生の湊さんのところに行って啖呵を切ったと聞いたのですが、何か野球部設立と湊さんが関係しているのですか? 」


生徒会長の視線が鋭くなる。入り口近くで立っている華菜とは距離があるのに気圧けおされ、思わず1歩後ずさりする。一言二言会話をしただけなので、啖呵を切ったというのはかなり話が大げさになっている気がするが、由里香と野球部が関係あるもなにも部を作ることになった直接の理由である。


なぜ由里香の話がここで出て来るのかはわからないが、生徒会長にとっても由里香と野球部の関係を把握しておく必要があるということなのだろう。それがなぜなのかはわからないが。


「いえ、あの。関係はしてたりしてなかったりといいますか。あの……なんていうかそういう感じです……あと啖呵は切ってません」


生徒会長の勢いに負けてしどろもどろになってしまう。かなり曖昧な回答になってしまったことは華菜自身も自覚していた。


「何が言いたいのかよくわかりませんが、要するに言いたいことは野球部を作りたいことと湊さんはなんの関係もないということでいいんですね?」


「いや、えっと、まあ、そんな感じだと思います」


生徒会長が静かに念を押すが、どう答えれば正解なのかわからず華菜は再度曖昧な答えで話を流そうとする。


「その答えはYesの意思表示ということですね? 肯定したということは仮に何かの間違いで野球部の設立の要件を満たせたとしても湊さんには一切声を掛けないという条件をつけてもいいですね?」


1文字1文字それぞれに念のこもったような言い方をされる。


「いや、それは……」


華菜の目が泳ぐ。どうごまかせばいいのか悩んだ。


「い・い・で・す・ね?」


もう一度生徒会長が念を押してくる。なんとかこの場を上手く言い訳して先延ばしにして――


――いや、違う。今すべきことはごまかしではなく決意だ。


華菜は覚悟を決めた。

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