この空の下で

「何時でも意思は変えていいってよ。」

「やだぁなぁ。変えるわけないでしょ、今更。」

「先生たちだって自分が殺人犯にはなりたくないんだ。君が嫌だっていうなら、僕は…」

「自分が身代わりになるって?冗談やめてよ。あんたに代わりが務まるもんか。」

岬はムッとした顔でそっぽを向いた。

風に緑の匂いがまじり、もう春なんだと、否が応でも思い知らされる。

彼女の髪が、春風と遊ぶみたいに、弾んでいる。そっと髪を抑えて、彼女はこちらを向いた。

彼女は、悲しい顔をして、笑っていたから、なんて言っていいか分からなくなってしまった。

「……たくさんのものを見てきたよ。親の死ぬところ、友達の死ぬところ、ついさっきまで笑ってた人達の、死ぬ顔。いくら見たくないと思っても、習性や運命や本能って言われるものみたいに、予知するしかなかった。」

彼女は、一つ一つを思い出すように、ぽつりぽつりと話し始めた。


「嫌で仕方なかった。もう、失いたくないのに、どんなに頑張っても、無くなってしまう。死ぬ事の方が、どんなに楽なんだろうって、ずっと思ってた。

もう、家族も友達も、要らないって思ってた。」


彼女は顔をパッとあげた。

「でも、気がついたらお前が友達になってた。死神なんて言われて、誰も寄り付かなくなった私に、また友達が出来たんだ。」


僕は奥歯をギリリと噛んだ。そうしていないと、僕はきっと、このまま泣き叫んでしまうだろう。彼女に死なないで欲しいと、泣きついてしまうだろう。


「…輝、もう誰も失いたくないよ。」

彼女は泣きそうな顔で、笑った。

行かないで。行かないでくれ。

でも声には出さなかった。


「ほら、輝。見てご覧。

特攻の日に相応しい晴れの舞台だ。」


ハリボテと化した東京のビル群は、

半分以上、海に沈みながらもまだ人々の生活の足場として使われている。

一際高いビルの屋上からは、もう、水平線を遮るものはない。

夕日は今までに無いくらい、鮮やかで、

キラキラとしていて、その美しさで余計に僕の心がぐしゃぐしゃになっていくのが分かった。


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