森の中で

私の。心臓の音が聞こえますか?


とどめを刺すのですか?


良いですよ。


私は貴方の声が好きです。

煙のついた匂いも、冬の寒さで傷ついた唇も。

貴方が私に銃口を向ける、その時の眼差しも、愛しているのです。


人の姿をして、里に降りてみると

貴方はいつも孤独なのだと知りました。


貴方はただ1人、その業を背負って生きているのですね。

命を奪い、その命の尊さ故に心を蝕まれながらも、生きようとする貴方は、とても美しかった。


この村に飢饉が訪れる事は知っていました。

村の人の命の為に、次々と、獣を殺していく貴方は、とても苦しそうでした。

でもやはり、それでも貴方は美しかった。



そして、貴方は私に銃口を向けたのです。

貴方はきっと知っていたのですね。

これから飢饉は何度でも訪れる。

その度に支払われる犠牲は、この1度限りではないと。

終止符を打つためには、この森を支配しているものを殺し、森を人間のものにする他ないと、分かっていたのですね。


「すまない…俺は…」

冷たいナイフが心臓の隙間に抉り込む。


いいえ、貴方は悪くない。


でも、賢い貴方なら知っているはず。

龍を殺したものは、龍の呪いにかかり、死んでしまう。

貴方も死んでしまうのですよ。


龍は最後の力を振り絞り

白い体をくねらせて、男の身体を囲うと、男はそれが合図であるかのように、その龍の体に凭れ、静かに息を引き取った。


白い白い雪が山に落ちる。

音もなくただ、白を落としていく。





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