第4話

 実は今日、あのアリシアとロナルドが密会すると連絡が入った。


 何故、そんな事が分かるかというと、公爵家の諜報員を総出して調べさせたの。勿論、発端の王家にもね。だから王家の影たちの協力も得ている。


 そこまでするなら、普通に断罪でもいいんじゃないかって?


 それじゃあまた同じことを繰り返すでしょう。きっちり反省してくれなきゃあ、同じ目に遭った他の令嬢たちだって可哀想。


 第二王子ユリウス殿下の側近のドロッセル公爵家の次男オーガスト。騎士団長のガイザスの嫡男レイザック。魔塔の主この国最高魔道士エメリックの嫡男ローラン。そして、ウィルソン商会の嫡男ロナルド。


 彼らはアリシアの虜になって学園の規律を乱した。側近達にもそれぞれ婚約者がいる。あの学園最後の卒業パーティーで同じように謂れのない罪で断罪され、婚約破棄された?というのは建前で、彼女たちはそれより半年前の段階で婚約を解消している。知らぬは本人たちだけ。


 私が自分で報復すると言ったら、令嬢たちは好意的で協力してくれている。


 その彼女らの情報をまとめてくれているのがラインハルト殿下。


 だから今、彼らの密会している現場に向かっている。


 最近流行の恋人たちのご休憩場として有名な喫茶店。


 【モン・シェリ】


 そこの二階にある部屋は個室になっている。勿論、喫茶店なのにベッドや浴室までついている。


 なんでもそこは元々、娼館だったものを改装している。


 昼はカフェ。夜は淫らな営みが行なわれている爛れた場所。


 うーん、本当は純情無垢なアレン君をそんな穢れた場所に連れていきたくないんだけど、他の情報もあるんだよね。


 明日からロナルドは王都を離れて他の土地に行くらしいと。


 だから、今日が最後のチャンス。失敗するわけにはいかない。


 《アレン君は外で待っているだけでいいから》


 「でもセレンティア様だけで大丈夫なんですか?」


 《うん、大丈夫。だってここから先は何だしね》


 「それはどういう意味でしょう。僕にはよく分かりません」


 そこに、ロナルドがアリシアを連れてやってきた。アリシアはロナルドに体をくっつけている。いや巻き付いているくらい。もっときちんと歩けないのかと思う程、そして、店に入る前に濃厚なキスをしている。


 その様子を見ていた。アレン君は顔が真っ赤になっている。


 《ほらね、ここはそういう場所なの。純情なアレン君が入ったら正体がばれちゃって大変な事になるから行っちゃダメ!》


 興奮して、耳と尻尾が出たらどんな目に遭わされるか分からない。殿下の大切な従者をそんな目に遭わせない為にも早急に済ませないとね。


 もうすぐ午前0時の鐘が鳴る。



 ゴーーーン ゴーーーン


 

 さあ、行くわよ。


 目的の部屋のベランダまで行くと、ロナルドとアリシアはベッドで裸になって睦あっていた。そこに私は得意の氷魔法で冷気を漂わせて演出を醸し出す。


 「なんだか、寒いなあ。おかしい、今は夏だぞ」


 キョロキョロと辺りを見回すロナルド。足元だけ姿が見えるように冷気を強める。彼らから見れば透けているドレスの裾だけが見える状態。


 「ヒイーーー、ロナルド、あれは何…」


 アリシアが私のドレスの足元を震えながら指を指している。


 「だ…誰なんだ。お前は…す…姿を見せろ!」


 虚勢を張るロナルドのすぐ目の前で、私は姿を見せた。にっこり笑ったのに


 「ギャ───ッ、お化け────」


 《むうう、失礼しちゃう!誰がお化けよ》


 ロナルドは裸で部屋を出て逃げ出した。私は彼を追いかけて横からひょいと顔を覗かせると


 「やめろ───、許してくれ───、俺はアリシアに言われた通りにやっただけなんだ───」


 恐怖に怯えた表情で、彼は自分のしたことを白状しながらひたすら走っていく。


 何事かと各部屋に籠っていた客が彼の姿を見ている。勿論他の客には私は見えていない。


 彼は激走しながら、店の前に来ると立ち止まって振り返った。


 そこには最後の仕上げで、口から血を流した私の顔のドアップがある。ニタリと口角を上げて笑うとあっけなくロナルドは泡を吹いて気絶した。


 すかさず私は氷漬けにしたのだった。


 まあ、一晩経てばこの暑さ昼までには溶けるでしょう。


 ん─っ、いい仕事した。


 満足した私は、ご機嫌でアレン君と王宮に帰って行った。


 


 その後、ロナルドは氷漬けにされた所為で彼の大事なものは凍傷にかかったらしい。治って使い物になったかどうかは知らない。


 何故って、私はそんなことには興味がないから……

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