第39話 溢れる死、零れる想い(5)

 公園につくと暗く赤い空には群青が混ざり、夜がそこまで近づいてきていた。


 露天でひしめき合っていた公園は、真ん中にたこ焼き屋が一軒あるだけだった。


 ガランとした闇夜の中に赤い暖簾と橙の灯りがぽつんと一つだけひときわ明るくついている。


 あたりには屋台で春日がひとり鉄板の上で千枚通しを動かしている以外に他に誰もいない。


 まるで怪談に出てきそうな眺めだった。


 赤木は春日には簡単に会えないと言っていたが、ガランとした寂しい公園に障害になりそうなものはみあたらない。まっすぐ歩いていけば、春日の屋台に辿り着けそうに見えた。


 だがキョー助は物陰に隠れたまま動けずにいた。またあの嫌な感じが腹の底でざわついていたのだ。


「行けばわかるか」


 キョー助が動こうとすると、冷たい手に肩を掴まれた。


「どうするつもり?」


 キョー助の後ろに由木が立っていた。キョー助は由木の手を振りほどく。


「さっき赤城さんに言った通りだよ。神様にこの異世界を見捨ててもらうのさ」


「神が……春日がこの異世界を見捨てるなんてありえない。あれの執着は普通じゃない」


「100年の妄執だって冷めるときは冷めるさ」


 由木が喉の奥を絞るように聞いた。


「あなたは春日のことが……好きじゃないの?」


「あんな美少女を好きにならないやつなんていない」


 キョー助は両手を上げておどけるキョー助に由木は探る目になるが、キョー助のよくできた笑顔に由木は諦めて目を閉じた。


「……私は何をすればいい?」


「あそこに行くのを手伝ってくれ」


 キョー助が親指で背後を指す。春日の屋台以外なにもない公園。しかし由木の顔が緊張する。由木もそこに何かを感じ取っていた。


「春日に近づいてどうするの?」


「目覚めのキス」


「真面目にやって……」


「わるい」


 キョー助はへらへらと笑うと春日の屋台へと歩き出た。


 由木はしばし動かず、キョー助の背中を見つめていた。


 キョー助は明らかにごまかした。由木に何かを隠した。しかし由木はキョー助の背中に向かって、タンッと駆け出した。キョー助についていくことに羽毛の先ほどの不安もなかった。


 なぜなら由木はキョー助の目を見たから。その目は遥かなどこかを見ていた。その場所は由木がいつか行きたいと願っている場所と同じだと思えた。


だから何も怖くなかった。

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