第38話 事実と修練
「そ、そんなはずねえだろ....。おっさんはそんな奴じゃねえ」
「本当にそう思う? あなたたちと会う前の話でしょ?」
「そうだけど。でもやっぱりおかしいって」
「いい? これは事実なの。私だって何の確証もなく母の言葉をうのみにしたわけじゃない。この町の多くの人がドラゴン討伐後のあいつのことを見ていた。なにより母の痛々しい足はそれを物語っていたのよ。これでどうしてあいつがやっていないって言えるの?」
彼女は目に涙を浮かべてカイに訴えた。それはとてもうそをついているような人間の目ではない。カイはどうしていいのかわからず、ただただ泣き崩れる彼女を見つめていた。
一方レオたちの方はというと、クリスの病室にてレオのトレーニングに励んでいた。
「もっと腰を落とすんだ!」
「も、もっと? これ以上下げられないよ」
ほかに人がいれば何ともおかしな光景に見えたことだろう。レオはスクワットを病室でしているのだ。
「だめだだめだ。下半身がしっかりしていればどんなことにも素早く動けるんだ。そんなところで妥協するな!」
「そんなこと言ったって、さっきからずっとこれやってるからもう足が限界だよ」
「自分で限界を決めたらそこまでの人間になっちまうぞ!」
もうこんなトレーニングを二時間も続けている。
「も、もうだめ」
「まあ、しょーがねえか。休む時はゆっくり休めよ。休むのもトレーニングのうちだからな」
トレーニングに夢中になっていた二人は気が付かなかった。病室の扉を開けて二人に近づいてくる陰に....
「休む時はゆっくり休め?」
クリスが振り向くとそこには....
看護師長さんが!
「あ、これは看護師長さん。ご機嫌いかがですか?」
クリスが苦笑いしながら言うと
「機嫌がいいように見えますか! いいわけないでしょ!」
と耳をふさぎたくなるような大声で言い放った。
「休まなくちゃいけないのはあなたのほうですよ! わかっているんですか?」
「はい、すみませんでした」
クリスも看護師長のあまりの剣幕に押されておとなしくベッドに横になった。看護師長はクリスの身の回りのことをさっと済ませて
「見回りに来るのでちゃんと休んでいるように!」
としっかりくぎを刺していった。
「怒られちゃったね」
「まあ、しょうがねえな。自分が一番トレーニングを怠ってたってわけだ」
クリスは笑いながら言った。
「じゃあ、一緒にトレーニングだね」
そういって二人で笑っていると病室の扉がガラガラっと開いた。
「看護師長さん見回り早すぎないですか?」
とおどけて振り返るとそこにいたのは看護師長ではなかった。
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