前のエピソード――第30話　炎(えん)

　クリスは炎に包まれた....かにみえたが炎が消え去るとそこにクリスの姿はなかった。

「な、なぜだ。たしかにそこにいたはずだ！　くそっ！　どこ行きやがった！」

そう言うと少女はその場を立ち去った。

ー数分前ー

「なんだって！？　クリスがまだ中に？　すぐに助けに行かないと！」

レオは屋形の中に入ろうとするが、ルーインが制止する。

「クリスならきっと大丈夫だ。すでに私の部下に探しに行かせた。それに君たちを探しに行ったのだから部屋にいなかったらすぐに外に出てくるだろう」

「だけど....」

「クリスのためにも君たちを危険に晒すことはできないんだ。わかってくれ」

「わかったよ」

しかしその次の瞬間、大きな炎が屋形の屋根を突き破った。それをみてレオは走り出した。しかし、ルーインの部下に捕まってしまう。

「どーして！」

「だめだ！　危険すぎる！」

しかし、カイはうまくすり抜けてすごいスピードで館の中に入っていった。

「カイ！　頼んだよ！」

レオの声は届いたようで拳を天に突き上げたように見えた。

「くそっ、なんてことだ。煙で匂い側からねぇ」

カイは中に入った途端鼻を押さえた。得意の嗅覚を生かすことができなかった。しかし、幸いなことに耳はとても役に立った。会話が聞こえてきたのだ。これは....クリスの声とあの少女か？　近づいていくが少女の様子が変だ。炎の精霊のようなそんなイメージだ。クリスは火傷を負っているようで、逃げられそうにない。カイは少女が腕を上げた瞬間とても嫌な予感がした。

「これはまずい」

カイはものすごいスピードで走った。風よりも速く、音にも勝るスピードで

ースキル《疾風》ー

戦いの中でカイはスキルを習得していたのだ。目にも止まらぬ速さで移動ができるスキルだ。今までもかなりのスピードで移動できていたが、スキルでさらに速さが上がっている。その速さは上位スキルの域だ。

ーエキストラスキル《疾風迅雷》ー

さらに加速してエキストラスキルへと昇格したカイを少女は捉えることができなかったのだ。炎に包まれるまえにクリスを抱えてカイは屋形の外に出ることができたのだ。