第4話 異質な学校?

「入学式が終わったらまた話そう。」


 あの後、陽輝はそう言い残して美羽と入学式の会場へと向かった。

 自分達以外誰もいなかったとは言え、あの場で暴露するわけにはいかない。


「入学式ももう始まるしね。」

「にしても酷くはないか陽輝君、あの状態で置いていくなど。」

「……」


 間を入れずに累は陽輝の後ろからそう言葉を発した。

 その声を聞いて陽輝は苦笑いを浮かべると、何か訴えるように美羽に顔を向ける。

 美羽は溜息を吐いて首を横に振り、その表情は諦めろと言っているように見えた。

 陽輝達も元々撒くつもりは無かったが、こうも簡単に見つかるとは思っていなかったのだ。


 強い風が吹いて累が目を伏せている間に、陽輝はいつのまにか居なくなってしまっていた。

 しかし累には【妖力感知】があるため陽輝達の居場所の特定は容易く、あっさりと見つけたのだ。

 累は何事もなかったかのように笑みを浮かべて陽輝達の後ろを付いて歩いている。


「するよりされる方が恥ずかしいんだよ?」

「そうか、では別の敬意の払い方を考えないと。」

「いやいや、払わなくていいから。絶対やめてね。」


 陽輝は顎に手を置いて真剣に考え出した累を慌てて止めに入る。

 どうやら累が変わっているところは見る目だけではなさそうだと陽輝は感じた。


「まったくもう…って、え?…は?」

「…どうかしましたか?」

「いやいや、どうかしましたかじゃないよ。何これ?」


 入学式会場の扉を開いた陽輝は目の前に広がる光景に言葉を失い開いた扉を閉めてしまう。

 そして信じられないと言った表情で会場を指し、美羽達に何かを訴える。

 そんは陽輝に対して美羽は、首を傾げつつも閉められた扉をもう一度開けて、入るように促した。


「陽輝さん、そろそろ始まりますので中に入りましょう。」

「席は自由だそうだから、近くの空いているところに座ろうか。」

「え?何?君たち、目の前のが見えない訳じゃないでしょ。」

「「何が?」」

「…だから!なんでこの光景を見てそんな冷静なのかって聞いてるの!」


 陽輝の目の前に広がる光景は、沢山の者達が雑談をしながら入学式が始まるのを待っている様子だった。

 否、もちろんそれだけならば陽輝も驚いたりなどするはずもない。

 陽輝が驚いた理由はの数の少なさであった。

 否、正しくは妖力の少ないの人間がその会場に殆どいなかったのだ。


 遥か昔、人族以外のほとんどの種族がそれぞれ自分達の地を見つけ、この土地姿を消していく中、全ての者がそちらへと移り住んだかと言われればそうではない。

 中には人間を気に入り、この地で暮らしたいと言う者や、人間と番つがい、生涯をその者と歩みたいという者がいた。

 だが人族はそれを良しとはせず、いつまでも自分達の暮らす地に他の種族がいることが気に食わなかったようで、次々と残っている他種族を殺し始めたのだ。

 それによりほとんどの者は人間を見限り、それぞれの地へと姿を消したが、そうできなかった者達がいる。

 人族と他種族の間に出来た子、後に〔亜人族〕と言われるその者達は、純血ではない故に他の地へと行くことが許されなかったのだ。

 抵抗するように人族と戦争をしても、数の少ない亜人族には勝ち目などなかった。

 だから亜人族は生き延びていくために、人間に化けてひっそりと暮らし始めたのだ。

 そしてその者達の血が後世へと受け継がれていき、現代では〔末裔〕、ごく稀にその血を色濃く受け継いだ〔先祖返り〕がいたりする。

 それがなぜか陽輝の目の前には末裔や先祖返りのみならず、純血の他種族の者達で溢れかえっている。


「そりゃあの人から事前には聞いてたよ?!僕らみたいな子が他にも入学するって!そんなの5〜6人の少人数だと思うじゃん!なのに何これ?!僕の想像より遥か上の人数がいるんですけど?!え?何?僕の方がおかしいの?!」

「ちょ、陽輝さん、落ち着いて下さい。みんなが見てますから、あまり目立つことは…」

「は、陽輝君、何を言っているのか分からないがとりあえず座らないか?」

「だからなんでそんなに落ち着いてるのさ!明らかにおかしいっうぐっ!」

「分かりましたから、まずは座りましょう。ただでさえ目立つのですからこれ以上は目立つ行動を慎んでください。」


 美羽に口を押さえられ引きずられるように陽輝は空いている先へと連れて行かれる。

 累はこちらを見ている人達に頭を下げながら美羽の後をついて行った。

 そして美羽空いている席を見つけて陽輝を座らせると自分も隣に座り、口から手を離し、累は美羽とは反対側の席へと腰を下ろす。

 すると、ちょうど入学式が始まるようだったため、陽輝は落ち着きを取り戻すように大きく息を吐いた。


「……ごめん。」

「まったくです。目立たないように行動しないといけないのに自ら目立ってどうするのですか。」

「陽輝君は学園のことを聞いていないようだな。」


 入学式が進められる中、美羽がこの学校のことを陽輝に説明した。

 美羽の説明によると、この学校は表向きは普通だが、見ての通り普通の人間の学校ではない。

 ここ、[玖牢学園]は妖力や魔力の多い末裔や先祖返り、人族以外の他種族の者達が自分の身を守る術すべを学ぶための学園であるのだ。

 妖力や魔力の多い者は種族を問わず、妖や魔物に狙われやすく、力の使い方を知らないその者達は恰好の餌食になってしまう。

 幼い頃は御守りなどによって身を守られていたが、成長するに連れて妖力、魔力の使用容量が増えるため、御守りだけでは身を守れなくなってしまう。

 それは力を持て余している他種族の者も同様で、持っているだけでは人間と変わらない。

 だからその者達に妖力と魔力の使い方をこの学園で学んでいく。


 しかし、これだけ沢山の妖力、魔力の多い者が集まるのだから、それを狙って襲ってくる妖や魔物が当然出てくる。

 そのためこの学校には、魔物が入ってこない、尚且つ学生の集まった力が外に漏れないよう結界、もといセキュリティが施されているのだ。

 門をくぐる際、陽輝が感じた違和感はこのセキュリティによるもので学園の敷地内に入るためには登録をする必要があり、大抵の場合は合格発表の際に登録されている。

 だから登録されていない者は入ろうとした際に弾かれてしまうため、魔物や妖が入ってくる心配はない。

 もし隷属や従者を連れ入るのなら学園側に申請が必要となる。

 そう美羽が言い終わると陽輝は不機嫌そうな目で美羽を睨む。

 累が何か言いたげな目で美羽を見ていたが累が口を開く前に陽輝が美羽に文句を言った。


「…美羽、君は知ってたんだよね?知ってたから説明できたんだよね、なんで言わなかった…」

「えっ、えっと…その…」

「美・羽・ちゃん?」

「…あ、あの方が自分で説明するからと…」


 陽輝の問いに美羽はおどおどと答えた。

 美羽が意図的にそんなことしないと分かっている陽輝は美羽から予想通りの答えが返ってきたことに安心しつつも、深いため息を吐く。

 隣でシュンと項垂れている美羽の頭を「美羽は悪くないよ」という意味合いを込めて優しく撫でた。


「ここへ来るまで、というより私と出会うまでにここの生徒を見かけることはなかったのか?」

「見かけはしたけど、今のこの姿じゃ注意深く見ないと分からないんだよ、人数だって少数だと聞いていたし。だから彼らのほとんどが【隠伏ディスアピア】で本来の姿を隠していたなんて考えもしなかった。」


 陽輝は累からの問いに対して、少し不貞腐れたようにそう答えた。


 この地で生きる人族以外の種族は幼い頃に必ず【隠伏】を身につけさせられる。

【隠伏】は簡単に言えば軽い幻覚のようなもので、人間として見られるように、本来の姿を隠すために身につけるのだ。

 理由は言わずもがな、身につけなければ人族に殺されてしまうから。

 人族は自分達とは異なるものを嫌う傾向にある。

 現代は昔ほどあからさまではなくなってきているが、それでも毛嫌いしていることには変わりないのだ。

 だからこの地で平穏に生きていくためには必要な事なのである。

 累という例外もいるが、彼には【妖力感知】があるため【隠伏】が効かないだけであって本来効かない人間なんてそうそういない。


「今のこの姿ということは、君も【隠伏】を掛けているのか?本来の姿はまた別なのか?」

「いや、僕の場合は人間に【変化】していると言った方が正しいかな?本来の姿は、まぁそのうち分かるよ。」


【変化】は人間になりすましている状態のことを指している。

【隠伏】と【変化】の違いは、簡単に言えば隠しているか偽っているかどうかだ。

【隠伏】は身に付ければ誰にでも使うことができるが、【変化】に至っては使える者が限られており、妖怪族などは後者を得意としている。

 種族によっては妖力を使って【変化】している者もいるが、陽輝の場合は妖力の変化もほとんどないため、【妖力感知】できる累にも気付かれていなかったのだ。


 陽輝がそう答えると累はニヤッとした笑みを浮かべていて、その表情の意図がわからない陽輝は首を傾げた。


「今…人間ではないと認めたな?」

「え?…あっ!」

「あっはは、やはり君は面白い。」

「カマかけたな!汚いぞ!」

「これだけ様々な種族がいるんだ、今更気にすることもないだろう。」


 累がそういうと陽輝は少し戸惑ったように口を開いたが、それが言葉になる事はなくそのまま閉じて苦笑いを浮かべた。

 累は何気無く言った言葉であるが、陽輝にとってはそうでは無かったようで、隣にいた美羽が射殺さんばかりに累を睨んでいる。

 美羽の態度もが、陽輝が話してくれるまで待とうと累は前へと向き直った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る