第6話 幼き頃の男の子

それから数カ月が過ぎたある日の学校帰り、毬恵と帰っている時だった。



「こらーーっ!」



ビクッ

突然の怒鳴り声に驚く私達は周囲をキョロキョロと辺りを見渡す。



「テメーっ!待てーっ!」



そして私達の視界に飛び込んだのは




上の道路のガードレールを軽々と飛び越える人影



ドキン

何故か私の胸が大きく跳ねた。




「えっ…?ちょ…危な…」と、私。


「きゃあっ!」と、毬恵。



クルクル~


スタッ



人影はバク宙をすると私達の目の前に無事に見事着地する。



ドキッ

再び、胸が大きく跳ねる。




≪…す、凄い……≫




「こらーっ!劉騎ぃーーっ!覚えてろよーっ!」


「…えっ…?…劉…騎…?」と、私。


「知るかっ!バーーカ」



そう言うと、目の前にいる男の子は私達の方に振り向いた。



「悪ぃな」

「うわっ!やっぱり…」

「あっ!」

「もうっ!劉騎っ!危ないでしょう!?」

「うるせーっ!バカ、郁海」


「ば、バカって余計だよ!」

「劉騎君…大丈夫なの?」


と、毬恵は心配そうに尋ねる。



「勿論、大丈夫!」


と、笑顔で言う劉騎。




私達3人は一緒に帰る。



≪さっき…一瞬…あの時の男の子が過った…≫

≪あー、やだやだ≫



目を閉じて首を何度も左右に振る私。



「おいっ!郁海、大丈夫か?」と、劉騎。


「えっ?」



ドキッ


目を開けると至近距離でのぞき込んでいる劉騎に胸が大きく跳ねた。



「きゃあっ!近っ!」



押し離す。



「シワのない脳みそでもズレたか?もしくは頭蓋骨?」



イタズラっぽい笑顔を見せる劉騎。



「あ、あのねーっ!シワのないとか失礼だよ!」

「ええっ!?そうか?お前、シワなさそうじゃん?」


「酷っ!」




クスクス笑う毬恵。



「本当、二人って顔を合わせる度に喧嘩してるよね?」


「だって、劉騎が…」



毬恵の肩を抱き寄せる劉騎の姿。



「いや、だってコイツ、からかい甲斐あるから。でも、毬恵ちゃんには優しいから俺」



ズキン

胸の奥が小さく痛んだ。



私は、その理由が分からなかった。



だけど劉騎は誰にでも対等だ。


そんな気がした。





イタズラ好きで


いつも


私には意地悪言って


からかって


馬鹿にして


笑い者にして




だけど……




私以外の人には


優しい奴


そう感じたのは……



彼の存在が


何処か


幼い頃に逢った彼に


思えたから?



あの日の帰り道


思い出語ってしまった私


私の前で


鉄柵を軽々と飛び越えた


あの姿が


タイムスリップしたみたいに


私の心は


劉騎を


あの頃の男の子に


照らし合わせ始めていたのかもしれない ―――




















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