(5)
頑張ろう、と言ったな。あれは嘘だ。
と言いたくなるくらいに私は今ぐっちゃぐちゃだった。主に頭が。ぐっちゃぐちゃというか、ぐーるぐるというか。勢いのままに告ると決めて準備もしたけど、その準備がお菓子っておかしくないそれ今じゃただの日常だよ用意するならせめて手紙とかでしょ自分じゃわからなかったけど昨日の私よテンパっていたのかと自分に問い詰めたくなる。
ほんとにこれ渡して告白するの? 本気? なんてラッピングした袋から覗く猫の顔を見ながら考える。いいからはよ告れと言わんばかりのふてぶてしい表情が描かれてた。いや描いたのは私なんだけども。
どうするよこれもうどうしようもないよなあなんて考えて、ついでに深いため息もおなかの底から出てこようとして
「お、それおいしそうだな」
「どぅわぁぁぁぁ!? 藤島おはようっ!?」
割りと至近距離から肩越しに藤島の声が聞こえて反射的に距離をとる。ああもう心臓に悪いなぁやべえよこの人もういっそ殺せと確実に赤くなっているであろう顔をそらす。
なぜこんなに背後をとられるのか。そんなに私の背中はがら空きか。
「おう、おはよう。テンション高いな?」
実にいい笑顔である。恋する乙女のきゅんが出るよりも先に思わず手が出そうな爽やかさだった。ほんとに一発殴ってやろうか。
「びっくりしただけでテンション上げてるわけではないからね!?」
「そうなの?」
「そうなの!! っていうか、なぜ背後から声をかけるのさ」
「……そこに背中があったから?」
「よーし藤島ちょっとそこに直れ」
そして殴らせろ、という意味を込めて微笑んでやる。がしかし、止まるどころか逃げるように少し先を歩き出したので追いかける。藤島も本気で逃げてるわけではなかったので、すぐに隣に並ぶ。
「んでさ」
「なにさ」
「それ。くれないの?」
藤島の視線は私の手の中にあるクッキーに注がれていた。
「……珍しいじゃん。藤島が自分からねだるなんて」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
なぜなら何かを言われる前に渡しているからね。
なんていうとんちめいた回答はともかく、今すぐにこれを渡すのは気持ち的に
だけれども。
「欲しい?」
「ん?」
「これ。欲しい?」
自分で渡す決心をつけられないなら、いっそのこと他人に委ねてしまえ。そんな気持ちで聞いてみる。
さあ、どう出る? というか欲しがれ? 求めろ? ついでに私の好意も引っ付いてくるがな? と内心で少し煽ってみるも、心臓の音はすごいことになっていた。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、というか十中八九知らないだろうけど、藤島は答えた。
「欲しい」
「……おーけー」
心が追いついてくるかどうかはさておき、私がどうするべきなのかは決まった。あとは行動するのみ。
「でも放課後ね」
「え、今くれないの?」
「今はダメ」
「なんで?」
「時間が足りないから。そのくらい分かろうよ」
朝に告白して振られでもしたらその日一日地獄だろうし。
それなりにいろいろと無頓着だと自分では思うけど、さすがにメンタルが持たない自信がある。
「いや分からんて。何を分かれと」
「秘密。とにかく放課後ね。じゃあ私先に行くから」
「え、いや、ちょっと待」
何も聞かずに走り出す。そうでもしないと体が持ちそうになかった。
平然を装ってはいたけれど、心臓は痛いし顔は熱いし手も足も震えるしで大変なことになっている。多分あのまま一緒にいたら死んでたんじゃないかなぁなんていう思考も全力疾走で後ろに置き去りにしながら学校にたどり着いた。
「ありゃ。花楓、おはよ」
「どぅわぁ真央おはよう!!」
「うん。元気だね」
「びっくりしただけでっ、元気なわけではっ、ないからねっ!?」
絶賛息切れ中の人間に元気なんてあるわけないだろ。というか似たようなことさっきもあったな?
息を整えつつ恨みを込めて真央をにらむもスルーされる。
「んで、なんで走ってきたの? 始業時間までまだ時間あるけど」
「…………あー」
かくかくしかじか、と説明をする。
「なるほどねー。まぁ、うん、花楓にしては頑張ったんじゃない?」
「うん、頑張った。私頑張った」
「うんうん、えらいえらい。でも一個だけ忘れてない?」
「忘れ?」
「花楓と藤島君、同じクラスだから教室で結局顔合わせるじゃん」
「あ」
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