❀ 第肆部 第壱章 非常勤講師と七人の天使 ❀

第壱話 【 吾輩は猫である 】

 吾輩は猫である、名前はケダマ。これでも猫又という怪異にゃ。

 我がご主人である、異様な力を持つ人型の何かに名付けられた。

 こんな話し方をしてはいるが、これでもれっきとした雌だにゃ。





 吾輩のご主人は、【 不死月 灰夢 】という忌能力者だにゃ。


 実際に吾輩を拾ったのは別の人間だが、弱っている吾輩の為に、

 寝ることなく常に付き添い、餌を与えてくれた命の恩人だにゃ。


 それ故に、吾輩は他の雌たちではなく、この雄を主人と決めた。

 まぁ、獣に慣れているのか、撫でるのが上手いのもあるがにゃ。


「よく出来たな、ケダマ……」

「んにゃ……」


 我がご主人は、見た目こそ人間のような姿を保っているものの、

 戦いの時のとなると、異様なオーラを纏って人間を辞めるにゃ。


 かつて、死霊術師と呼ばれる骸骨を操る忌能力者と戦った時は、

 己の身に雷を宿し、大地へと降り注ぐことで周囲を焼き払った。


 吾輩が言うのもおかしな話だが、我が身を犠牲する能力なのに、

 何故か、死なずに帰ってくるという、正真正銘の怪物なのにゃ。


「ケダマも、だいぶ人間の言葉を覚えてきたな」

「……んにゃ?」

「あとは、普通に会話が出来ればいいんだが……」


 ご主人は知らないが、実は吾輩はいつでも人間の言葉を話せる。

 まぁ、普通に話せるようになると、構って貰えなくなりそうで、

 それが嫌だから、吾輩は言葉が分からない振りをしてるがにゃ。


「おっ、いたいた。灰夢くん……」

「……ん? どうした、蒼月……」

「さっき、梟ちゃんが探してたよ」

「そうか、分かった……」


 ご主人を呼びに来た雄は、【 鴉魔 蒼月 】という悪魔だにゃ。

 ぶっちゃけ、ご主人にも負けない、物騒な見た目をしているにゃ。


 何の悪魔かは知らないが、空間を入れ替える忌能力を持っている。

 あと、常に目を隠しているが、目隠しの下は何かヤバいにゃ……。


「ケダマちゃん、まだ言葉が話せない設定なの?」

「うっ……」


 このように、この雄は他の人間よりも、勘が鋭いのか分からぬが、

 たまにズバッと、相手の心を見透かすような言葉を急に吐き出す。


「灰夢くんも悩んでるから、気が向いたら普通に話してあげてね」

「シャーーーーッ!!」

「うわっ、なんで引っ掻くのっ!? やめてーっ!」


 それ故に、吾輩も少し苦手だにゃ──


「何をしているんだ、お前らは……」

「おっ、ミッチー。おはよ〜っ!」

「──んにゃっ!?」


 更に現れた、この言葉を話すクマのような姿をした謎の生物は、

 【 熊寺 満月 】という、全身がロボットで出来た何かだにゃ。


 心は人間らしいが、どこに人間の要素があるのか分からないにゃ。


 見る度に姿が違うので、一瞬で見分けるのは至難の業ではあるが、

 白い髪の少女を抱えているので、ある意味では分かりやすいにゃ。


「ましゅたぁ、ニャンちゅ〜っ!」

「あぁ、そうだな。ニャンちゅうだな」


 ニャンちゅうではない。吾輩の名は『 ケダマ 』だにゃ……。


「おや、ここに居たのですね」

「おねぇちゃん、みっけ〜っ!」

「ふふっ、見つけたのはわたくしですよ。白愛……」


 この娘は、【 夜刀神 恋白 】という、ご主人の付き人だにゃ。

 普段はお淑やかで、清楚っぽい見た目通りの性格ニャのだが……。


「大変なのです、カノンさんがお兄ちゃんを攻撃しているのですっ!」

「──なんですってっ!? よくも、わたくしの主さまに──」


 ご主人のことになると、途端に闇落ちしたような雰囲気になるにゃ。


「恋白さん、凄い形相で行っちゃったのです……」

「灰夢のことだから、どうせ一人で解決するだろうに……」

「ミッチーも行ったら? カノンちゃん、壊されちゃうよ」

「はぁ……。全く、どいつもこいつも……」


 今、外で暴れているロボットは、クマのロボットが主人なのにゃ。

 こんな風に、吾輩も拾われてからは飽きない毎日を送ってるにゃ。



 ☆☆☆



 外に出たら、ご主人が魔道兵器の頭だけを持って立ってたにゃ。


「不覚──。感電による拘束実験、失敗……」

「何かと思えば、いきなり刀を腹に突き刺しやがって……」


「おししょー……。完勝、です……」

「完勝なのかな? ししょー、お腹に刃物が刺さってるけど……」

「お兄さんもカノンさんも、手加減を知らなすぎるのです」

「というか、普通に今も腹から血が出てるんだけど……」

「それでも生きてる狼さんって、やっぱり凄く丈夫だね」

「いやいや……。丈夫というか、普通に人間じゃないですよ」

「幽霊の幽々さんが言うと、説得力が凄いのでやめてください」


 この娘たちは、ご主人が今まで死ぬ気で助けてきた雌たちだにゃ。

 ここまで雌を拾い集めるとは、さすが我が主といった感じだにゃ。


「なんか、凄い音したけど……」

「今の音は……って、ひゃぁあぁぁっ!?」

「ダークマスター、何してるデスかっ!?」

「なんか、生首持ってるんだけど……」


 あそこにいるのは【 精霊 】と呼ばれる自然界の霊的存在だにゃ。

 その大精霊をまとめる雌は、森の精霊の力を持っているらしいにゃ。


「お兄さま、お怪我を……」

「大丈夫だ、ミーア。すぐに治っから……」


 次に来たのは、どこかの【 姫 】と呼ばれる雌のトップらしく、

 常に膨大な量の魔力を持った、【 聖天龍 】を連れているのにゃ。


「ファントムさんも、もう少し動じてください」

「動じる必要もねぇだろ。不死身なんだから……」


 そんな二人も、前に主に救われ、今は共に過ごしているにゃ。


「リリィちゃん、おっはよ〜っ!」

「おはよう、蒼月……」

「ルミアちゃんも、おはよう……」

「おはよう、悪魔……」


「やれやれ、灰夢はんは相変わらずやなぁ……」

「狼くんたちは、今日も賑やかだね」

「賑やかというか、バカなだけですよ。雅弥姉さん……」

「そういう火恋は、どうして猫耳を付けてるでごぜぇますか?」

「それは、ボクらが『 猫耳で運気が上がる 』と言ったからさ」

「火恋姉は、何でも直ぐに信じるっすからね」

「沙耶姉さまも透花姉さまも、火恋姉さまで遊ばないでくださいっ!」


「この光景も……」

「夜影衆では……」

「もう見慣れた光景です」


 このくノ一たちは、ご主人の昔から仲のいい雌の子分たちだにゃ。

 最近、忌能力組織として公認され、仕事をしているみたいだにゃ。


「灰夢くん、ちょっといいかしら……?」

「……ん? どうした、霊凪さん……」

「あなたに、お客さんが来ているわよ」


 この雌は、店の女将という仕事を担っているウチのお偉いさんだ。

 良く分からないが、常に異様なオーラを纏っている気がするのにゃ。


「あら、ケダマちゃん。おはよう……」

「んにゃ……」


 この雌には逆らわないことが賢明だと、我の本能が言っているにゃ。


「……俺に客?」

「邪魔するよ。って、何してるんだい、お前さん……」

「灰夢殿は、相変わらずであるな」

「夜宵と魁心か。少し待ってろ、今、カノンコレを片付けてくるから……」


「いいよ、オレが直しておくから……」

「おう。悪ぃな。満月……」


「全く、お前も懲りないな。カノン……」

「反省──。情報が不足しておりました、次こそは──」

「次はないんだよ。頼むから、揉め事を起こさないでくれ……」





 こんな物騒な場所ではあるが、吾輩にとって大切な住処なのにゃ。

 これからも続く、主たちの面白おかしい非日常をお楽しみにゃっ!

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