第陸話 【 顧問 】
「お前さんには、この委員会の顧問を引き受けてもらう」
そう夜宵に告げられた灰夢と七人の女子生徒たちは、
唖然とした表情のまま、思考を停止させ固まっていた。
「──校長先生、本気ですかっ!?」
「あぁ、もちろんさ……」
智乃たちが驚きを隠せずに、何度も夜宵に確認する。
「だって、今の風紀委員には顧問がいないだろ?」
「それはまぁ……。確かに、そうですが……」
「それに、前の顧問を再起不能にしたのも他でもない、この男だからね」
「……は? ……俺?」
「覚えてないかい? 前に学校に来た時に、お前さんが泣かした男を……」
灰夢が桜夢の面接の時に、ボコボコにした男を思い返す。
「なんか居たなぁ、脂ギッシュな豚野郎が……」
「あの男が、元々の風紀委員の顧問だったのさ」
「いや、待て……。あの豚野郎は、仮にも副校長だったんだろ?」
「……そうだね」
「そんなやつが、一部活の顧問なんかしてたのか?」
「元々は、姫乃先生が引き受けてくれる予定だったんです」
「……予定だった?」
「はい。ですが、突然『 今日から僕が顧問だ 』と言い始めて……」
「そりゃまた、どういう成り行きだ?」
「大方、自分で勝手に顧問を引き受けたのだろう」
「……おいおい」
「この子たちや他の生徒からも、セクハラの報告を聞いていたからね」
「あの教師が風紀を乱してんじゃねぇか」
「イエス──。そのせいで、智乃姉さんともよく喧嘩をしていました」
「あんなクソ豚脂ギッシュ野郎、思い出したくもないわ」
ブツブツと不満を漏らす智乃を、灰夢が呆れながら見つめる。
「まぁ、そういうことだから、遅かれ早かれ処分はしていたよ」
「なら、俺が原因じゃねぇじゃねぇか」
「だが、お前さんがトドメを刺したことに変わりはないだろう?」
「……夜宵。お前、俺をハメやがったな?」
「人聞きが悪いね。あと、ここでは校長先生と呼びな」
知らん顔をする夜宵を、灰夢がしかめっ面でじーっと睨む。
「その償いとして、影無先生には風紀委員の新しい顧問をしてもらう」
「待て待て、顧問なんて冗談じゃねぇぞ……」
面倒くさそうな顔の灰夢を、智乃が横から不快そうに見つめる。
「この男が、私たちの新しい顧問……」
「確かに、前の顧問よりはマシみたいですが……」
「そもそも、女子だけの委員会に、男の顧問ってこと自体どうなの?」
「わたくしは構いません。校長先生のお墨付きですし……」
「イエス──。事実、前の顧問を消したなら、我々の見方のようです」
「鎖枝ちゃんも毬亞ちゃんも、この男に気を許しすぎじゃな〜い?」
「生徒と教師、禁断の愛……。ダメ、絶対にダメっ!」
「安心しな。この男には、あんたらに手を出す勇気なんかないよ」
「おい。手は出さねぇにしても、他に言い方があんだろ」
そんなことを話していると、智乃は小さく溜息をついた。
「まぁ、いいでしょう。学校の命令であれば致し方ないですし……」
「致し方なくねぇよ。そもそも、俺が納得してねぇんだが……」
「上の者の命令は絶対……。それが、社会においての常識……」
「常識って、お前なぁ……」
「大人のくせに、そんなことも知らないの?」
「知らないんじゃねぇ、俺は正論が嫌いなんだよ」
智乃に説得される灰夢を見て、ニヤニヤする夜宵の顔を、
灰夢が『 覚えておけ 』と言わんばかりに睨み続ける。
「我々は風紀委員は、風紀を乱すものを決して許さないわ」
「へいへい、左様で……」
「何かあれば、顧問であろうと処罰する。覚えておきなさい」
灰夢を強く警戒しながらも、智乃は渋々灰夢を認めた。
「はぁ……。そもそも、俺はずっと学校には居ねぇんだぞ?」
「大丈夫さ。この子たちは、普段から自主的に行動しているからね」
「自主的って……」
「そもそも、この委員会だって、この子たちが自分たちで作ったものさ」
「じゃあ、初めっから俺は要らねぇじゃねぇか」
「それでも一人は顧問を付けるのが、活動する為の条件なんでね」
「めんどくせぇなぁ、学校って……」
「人が集まるところには、規則がついてまわるものだよ」
「そういう束縛があるから、表社会ってのは性に合わねぇんだ」
灰夢は面倒くさそうに頭を搔くと、静かに外へと歩き出す。
「名前は貸しておいてやるが、問題は起こさねぇようにしてくれよな」
「ふん。こちらこそ、あなたの名前なんて必要ないくらいだわ」
「そりゃ助かる。まぁ、せいぜい頑張って風紀を守ってくれ」
灰夢は皮肉を言いながら、一人で教会を後にすると、
そのまま校舎を後にし、自分の家へと帰るのだった。
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