第漆話 【 天使 】

 その日、灰夢たち月影はいつも通りに、子供たちと食卓を囲み、

 なんてことの無い日常と呼べる程の平和な休日を過ごしていた。





「それでね、そのせんせーと仲良くなったんだよっ!」

「……そうか」

「あのセンセー、しなっちと似てて話しやすいんだよね」

「俺に似てるのと話しやすいのは、むしろ真逆な気がするが……」


 黙々とご飯を食べる風花と鈴音に、灰夢が話を振っていく。


「お前らはどうだ、風鈴姉妹……」


「……?」

「……?」


「学校、上手くやれそうか?」


「学校……。楽しい、です……」

「…………」


 どこか不満そうな顔の鈴音を見て、灰夢が眉をひそめる。


「どうした、鈴音……」

「みんな、風花ばっかりチヤホヤしてる」

「……は?」

「『 風花はかわいい 』とか、『 風花は天使だ 』とか」

「あぁ、なるほど……」

「スズだって、同じ顔で同じ見た目なのにぃ~っ!」


 ムッとした顔で喚く鈴音の姿に、灰夢が呆れて溜息をつく。


「まぁ、風花は存在そのものが天使だからな」

「……天使?」

「ししょーまで、ぬわぁ~っ!」

「おい、顔にくっ付くな。そういうところだぞ、鈴音……」


 ヤケクソになって灰夢に攻撃をする鈴音を、灰夢が引き離す。


「鈴音、お前にはお前にしかできないことがあるだろ」

「……スズにしか、できないこと?」

「確かに、風花は天使だが……。その分、妙な虫が寄ってきやすい」

「──ハッ!」


 キョトンとした顔で見つめる風花を見て、鈴音が目を見開く。


「そんな時、風花を守れるのは誰だ……?」

「スズしか、いない……っ!」

「そうだ。だから、他の奴にはできない重大な任務をお前に託す」

「ししょー……。スズを、信じてくれるの……?」

「当たり前だろ。お前は、俺の大事な一番弟子なんだから……」

「一番、弟子……」


 灰夢の言葉を聞いた鈴音が、パ~ッと嬉しそうな顔の変わる。


「ししょー……。スズ、頑張る……っ!!」

「これは、お前にしかできない。頼んだぞ、鈴音……」

「うんっ! ありがとう、ししょーっ!」


 そう笑顔で答えると、鈴音はパクパクと食事を口に運んでいた。


「お兄さん、相変わらず口が上手いですね」

「嘘は言ってない、一番初めに弟子になったのはこいつらだしな」

「まぁ、それはそうかもしれませんけど……」


 どこか不満そうな顔を見せる氷麗の横で、言ノ葉が灰夢を睨む。


「なんだよ、言ノ葉まで……」

「一番初めの弟子は、言ノ葉なのです……」

「お前の場合は弟子というより、家族としての印象の方が強いだろ」

「言ノ葉は家族であり、弟子であり、妹なのですっ!」

「ステータスの欲張りセットか、お前の中の俺は何なんだ……」

「世界最強のお兄ちゃんなのですっ!」

「無駄に壮大だな、俺……」


 子供たちの会話の中で、灰夢が風紀委員たちの存在を思い出す。


「なぁ、言ノ葉……」

「はい、どうしたのですか? お兄ちゃん……」

「お前の学校に、風紀委員っているよな」

「はい、居るのです。七大天使の方々が……」

「……七大天使?」


 言ノ葉が指を立てながら、分かりやすく説明していく。





 3年A組の【 天峰 智乃あまみね ちの 】先輩と、

 3年B組の【 天王寺てんのうじ 毬亞まりあ 】先輩。


 2年A組の【 天羽 真白あまはね ましろ 】ちゃんと、

 2年B組の【 天狼 氷雨てんろう ひさめ 】さん、

 2年C組の【 天霧 鎖枝あまぎり さえ 】さん。


 1年A組の【 天児 莉々亜あまご りりあ 】ちゃん、

 1年B組の【 天ノ川 心春あまのがわ こはる 】ちゃん。


 この七人の苗字に、全て『 天 』という字が入っていることから、

 校内では【 七大天使しちだいてんし 】と呼ばれ、都市伝説になっているのです。





「でた、都市伝説……。学生は好きだよな、そういうの……」

「あの人たち、そんな風に呼ばれてんだ……」

「何で、同じ学校なのに、お前は知らねぇんだよ。氷麗……」

「だって、私は言ノ葉みたいに友達が多くないですし……」


 氷麗が不貞腐れながら、黙々と自分の食事を口へと運ぶ。


「でも、どうして……。お兄ちゃんが知っているのですか?」

「あぁ、いや……。この間、夜宵に聞いて、少し気になってな」

「な、なるほど……」


 怪しんでいる言ノ葉から、灰夢が気まずそうに目を逸らす。

 そんな灰夢の傍に顔を寄せ、蒼月がコソコソと声をかける。


「『 七大天使 』とか言われると、別の七人を連想させるね」

「俺も思った。まぁ、さすがに別人だとは思うが……」

「校内に『 断罪ノ天使 エンジェリオン』が居たら、普通に大問題だもんね」

「全くだ。あんなのが生徒に居たら、教師の身が持たねぇよ」


 そんな話をしていると、店の扉に二回ノックの音が響いた。


「……おや、お客さんかな?」

「……俺が出る」





 灰夢が席を立ち上がり、ゆっくりと店の扉を開けると、

 天使の輪を付けた、見覚えのある少女の姿が目に入った。



























「また会ったわね、不死ノ影狼……」

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