第肆話 【 外面 】

 副担任に化け、校内の潜入調査をし始めた灰夢は、

 姫乃先生の行うホームルームを後ろから眺めていた。





「ということで、今日はホームルームだけで終わりですが、

 明日からは授業が始まるので、教科書を忘れないように……」


「「「 は〜いっ! 」」」


「それでは、一ノ瀬さん。号令をお願いします……」

「はい。起立、気を付け……。礼……」

「ありがとうございましたぁ……」


『 ありがとーございましたぁーっ! 』


 号令の中で目立つ声を上げながら、桜夢がキビキビと挨拶する。



( 桜夢には、まずTPOを教えるべきだったか )



「では、皆さん気をつけて帰ってくださいね」

「は〜いっ!」

「縁ちゃん、また明日ね〜っ!」

「はい、さよう……。って、また名前で呼びましたね〜っ!」


 ホームルームが終わると、子供たちは各自解散していった。



( まぁ、桜夢以外は特に問題なさそうだな )



 ホームルームが終わったのを確認し、灰夢が教室の外に向かう。

 すると、言ノ葉と話をしていた桜夢が、灰夢を見て駆け出した。


「あっ、せんせーっ!」

「……ん?」


 灰夢が桜夢の呼び掛けを聞いて、その場に足を止める。


「ねぇ、せんせー。せんせーも、今日からここに来たの?」

「あぁ、そうだが……」

「そっかそっか。じゃあ、ワタシと同じ一年生なんだねっ!」

「いや、それは違うだろ」

「……なんで? だって、今日から学校に通い始めたんでしょ?」

「あぁ……。お前と違って、仕事でな」

「生徒も先生も同じだよ。だから、あまり気を使わなくていいからねっ!」


 桜夢は灰夢の正体に気が付いては居なかったものの、

 何故か、太陽のような暖かい笑顔で慰められていた。



( なんで、俺……。こいつに気を使われてるんだ? )



 副担任に馴れ馴れしくする桜夢を見て、言ノ葉が慌てて止めに入る。


「桜夢ちゃんっ! それは、さすがに先生に失礼なのですっ!」

「だって、せんせーだけ一人なんて可哀想だもん」

「相手は先生ですよ? 別に、一人じゃないですって……」


「だって、自己紹介も失敗してたし……」

「いや、別に失敗したわけじゃねぇが……」


 可哀想な人を見るような目で、桜夢が灰夢につぶらな瞳を向け続ける。


「分かった、その気持ちはありがたく受けとっておく……」

「うんっ! これからも仲良くしようね、せんせーっ!」


 灰夢が素直に頷くと、桜夢は嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。


「つぅことは、ウチも一年生仲間じゃね?」

「はぁ……。また、なんか出てきた……」


 桜夢と灰夢の会話に混ざるように、鬼沙羅が横から入り込む。


「ウチも転校生だからさ。これからよろしくね、せ〜んせっ!」

「へいへい、どうも……」


 そんな子供たちの後ろから、帰りの支度を終えた氷麗が歩み寄る。


「ごめんなさい、遅くなりました……」

「あっ、氷麗ちゃんっ! 見て見て、せんせーと仲良くなったのっ!」

「……先生? あぁ、さっきの……」


 氷麗が教師に化けた灰夢を、無表情で見つめたまま灰夢を見て呟く。


「橘です。よろしくお願いします……」

「あぁ……。よろしくな、氷麗……」

「……は?」


 いつもの癖で灰夢が名前を呼ぶと、氷麗は冷たくキッと睨んだ。


「……どうした?」

「人の名前を、気安く呼ばないでください」

「……え? あぁ、悪ぃ……」

「…………。行きましょう、みなさん……」


 冷たい視線のまま、氷麗がスタスタと教室の外へ歩いていく。


「おーおー……。氷麗っち、激おこじゃん……」

「ちょ……。氷麗ちゃん、待ってくださいっ!」

「せんせー、また明日ね〜っ!」





 普段の祠での氷麗とは、見違える程の冷たいあしらいに、

 灰夢は思わず固まったまま、顔を一人で引きらせていた。



























( はぁ……。女ってのは、よく分からねぇなぁ…… )

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