第拾玖話【 死を招く術式 】
「全く、とんだ馬鹿力やわ……」
吹き飛んだ神楽が瓦礫を払い、霊鬼の方に視界を向ける。
その瞬間、まさかの光景に、神楽は思わず目を疑った──
「──なっ!?」
そこには、狼牙を庇うように両手を広げながら、
霊鬼に爪で腹部を貫かれた刹那の姿が立っていた。
「せ、つな……」
「ごめん、ね……。狼牙、くん……」
狼牙が目を見開きながら、その場で言葉を失う。
「──ヴアアァァアアァァアアァァアァッ!!」
刹那を握りしめ、咆哮を上げる霊鬼の姿に、
狼牙は立ち上がりながら、怒りの瞳を向けた。
「葛兵衛、テメェ……」
「──ヴアアァァアアァァアアァァアァッ!!」
「──クズベエエェェェェェェェエエエッ!!!」
憎しみと恨みの全てを込めた、二人の重く響く咆哮が、
大地を大きく揺らし、感情の重みを周囲に知らしめる。
「う、動けへん……」
「ろう、が……く、ん……」
そのあまりの圧力に、神楽ですらも圧倒されていた。
そんな中、狼牙が一人で霊鬼に向かって飛び掛かり、
刹那を救い出そうと、必死に攻撃を繰り出していく。
「──ヴアアァァアアァァアアァァアッ!!!」
「──ウオオオォォォォォオオオオオッ!!!」
霊鬼の腕に刀を突き刺し、咆哮と共に霊鬼が暴れる。
その衝撃で狼牙の首が飛び、身体だけが地に転がった。
それでも灰を纏いながら、狼牙が再び立ち上がる。
霊鬼に攻撃されるたびに腕は折れ、脚の骨も砕け、
拳の一振で、狼牙の身体が簡単に押し潰されていく。
だが、幾度と身体が傷つこうとも、肉体を再生させ、
必死に攻撃を掻い潜り、狼牙はひたすら立ち向かう。
霊鬼の一撃は大地を揺らし、木々を薙ぎ倒し、
咆哮一つで、周囲を吹き飛ばす程の覇気を放つ。
そんな状況でも、狼牙は諦めることなく立ち向かい、
血を流しながらも、刀を拾っては攻撃を続けていく。
そして、ついに、狼牙は空中へと投げ飛ばされると、
落下の勢いを利用して、霊鬼の左腕を切り落とした。
「──ヴァウゥッ!!!」
「これで……、──グハッ!?」
刹那を掴む霊鬼の左腕を、狼牙が切り落とすと同時に、
霊鬼が咆哮を上げ、右腕で狼牙を山の中へと殴り飛ばす。
その隙に神楽は走り出し、切り落とされた左腕から、
ぐったりとしたまま動かない刹那を助け出していた。
「──刹那はん、刹那はんッ!!!」
「か、ぐら……さ、ま……」
「あかん、かなりの精気が吸われとる」
「……わ、たし……は……」
「死んだらあかんよ、刹那はんッ!!!」
<<<
神楽が刹那の傷口に手を当て、忌術を使い治療を施す。
「──ヴアアァァアアァァアアァァアァアアアアッ!!」
「全く、どこまでも執念深い男やわ」
神楽が睨むように、咆哮を上げる霊鬼を見つめていると、
二人の背後から、吹き飛んだ狼牙がゆっくりと姿を見せる。
「お前の相手は、この俺だろ。クズ……」
「ヴァッ……」
その場に足を止め、狼牙が刹那の顔に視線を向けると、
刹那は気力のない瞳で答えるように、小さく微笑んだ。
「……ご、め……、ん……ね……」
「刹那……。俺が必ず、アイツの呪縛から救ってやるからな」
「……ろ、うが……く、ん……」
「だから、これが終わったら、静かなところで二人でに生きよう」
狼牙の言葉を聞き、刹那の瞳から一筋の涙が流れる。
「……狼牙はん」
「……神楽、刹那のことを頼むな」
そう言い残すと、狼牙は服の中から一つの巻物を取り出した。
「ヴゥゥゥ……」
「そう焦るなよ。今から、本気で相手してやっから……」
狼牙が怒り狂う霊鬼の前に、不敵な笑みを浮かべ、
本気の殺意を剥き出しにしながら、歩み寄って行く。
( これを使ったら、さすがに俺も死ぬかもな )
「──ヴアァァアァァアアァァァアアァァァアアッ!!!」
「安心しろ、テメェは地獄に行くんだ。俺と一緒にな……」
その言葉の終わりと共に、狼牙は一瞬で巻物を広げ、
中に刻まれた術式を、自分の身体に取り込み始めた。
( 刹那……。お前のことは、死んでも助けるから── )
【
そんな狼牙の行動を見て、神楽と刹那が目を見開く。
「あれは、死術書……。まさか、狼牙はん……。あんた、ホンマに死ぬ気で……」
「ろうが、くん……」
刻まれた術式は紅く光を放ち、狼牙の身体が湯気を上げる。
「おら、反撃の狼煙は上がったぞ。バケモノ……」
「ヴウゥゥゥ……」
一人の人間から放たれる禍々しいオーラに、霊鬼が怖気付く。
「……どうした?」
「ヴゥ……」
「そんな姿になってまで、俺を殺したかったんだろ?」
「ヴァウゥ……」
「だったら、死ぬ気でかかってこいよ──」
『 お前の恨みも憎しみも、全て俺が喰い尽くしてやるッ!!! 』
狼牙は獲物を見つめるように、ギロッと睨みを利かせると、
己の身体を破壊しながらも、目にも止まらぬ速度で加速し、
目の前に佇む霊鬼に向かって、迷うことなく襲いかかった。
( 最後にもう一度、俺に力を貸してくれ。みんな── )
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