第拾参話【 孤独な少女 】

 ロウガは城下町を後にし、屋敷へと足を踏み入れると、

 燃える火の手を掻い潜りながら、奥へと向かっていた。




( 刹那……。何処だ、刹那…… )




 そんな中、大名らしき人物の死体に目を止める。


「この二人が、刹那の……」


 無惨にも切り捨てられた夫婦の倒れた死体を見て、

 あまりの酷い有様に、ロウガも思わず言葉を失くす。



( 刹那がいない。まだ、どこかに…… )



 ロウガが再び足を動かしすと、屋敷の奥へと向かった。



 ☆☆☆



 ロウガが最奥の部屋の扉を開けると、真ん中に倒れたまま、

 動かない武士の姿を目にして、目を疑うような表情で固まる。



( なんだ、これ…… )



 全身の骨がボロボロに砕け、血液が溢れたような武士の姿は、

 まるで、肉体そのものが爆発したような無惨な姿をしていた。


「……ひ、め……さ、ま……」

「──お前、生きてるのかっ!?」


 倒れる武士の声を聞いて、ロウガが急いで駆け寄る。


「ひ、め……。……ひめ、さ、ま……」

「刹那は、刹那はどこだっ!?」

「姫さまを、助けて……やって、くれ……」

「あぁ、助ける。だから、あいつの居場所を教えてくれっ!」


 その言葉を聞いて、武士はロウガの顔を静かに見上げた。


「そなたが、姫さまの言っていた……。ロウガ殿、なのか……?」

「あぁ……。そうだ、俺がロウガだ……」

「そうか、よかった……。来て、くれたのだな……」

「……俺の事を、知ってるのか?」


「我は、赤松あかまつ 喜助きすけ……。いつも、姫の護衛を、していた者だ……」

「……喜助? お前が、刹那の……」

「姫さまは、いつも一人だった……」

「…………」

「あの方は、生まれた時から……。ずっと、孤独と戦っていた……」

「…………」

「そんな、姫さまが……。そなたに出会って、変わった……」


 喜助が傍に落ちていた、一つの古い巻物を差し出す。


「そなたなら、きっと……。姫の、お心に……」

「……これは?」

「使えば、死する……。代わりに、我が身に鬼を宿す……」

「お前、まさか……。これを使って、刹那を……」

「姫さまは、東の里の屋敷に……」

「…………」

「我が意志、そなたに託す……。刹那姫さまを、頼む……」


 そう言い残すと、喜助の瞳は光を失い、武士の人生に幕を閉じた。


「…………」

「…………」


 ロウガが喜助の瞳をそっと閉じ、ギュッと巻物を握りしめる。


「なんで、この世界は……。こんなにも、醜いみにくいんだろうな……」




 そう小さな声で呟くと、ロウガは静かに立ち上がり、

 微笑むように眠る喜助に向けて、優しく語り掛けた。



























  『 お前の意志、この【 夜叉神やしゃじん 狼牙ろうが 】が引き受けた── 』



























     ──そう告げるロウガの瞳は、獣のそれに変わっていた。
































『 待ってろ、刹那……。こんな世界、全て俺が喰らってやるから…… 』

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