第漆話 【 敵襲 】

 月影たちは、桜夢がいないことに気がつき、

 みんなでどうするかを、店の中で考えていた。





「この祠の中にいるって事は考えにくいか」

「多分ね。行くとしたら、外じゃないかな」

「なら、とりあえず外を探してくるか」


 そう灰夢が告げた瞬間、満月に一つの信号が届く。


「待て、灰夢……」

「なんだ? 満月……」

「クマたちから、敵反応だ。それも、かなりだ……」

「──ッ!?」


 それを聞いた灰夢たちが、恐る恐る外に出ると、

 大量の骸骨と悪魔が、店の周りを取り囲んでいた。


「あらあら、お客さんがたくさんね」

「おいおい、団体客の予約なんて聞いてねぇぞ?」

「雨の中だってのに、物好きな客も居るもんだねぇ……」


 次々と地面から湧き出る敵を前に、月影たちが呆れながら呟く。


「ふへへっ、美味そうな人間がいっぱいだなぁ……」

「女は殺すなよ、苗床にするんだから……」


「この様子じゃ、桜夢は既に回収されたな」

「まぁ、ここを出たら間違いなく捕まるよな」

「なら、あの子を見つけられれば、敵の居場所も分かるんけど……」


 そう蒼月が言うと、満月が機材を取りだした。


「正直、これは使いたくなかったが……」

「どうした、満月……」

「ほら……」


 満月が灰夢に、何かの位置を示す機械を渡す。


「お前、これ……」

「念の為、服を作った時にGPSを仕込んでおいた」

「たまに犯罪臭いすることを、サラッと言いますよね。満月お兄ちゃん……」

「そう言われると思ったから、使いたくなかったんだよ」


 言ノ葉の言葉に、満月が一人で落ち込む。


「満月……」

「万が一の備えだ。マザーが消えるまでは、何があるか分からないからな」

「そうだな、礼を言う……」


 すると、GPSの画面を見た蒼月がボソッと呟いた。


「ここは、工場跡地だね」

「……工場跡地?」

「うん。今は使われてないけど、広い埋立地だったはずだ」

「そうか。なら、そこにボスがいる可能性も高いな」


「灰夢、ここは任せて……」

「リリィ……」


「ここは、わたしたちに任せて行くといい」

「みんなで、桜夢ちゃんの帰りを待っているからね」

「梟月、霊凪さん……」


「主さま、行ってくださいませ。この子たちは、わたくしが……」

「恋白……」


 すると、後ろにいた風花と鈴音がポンッという音と共に、

 中学生ほどの背丈をした、淡い炎を纏う狐人の姿に化けた。


「おししょー。桜夢お姉ちゃん……。助けてあげて、ください……」

「鈴音たちも、少しは戦えるんだよぉっ!」

「お兄ちゃん、行ってくださいっ!」

「私も、もう逃げるだけじゃないですからっ!」


「お前ら……」


 灰夢は小さく笑みを浮かべると、顔に狼の御面を付けて、

 言ノ葉、氷麗、風花、鈴音をギュッと優しく抱きしめる。


「期待してるからな、ここは任せるぞ……」

「「「「 ──はいっ! 」」」」


「お兄ちゃん、桜夢ちゃんを救ってきてくださいねっ!」

「あぁ、任せとけ……」

「私たち、お兄さんの帰りを待ってますからっ!」

「わかった。桜夢も連れて、必ず帰ってくるよ」


「ししょー、気をつけてねっ!」

「また、一緒に……ご飯、食べたいです……」

「あぁ。また、みんなで食べような」

「──うんっ!」

「──はいっ!」


 すると、集団の中から、悪魔の一人が突っ込んできた。


「行かせるわけねぇだろっ!!」

「ったく……。今、いい所なんだよ。サインなら後にしてくれ……」


 それを見た灰夢が、向かい来る悪魔を前に身構える。



『 ──動かないでくださいっ!! 』



 飛び込んでくる悪魔に、灰夢が反撃しようとした途端、

 不意に放たれた言霊で、悪魔の動きがピタリと止まった。


「──なっ!? こ、こいつ……」

「言ノ葉……。お前、悪魔も止められるようになったのか。すげぇな……」

「わ、わたしもビックリです。咄嗟とっさだったので、つい……」


 それを見た店の女将が、嬉しそうに微笑みながら歩み寄る。



























    「 あらあら、娘の勇姿が見れて、お母さん感激だわっ! 」



























 霊凪は目の前に立つと、静かに悪魔を見つめていた。


「貴様ら、いったい……」

「少し、おいたが過ぎたわね。悪魔さん?」

「こ、こんなもの……ッ!!」


























     『 私の娘に手を出す意味を、その魂に刻んであげる 』



























              「 ──ッ!? 」



























        【  ❖ 霊冥忌術れいめいきじゅつ心魂剥離しんこんはくり ❖  】



























      ──その瞬間、霊凪が素手で悪魔の魂を引き抜いた。



























「──ひぃっ!?」

「うわぁ……」

「れ、霊凪ちゃん……」

「霊凪、お前……」

「お、お母さんが、怒ってます……」


 ドン引きした仲間を気にも止めず、抜いた魂を投げ捨て、

 背後から出てきた不動明王が、その魂をグシャリと叩き潰す。


「こ、ここここ、言ノ葉のお母さんが一番怖いよっ!」

「まぁ、はい……。よく、言われます……」


 氷麗が言ノ葉を、ブンブンと揺さぶりながら、

 あまりの現状の恐ろしさを、必死に訴えかける。



「うふふっ。次は、どの子から引き抜かれたいかしら?」



「……ここは、心配いらねぇな」

「……だね」


 それを見た蒼月と灰夢が、呆れた顔で胸を撫で下ろす。


「それじゃ、俺は桜夢を連れて帰ってくる」

「えぇ、行ってらっしゃいっ!」

「気をつけてください、お兄ちゃんっ!」

「連れて帰ってくるの、約束ですからねっ!」

「あぁ、任せとけ……」


「灰夢くん。僕が瞬間移動で連れていく、急ぐよっ!」

「あぁ、頼む……」

「ごしゅじ〜んっ!」

「──ッ!?」


 瞬間移動で飛ぼうとした瞬間、ケダマが灰夢の背中にくっ付いた。


「あらら、ケダマちゃん。……危ないよ?」

「おい、ケダマ。今から戦場に行くんだぞ?」

「……?」

「お前、死ぬぞ。今は、マジでやめとけって……」


「……守るよ」

「……え?」



























           「 守るよ、ご主人…… 」



























 そうボソッと呟いたケダマを見て、灰夢は目を見開いた。


「ケダマ、お前……」


 小さく微笑みながら、ケダマが真っ直ぐ灰夢を見つめる。

 そんなケダマの瞳を見て、灰夢も静かに笑みを浮かべた。


「覚悟は、いいんだな?」


 その言葉に、ケダマがコクっと頷く。


「よし。蒼月、こいつも連れていく……」

「……えっ、本当に連れていくの!?」

「大丈夫だ。俺が責任持つから、気にすんな」

「……わ、わかった。いくよっ!」

「おうっ!」

「んにゃ〜っ!」





 二人の言葉を返事を聞いて、蒼月は魔法陣を展開すると

 青い光に包まれながら、その場から瞬間移動で飛んで行った。

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