第捌話 【 戦う理由 】

 夢幻の祠で、灰夢たちが敵に襲撃を受けていた頃、

 桜夢は縛られたまま、工場跡地の中で捕まっていた。





 桜夢の目の前に立つ一人の女性と、数体の悪魔が、

 魔術に縛られた桜夢を、睨みつけるように見つめる。


「このアタシから、逃げられると思ったのかい?」

「ごめんなさい、マザー……」

「分からず屋の小娘には、お仕置が必要だね」

「待って、やめてっ!」

「……ん?」

「……お願い、もう……痛いのは、嫌なの……」

「……そうかい」

「もう、逃げないから……。お願い、やめてください……」


 そう告げる桜夢を見て、マザーはニヤリと笑った。


「なら、別の体罰にしてやるよ」

「……え?」

「お前ら、苗床にしてやりなっ!」



「「「 ──へい、姐さんっ! 」」」



 指示に従うように、背後の悪魔たちが動き出す。


「いや、やめてっ! お願い、ごめんなs……」


 桜夢は再び口を塞がれ、手足を縛られたまま、

 複数の悪魔たちに、無理やり押さえつけられた。


「口さえ抑えてりゃ、何も出来ない小娘だ」

「オレらに抗ったのが間違いだったな」


「んんっ! ん……んっ! んんぐ……んんんんっ!!」


「お前の体に、悪魔の子供をはらませてやる」

「お前が気を失うまで、たっぷりと遊んでやるからな」

「二度と逆らえないくらいの恐怖を、その体に教えてやるよ」


「んぐっ、んん〜、んぐん、んんん〜っ!」


「もう抵抗しても遅せぇよ」

「お前がいけないんだ、罰は必ず執行される」

「すぐに、気持ちよくしてやるからな」

「大丈夫だ。痛くはないぞ、きっとな……ハハハハッ!」


 身動きの取れないまま、無理やり悪魔に服を脱がされていく。

 それを桜夢は泣きながら、必死に体をひねって抵抗していた。



























 ( これが、自分の幸せなんかを少しでも夢見た、ワタシの罰なんだ…… )



























        そう心で思うと同時に、桜夢は全てを諦めた。



























    その時、桜夢の影が大きく広がり、周囲を真っ黒に染め上げる。



























            「「「 ──ッ!? 」」」



























          【  ❖ 幻影呪術げんえいじゅじゅつ悪食あくじき ❖  】



























    次の瞬間、足元に拡がった影から、巨大な影狼が現れ、


         桜夢や、群がっていた悪魔たち諸共、全てを一口で喰らった。



























 マザーと悪魔たちが、瞬間移動で工場の外に逃げるも、

 その場にいた数体の悪魔が、喰らいついた影狼に呑まれた。


「チッ……。何だい、今のは……」

「例の、匿っていた組織の連中かもしれません」

「匿っていた連中には、配下たちを送ったはずなんだけどねぇ……」


「アイツら、どこから湧いて出てきた……」

「というか。なんで、この場所がわかった? 魔力結界は張ったはず……」

「向こうにも、かなりの数が向かったはずですが……」

「あの役立たずのゴミ共、帰ったら絶対に殺してやる」


 灰夢たちを見たマザーが、拳を握りしめ怒りに震える。



 ☆☆☆



 影狼が消えると、桜夢の前には、ヒラヒラと羽織がなびいていた。


「チッ……。逃げ足はえぇな、ゴキブリ共が……」

「……おお、かみ……さん……」

「よっ、元気そう……ではねぇな。まぁ、生きてるだけマシか」

「なんで、ここに……」

「なんでって、お前が急にいなくなるからだろ」


 唖然とする桜夢の前に、灰夢がゆっくりと腰を下ろす。


「なんで……。ワタシなんかの、為に……」

「お前が俺に、『 一人にしないで 』って言ったんだじゃねぇか」

「ワタシが、勝手に……いなく、なったのに……」

「全くだ。傍に居てろっつったり消えたり、手のかかるクソガキめ……」

「ぐすっ、だって……これ以上居たら、また……みんなに、迷惑が……」


 桜夢がボロボロと涙を流しながら、必死に言葉を発する。

 そんな桜夢に羽織を掛けると、灰夢は優しく体を抱き寄せた。



























    「 迷惑かどうかを決めるのは、お前じゃなく俺たちだ…… 」



























「……ぐすっ、おお……かみ、さん……」

「まだ約束、果たしてねぇだろ」

「ワタシなんかの為に……戦う理由なんて、何も……何も、無いのに……」

「理由が欲しけりゃ、俺がいくらでも作ってやる」


「なんで、なんで……」

「俺を信じてくれないか? 桜夢……」

「ワタシ、なんかが……誰かを頼っちゃ、ダメなんだよ……」

「他人の言葉なんか気にすんな。俺が、お前を救ってやりたいんだ」

「でも、ぐすっ……。ワタシ、何も……返せ、ないよ?」

「お前が笑って生きてくれりゃ、俺はそれでいい」


 静かに微笑む灰夢を見つめながら、桜夢の涙が溢れていく。


「ぐすっ、おお……かみ、さん……ぐすっ、ワタシ……」

「またみんなで、ご飯食べような」

「うん、うん……。ごめん、なさい……」

「こういう時は『 ありがとう 』って言うんだよ」

「ありがとう、狼さん……。本当に、ありがとう……」


 そういって、桜夢は灰夢にギュッと抱きついた。


 灰夢が桜夢を慰めていると、二人の背後に瞬間移動で、

 肩にケダマを乗せた蒼月がパッと工場内に姿を見せる。


「……ごしゅじん?」

「灰夢くん、大丈夫だった?」

「あぁ、ギリギリな……」

「そっか、よかった……」


「……アイツらは?」

「外で、骸骨の軍団を呼び出してるよ」

「そうか。向こうも、戦闘態勢ってことだな」


 その言葉を聞いて、蒼月が嬉しそうにマグナムを取り出す。


「さてと。ここからが、楽しいお掃除の時間だねっ!」

「お前、本当に楽しそうだな」

「だって、結界も張ったし、暴れ放題だよっ!」

「……まぁな」

「どうせなら派手に暴れて、僕らも神話になろうじゃないかっ!」

「英雄にでもなるつもりか? お前は……」


 嬉しそうな蒼月に、灰夢が哀れみの視線を送る。


「灰夢くんは、楽しくないの?」

「何を言ってやがる。やっと親玉を見つけたんだぞ?」

「……あははっ! そうだねっ!」

「隠れチキン野郎に、今までの報いを存分に味あわせてやらぁ……」


 灰夢の体からは、モクモクと湯気のように灰が湧き始めていた。


「さぁ、楽しい宴の始まりだよっ!」

「カルシウム共を、全て墓の中に叩き戻してやる」

「──んにゃ〜っ!」





 危機的状況で、何故か、盛り上がってる三人を見て、

 桜夢はキョトンとしたまま、その場に固まっていた。

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