第玖話 【 月影一家 】

 灰夢たちを見送ったあと、店に残った月影一行は、


         襲い来る敵を、片っ端から全て返り討ちにしていた。



























      【  水神白蛇すいじんはくじゃ …… ❀ 八岐大蛇ヤマタノオロチ ❀  】



























        『『『 シャーーーーーー!! 』』』



























 巨大な八岐大蛇が、骸骨の群れを吹き飛ばしていく。


「おい、なんだっ!? あのバケモノはっ!」

「悪魔なんかより、よっぽど怪物じゃないかっ!」

「怯むな、魔術を使って押し返せっ!」



『『『 シャーーーーーー!! 』』』



「うわああぁぁああぁあっ!!」

「──グハッ!」



『『『 シャーーーーーー!! 』』』



 八岐大蛇に蹴散らされていく悪魔たちを、

 満月と氷麗が、呆れた瞳で静かに見つめる。


「あれが味方と思うと、本当に負ける気がしないな」

「牙朧武さんもそうですが、異世界レベルのモンスターですよね」


「前に見た、満月のロボットも、負けてない」

「そういえば、満月お兄ちゃんも、前に大きな機械を出してましたね」


 リリィの言葉を聞いて、言ノ葉が【 終焉ノ煙 エンド・オブ・スモーカー】を思い出す。


「あの要塞が動き出したら、もうハ〇ルの動く城ですからね」

「なら、それっぽいものを見せてやろうか?」

「……えっ? 出せるんですかっ!?」


 言ノ葉の期待に応えるように、満月は空へと手を伸ばした。


『──こいッ!!!』



























【  超巨大最終機動要塞 ちょうきょだいさいしゅうきどうようさい…… ❀ 全テヲ無二帰ス御掃除機 ウォーキング・デストロイヤー・ルンダ❀  】



























 ブラックホールの様なものに、大量の鉄くずが次々と集まると、

 無数の砲台を全身に携える、巨大な歩く機械城が出来あがった。


「ぎゃーーー!!!」

「なんだあれ、突然出てきたぞっ!!」

「人間の兵器なんて域を超えてるだろっ!!」


 悪魔たちが驚いて逃げながらも、機動要塞に消されていく。


「……えっ? なんですか、あれ……」

「機動要塞だ。あれに乗ってるクマが、敵を薙ぎ払ってくれる」

「本当に、どんな物でも一瞬で作るんですね」

「まぁ、そう言う忌能力だからな。こういう時には頼りになる」

「みなさんが味方側で、心底良かったと思いました」


 もはや、人間の作ったものとは思えない兵器ですらも、

 全て味方の力だということに、氷麗がホッと胸を撫で下ろす。


「すっごい、カッコイイのですっ!」

「だろー!? さすが言ノ葉、わかってるなぁ〜っ!」

「ロマンですねっ! いつか、わたしも乗ってみたいのですっ!」

「なら、今度試しに色々乗ってみるか?」

「いいんですかっ!? 満月お兄ちゃんっ!」

「もちろんだ。オレも、色々と試してみたいことがあるからな」

「やったのだぁ〜っ!」


 満月の言葉に、言ノ葉がぴょっぴょんと跳ねて喜ぶ。



( ……なんで、言ノ葉は喜んでるんだろう )



 満月と一緒になって、少年のように喜ぶ言ノ葉の後ろ姿に、

 氷麗は、親友の知らなければ良かった一面を知った気がした。


「ほねさん、たくさ〜ん!」

「ゲハハッ、あのガキなら瞬殺だァァァッ!!」

「……?」


 ボーッと立っている白愛に、一匹の悪魔が襲いかかる。


「──あっ、白愛ちゃんッ!!」


「ばぁすとぉ〜っ!」

「ギャァアアアァァァァアァッ!!」


「……え?」


 その瞬間、白愛が義手から巨大な超電磁砲を放ち、

 勢いよく飛びかかった悪魔を、一瞬で消し炭にした。


 そんな突然の光景に、氷麗の思考が停止する。


「やれる奴から殺っちまえ〜っ!」

「魔弾で一斉攻撃だァ〜っ!」


「し〜るどぉ〜っ!」


 白愛に向かう無数の魔弾を、電磁シールドが自動で防ぐ。


「ばぁ〜すとぉ〜っ! ばぁ〜すとぉ〜っ! ばぁ〜すとぉ〜っ!」


「ギニャーッ!!!」

「イヤァァアアァァアァッ!!」

「グハァ……」


「い〜ぷ〜し〜ろぉ〜ん、どっかぁ〜んっ!!」


「うわぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁっ!!」

「うわぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁっ!!」

「うわぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁっ!!」


「…………」


 小さなミサイルが大爆発を起こし、辺り一体を火の海に変えていく。

 その禍々しい光景を、氷麗は死んだ魚の目のまま無言で見つめていた。


「ん〜、少し威力を上げすぎたか」

「なんてものを身につけさせてるんですか、満月さん……」

「あれでも割と、加減したつもりなんだけどな」

「加減した割には、白愛ちゃん。一人で無双してますけど……」

「まぁ、白愛が怪我をしないようにするのが、大前提だからな」


 這い蹲る悪魔に白愛が歩み寄り、目の前でそっと覗き込む。


「くっ、馬鹿な……。子供相手に、俺たち悪魔が……」

「……?」

「ガキが、舐めやがって……。こんなもの、痛くも痒くも……」

「えへへっ、ふぁいやぁ〜っ!!」

「イギャァアアアァァァァアァッ!!」


 白愛は満面の笑みを見せると、焼却砲を悪魔の顔面に放ち、

 跡形も残らないほどの大爆発を起こながら、粉々に粉砕した。



( えげつないな、白愛ちゃん…… )



 笑顔で粉砕する白愛の恐ろしさに、氷麗が考えることをやめる。


「よくやったな、白愛……」

「ましゅたぁ〜っ! ぐ〜っ!」

「あぁ、ぐ〜だなっ! あはははっ……」


 満月と笑顔でグッドサイン交わす、純粋無垢な白愛の姿を見て、

 教育者が悪いのだと、氷麗は心の中で静かに確信するのだった。


四大精霊みんな、でてきて……」


 呼び掛けに応じるように、リリィの体から大精霊たちが姿を見せる。


「どうしたんデスか? マス……タァァ!?!?」

「なんですか、この群れ……骸骨が、たくさんいますよっ!?」

「これ、味方じゃないよね。たぶん……」

「こ、ここ怖いですぅ……」


 自分たちを囲む敵を見て、大精霊たちは目を丸くしていた。


「少し、数が多いの。みんなも、倒すの、手伝って……」

「なるほど……。今回は、連携プレイということデスね?」

「よっしゃっ! 暴れていいなら、遠慮はしないよっ!」


「わたし、こんな怖いのと戦えるかなぁ……」

「大丈夫だよ、ディーネちゃん。みんなもいるからっ!」

「……う、うんっ! わた、わたしも……頑張りますねっ!」


 へっぴり腰のディーネを見た悪魔が、スキを突こうと飛びかかる。


「ケッハハハッ! そんなヒヨっ子に何が出来るっ!?」

「──ひぃっ!?」


「使い捨ての雑魚が、わめくな──ッ!!!」( ※ 裏リリィ )

「──グハッ!」


 ディーネに襲いかかろうと、空から飛んできた悪魔を、

 リリィがハイヒールで蹴り上げ、そのまま地面に蹴り落とす。


「アタシの大切な家族に、汚ねぇ手で触れるんじゃねぇッ!!!」

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」


 リリィが長いヒールのカカトを突き刺し、毒を流し込むと、

 地面に伸びた悪魔の全身から、真っ赤な彼岸花が咲き誇った。


「うん、大丈夫だよ。これ……」

「なんか、わたしも安心しました……」

「アタシたち、出番あるのかな?」

「正直、ワタシたちがいなくても、マスターが一人で勝ちそうデスね」


 巨大な植物をそこら中に生やすリリィを見て、大精霊たちが呆れ返る。


「お前らは骸骨を片付けろ。悪魔共はアタシが潰す」


「が、ががが、頑張りましゅ……」

「噛んでるよ、ディーネちゃん……」

「っしゃぁっ! いっちょ、バチバチ行くよッ!!!」

「ふっふっふ……。ワタシたちのチームワークを見せてやるデスよっ!」



 <<< 水の精霊術・大海を抱く神竜 オーシャンズ・デウス・ドラゴン>>>


 <<< 火の精霊術・大地を喰らう火山龍 テラ・エデッセ・ボルケーノ・ドラゴン>>>


 <<< 風の精霊術・命をかき消す嵐の帝王 ビータ・マーデ・テンペスト・カイザー>>>


 <<< 地の精霊術・押し潰す巨巌の守護王 コントンディート・プラエフェクトゥス・レックス>>>



 四大精霊が、一斉に詠唱を初めて、次々と自然を形作っていく。


「な、なんだよ。あのバケモノたちはっ!」

「あんなの勝てるわけないだろっ!」

「人間相手じゃなかったのかよっ!」

「精霊術にしても、レベルが違うぞっ!」


「わたしも、みんなの力になりたいんですっ!」

「私たちはもう、一人じゃないからっ!」

「あははっ! アタシの炎は、雨如きじゃ消えやしないよっ!!」

「このワタシに楯突いたことを、あの世で後悔するがいいデスっ!」


 生み出された自然の猛威は、敵を一瞬で薙ぎ払っていった。


「凄いなぁ……。こんなの見てたら、骸骨も悪魔も怖くないや……」

「だんだん氷麗ちゃんも、この場に慣れてきましたね」

「うん。思ったほど驚いてない自分に、一番びっくりしてる」

「ようこそなのです、氷麗ちゃん。わたしたちの世界へ……」


 そんな氷麗たちに、新たに地面から湧き出た骸骨たちが襲いかかる。


「カタカタカタカタカタカタカタカタカタッ!」


「氷麗ちゃん、こっちにも来てますっ!」

「私も、もう……逃げるだけじゃないからっ!」



 <<< 氷花秘術ひょうかひじゅつ千刄万花せんじんばんか >>>



 氷麗が足を踏み込むと、氷が波のように前方に広がり、

 向かってくる骸骨の群れを、氷柱が次々と貫いていった。


「おぉ〜っ! 氷麗ちゃん、凄いですっ!」

「お兄さんが『 いざと言う時に 』って、教えてくれた術なの……」

「凄く、かっこいいのだぁ〜っ!」

「えへへ、ありがとっ!」


「鈴音たちもっ!」

「負けない、ですっ!」



 <<< 炎魂狐術えんこんこじゅつ鳳仙火ほうせんか >>>



 狐火を周りに浮かせて、それを二人が放っていく。


「凄いです。風花ちゃんと鈴音ちゃんも、かっこいいのですっ!」

「みんな、凄いよっ!」

「えへへっ!」

「ありがと、です……」



 ──その瞬間、ドスンッという振動が響き渡った。



「な、なんですか? あれ……」

「骸骨の、恐竜……?」



『グアアァァァァアアアァァァアァァアアアァァアアアッ!!!』



 四つん這いのスカル・ドラゴンが、子供たちを目掛けて走る。


「あんなの、止められないよ……」

「やばい、です……逃げ、なくちゃ……」



























     「 大丈夫だから、そのまま動かないでいなさい 」



























 走りくるスカル・ドラゴンの前に、梟月が立ちはだかる。


「お父さんっ!」

「梟月さん……」

「フクロウの、おじさん……」

「梟月さん、気をつけてっ!」



「大丈夫だよ。わたしも一応、月影の一人だからね」



 子供たちにニッコリと笑って見せると、梟月が拳を構え、

 スカル・ドラゴンとぶつかる瞬間に、勢いよく殴りつけた。



 <<< 衝撃反転 しょうげきはんてん 爆水貫掌 ばくすいかんしょう>>>



 雨の当たる衝撃を蓄え続けていた梟月が、それを一気に放ち、

 ぶつかった衝撃諸共返されたスカル・ドラゴンが、粉々に砕け散る。



「雨は、わたしの味方だ……」



 守護神のような梟のオーラを纏う梟月の後ろ姿に、

 守られていた子供たちは、その場で目を輝かせていた。


「す、凄い……」

「お父さん、かっこいいのだぁ……」

「フクロウの、おじさん……微動だに、しないです……」

「これが、守護神……」


 その姿を見た悪魔たちが、アワアワと動揺を見せる。


「ス、スカル・ドラゴンが砕かれたぞっ!」

「なんなんだ、こいつらは……」


 そんな悪魔たちを追い詰めるかのように、梟月が前へと歩いていく。



























   「 わたしたちは月影、貴様らに天誅を下す者だッ!!! 」



























「  あの子の帰るべき居場所は、わたしたちが必ず守る。


         我々を相手にするのなら、命を懸けてかかってこい 」



























 梟月の言葉を胸に、全員の心が更に一つになり、


            向かい来る敵を、次々と薙ぎ払っていった。

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