第拾話 【 死霊術師 】

 灰夢は死術を全て開き、桜夢を連れて天井を突き抜け、

 蒼月と共に、工場跡地を全て見渡せる場所まで登っていた。





 下に群がる、大量の骸骨と悪魔を見て、灰夢が目を細める。


「おい。見てみろ、蒼月……。俺たち、今からあの中に入るんだぜ……」

「あの真ん中にいる女の人が、恐らく【 マザー 】だね」

「姫プレイでもしてるのか? あの女は……」

「だろうね。あの周りの奴らも悪魔憑きだから、一応、気をつけて……」

「はぁ……。ここまで数の暴力を立証されると、不死身と言えど萎えるな」


 下では、マザーと悪魔たちが、灰夢たちを見上げていた。


「あのガキ共か、アタシの基地の実験体を連れ出したのは……」

「そうですね。あれは……多少、手強い相手かと……」

「ふっ、アタシに勝てるやつなんて居やしないよ」

「もちろんです、マザー……」


 マザーが空に手をかざし、巨大な召喚術式を展開する。



























          【  ❖ 死霊魔術・双頭骸龍オスト・ドラゴン ❖  】



























 すると、マザーの頭上に、二つの頭を持つ巨大な骨の龍が現れた。


「さぁ、アイツを喰っちまいなっ!!」

『グアアァァァァアアアァァァァアアァァアアアアッ!!!』


 向かってくるドラゴンを、灰夢と蒼月が静かに見つめる。


「おい、蒼月。なんか来たぞ……」

「あんなのがいっぱい出てくるから、ボスを倒すまではキリがないよ」

「ボッチな奴が友達欲しくて悪魔召喚とか、よくあるパターンだよな」

「もし、それの極地がアレなんだとしたら、逆に凄いと思うけど……」

「忌能力者なんてボッチばかりだ。珍しい話じゃねぇと思うけどな」

「ブーメランだよ、灰夢くん……」

「俺はボッチなんじゃなくて、一人が好きなんだっつうのッ!!!」


 灰夢は桜夢を抱き抱えたまま、大きく空へジャンプすると、

 蒼月と共に、軍勢のド真ん中に向かって一気に飛び降りた。


『──牙朧武ッ!!! ぶち抜けェェェッ!!!』

『ワァオオオォォオオォォォォオオオオオォォォオオオンッ!!』


 地面に巨大な影が広がり、真の姿の牙朧武が現れる。


「──なっ!? 何だい、このバケモノはっ!?」

「──分かりませんッ!! こんな生き物は、情報にありませんッ!!」


 牙朧武を目にしたオスト・ドラゴンが、勢いよく襲いかかった。


『グアアァァァァアアアァァァアアァァアアアッ!!!』

むくろの龍如きが、吾輩が撃ち砕いてくれるッ!!!』



 <<< 幻影呪術・獄煉牙狼砲げんえいじゅじゅつ・ごくれんがろうほう >>>



 牙朧武の放った一撃が、ドラゴンの体をバラバラに砕く。


『ふっ、他愛もない……』

『カタカタカタカタカタ……』

『──ッ!?』


 すると、砕けたドラゴンに灰が集まり、再び元の姿に戻った。


『こやつ……。まるで、灰夢のようじゃな』

「おい、牙朧武。その例え方やめろ」

『どんなに細かく砕いても、灰が集まって再生しよる』

「今は、親玉がいるからな。それを倒すまでは辛抱してくれ」

『よかろう。ならば、時が来るまで、暴れてくれるわッ!!!』


 牙朧武はドラゴンに襲いかかると、灰夢の傍から引き離した。

 敵陣の中に着地した灰夢たちが、静かに敵の群れを見つめる。


「九十九、でてこい……」

「出番かのぉ、ご主人……」

「あぁ、お前は桜夢の護衛だ。頼むぞ……」

「影に隠さなくて良いのか?」

「奴の術系統は『 陰 』だ。下手したら、影に触れられる可能性があっからな」

「なるほどのぉ。うむ、引き受けたぞ……」


 九十九は蒼い炎を漂わせると、桜夢の前に立ちはだかった。


「ようやく会えたな、マザーさんよぉ……」

「なんだい。ノコノコと、たったこれだけの人数で助けに来たのか」

「数の暴力が正義だと思ってんなら、大きな間違いだ……」

「この世の中は大半が多数決なのさ。そんなことも知らないのかい?」

「お人形さんごっこの成れの果てが、死体と悪魔に崇められて女王気取りか?」

「言ってくれるじゃないか。同じ穴のムジナの分際で……」


 マザーが灰夢に向けて手を伸ばし、不敵な笑みを浮かべる。



























 『 見せてやるよ。アタシの【 死霊魔術ネクロマギア 】による、力の差という絶望をね 』



























           【  ❖ 死霊魔術・心潰 シドゥリビィ・カルディア❖  】



























「──グフッ!?」


 マザーが拳を握ると同時に、灰夢が口から吐血した。


「──っ!?」

「──ご主人っ!?」

「──灰夢くん!?」


「ふっははははっ! 人間なんて、ひと握りさっ!」

「おいおい、いきなりだな」

「……ん?」


 何事もなく普通に喋る灰夢を見て、マザーが固まる。


「人の心臓を勝手に潰すんじゃねぇよ、痛てぇだろ」

「な、なんで……生きてるんだい? あんた……」

「なんだよ、生きてちゃ悪ぃのか?」

「いや、普通に死ぬだろ」

「悪かったな。俺は、普通じゃねぇんだよ」


「…………」

「…………」



 ──数秒の沈黙が、その場の全員を包む。



「ふっはははは。面白い奴だね、あんた……」

「お前に喜ばれても、嬉しくねぇな」

「なるほど……。確かに、ただの人間じゃないみたいだね」


「マザー様、ここは我々が……」

「マザー様は、お下がりください」


 周囲の悪魔たちが構えると同時に、灰夢たちも戦う構えに入る。


「ったく……。てめぇを探すのに、どれだけ苦労したか」

「なんだい。そんなに、アタシに会いたかったのかい?」

「あぁ、会いたくて会いたくて、震えが止まらなかったぐらいだ」

「アタシも、あんたが欲しくなったよ。その体、アタシのモノにしてやる」

「告白の仕方がなってねぇな。ラブコメでも読んで、出直してこい──ッ!!」


 その言葉と共に、灰夢は勢いよく走り出した。


『 われける閃光せんこうとならん…… 』



 <<< 迅檑死術じんらいしじゅつ蒼閃ノ瞬そうせんのまたたき >>>



 灰夢が稲妻を纏いながら、一直線にマザーに突っ込む。


「なっ、貴様……。姐さんにっ!!」

「どけ、ゴキブリ共がッ! ──邪魔だッ!!!」

「──グハッ!」


 マザーに向かっていく灰夢に、次々と悪魔が襲いかかるも、

 雷の軌跡を残しながら、瞬く間に群れる敵を蹴り飛ばしていく。


「──ここを通すなっ!!」

「──奴を殺せっ!!」


「灰夢くんには、近づかせないよ」


「──グハッ!?」

「──チッ、今度はなんだっ!?」


 群れる数体の悪魔を撃ち抜き、蒼月が灰夢をサポートする。


「くっ、アイツ……。魔弾をっ!?」

「早いところ、奴も叩き潰せっ!」

「かかっておいでよ。灰夢くんの邪魔をしたければ、僕を倒してからだっ!」



 ☆☆☆



 灰夢は、骸骨と悪魔を吹き飛ばしながら奥まで突き進み、

 群れる敵を無双しながら、マザーの前へと辿り着いていた。


「ふっははは、いいね。それくらいじゃないと面白くない」

「桜夢の自由、返してもらうぞ。──マザーッ!!!」

「出来るものならやってみな、下等な人間不勢がッ!!!」



 <<< 死霊魔術・空白の時間クロノス・ケノン >>>



 灰夢が飛びかかると同時に、世界の時が止まった──


「残念だったね。お前がアタシに触れることは、絶対に──」

「グダグダうるせぇぞッ!!!」



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「──なッ!?」


 ──が、灰夢だけは止まらずに、マザーに旋風脚で雷撃を叩む。


「──オラァッ!!!」

「──グハッ!!」


 その一撃を顔に打ち込んで、灰夢はマザーを蹴り飛ばした。



 ☆☆☆



 攻撃を受けるマザーの姿に、周りの悪魔たちが一斉に固まる。


「なっ、マザーにダメージを……」

「なんだアイツ、命知らずな」

「命知らずは、君たちだよ……」

「……なに?」


 蒼月がジャケットを脱ぎ捨て、そっと眼帯を外す。



「喧嘩を売る相手を間違えたな。君たちは、僕ら月影を見くびりすぎだ」



 そういって、蒼月が黒い翼をバサッと広げる。


「──なっ、こいつも悪魔かっ!?」

「人間の味方をする悪魔なんか、殺しちまえッ!!!」

をしてる雑魚共に、オレらが負けるわけがねぇ!!」


 その言葉を聞いた途端、蒼月の顔から笑みが消えた。



























   『 やってみろよ、カス共。悪いが、今のの眼には、


           お前らのショボい豆鉄砲如き、止まって見えるぞ? 』



























   蒼月は魔眼を蒼く光らせ、二つのマグナムを構えると、


           次々と襲い来る悪魔を、外すことなく撃ち抜き始めた。



























 灰夢の蹴りで吹き飛んだマザーが、ゆっくりと立ち上がる。


「何故、止まらない……。確かに、今、時間を止めたはず……」

「時間を止めた程度で、俺が止まるとでも思ったか?」


 さも当然のように答えながら、灰夢がマザーに睨みを利かす。


「アタシの……」

「……あ?」

「アタシの顔に、傷を……」

「なんだ、お肌のケアでも大事にしてたのか?」

「アタシの美しい顔に、傷を付けたなアアァァァァッ!!!!」

「お、おう……。なんか、悪かったな……」


 マザーが黒いオーラを解き放ち、体を包み込むと、

 黒いローブに杖を構える、骸骨の姿へと変わった。


「……おい。お肌どころか、肉まで消えてんぞ?」

「アタシに楯突いた愚か者よ。死んで地獄で後悔するがいい」

「舌がなくなっても喋れんのか。さすが、ネクロマンサーだな」

「そんな戯言を抜かせるのも、今のうちだ。すぐに、泣いて謝らせてやる」

「やってみろ。俺を泣かせられるのは、タマネギだけだ……」


 マザーが手を広げながら、足元に巨大な魔法陣を生み出す。



























       【  ❖ 死霊魔術・喰らい歩く死者の軍勢ストラトス・トン・ネクロン ❖  】



























 すると、魔法陣の中から、大量の骸骨が次々と現れた。


「なるほど。それが、お得意のカルシウム量産術か。上等じゃねぇか」

「アタシが死ぬまで、こいつらは無限に増え続ける。お前に勝ち目などない」

「素敵な情報提供に感謝する。なら、召喚速度を超える勢いで砕くだけだ」


 そういって、今度は灰夢が黒いオーラを纏っていく。



























      【  幻影呪鎧げんえいじゅがい …… ❀ 幻天灰狼げんてんかいろう 鬼阿修羅おにあしゅら ❀  】



























      灰夢が体に影を纏い、まるで、阿修羅の如く、


            六本の腕と三つの顔を持つ、鬼の姿に化ける。



























  『 颶風ぐふうかたど透過とうかきばは、骸殻がいかくむれれをくだく。


            咆哮ほうこうとも大地だいちはしり、死者ししゃおうをもくだけ 』



























       【  ❖ 飄風死術・獄颯戦渦 咆旋参頭狼ひょうふうしじゅつ・ごくりゅうせんか ほうせんさんとうろう ❖  】



























 灰夢が手で型を作りながら、風の死術を解き放つ。


 渦巻く風は、三頭の狼を象ると、咆哮と共に大地を駆け、

 骸骨の群れを砕きながら、マザーの元へと突き進んでいった。


「──チッ、小賢しい真似をッ!!!」



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 それを見たマザーが、新たに魔法陣からモンスターを召喚する。


 すると、現れた大きな骸骨戦士が、巨大な骨の盾を構え、

 猛威を振るう風の狼を受けきり、マザーを衝撃から守った。


「ったく……。随分と標本の種類が豊富だな。博物館に寄付したらどうだ?」

「この軍勢を前にしても、怯まずに来るところは認めてやるよッ!!!」


 武装した魔物を筆頭に、骸骨が全方向から群がってくる。

 それを次から次へと、灰夢が六つの拳で薙ぎ払って行く。


「チッ、キリがねぇな……」


『 むれれる死者ししゃたわむれを、白波しらなみってやみへとしずめん 』



 <<< 灰弄死術かいろうしじゅつ死戦灰葬しせんかいそう 伯凪はくなぎ >>>



 六本の腕を地面に叩きつけ、灰夢を中心に衝撃波が伝る。

 すると、周囲の骸骨が一斉に灰に還り、消え去っていった。


「──コイツッ!?」

「ようやく、たどり着いたぞ。肉なしチキン野郎ッ!!!」



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 マザーが前方に手をかざし、五重の障壁を展開する。


「お前如きが、このアタシに触れることなんざ、許されないんだよッ!!!」

「せっかく会いに来てやったんだから、釣れねぇこと言うんじゃねぇよッ!!!」



 <<< 煉合死術れんごうしじゅつ鎧貫嵐闘がいかんらんとう 億裂拳おくれつけん >>>



 灰夢が六本の影の腕を、岩のように硬化させ、

 爆風と稲妻を放ちながら、障壁を光速で殴り続ける。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!」

「──くっ、コイツッ!!」


 一枚、また一枚と、灰夢が障壁を砕きながら、マザーに近づいていく──



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 ──が、残り一枚のところで、灰夢が衝撃波に吹き飛ばされた。


「……チッ、あと少しだったんだけどな」

「タマネギ野郎が。バラバラにして、アタシのコレクションにしてやるッ!!!」

「その前に、俺がてめぇを理科室の骨格標本にしてやらァッ!!!」



























       【  死霊骸装 ネクロ・エノピオス…… ❀ 死を纏う送り鎌 スティーレテ・プレパンニ・タナトス❀  】



























       「 ──桜夢は永遠に、アタシの奴隷モノだッ!!! 」



























    『 血肉ちにくやいばめて、あかさくらほこ


            少女しょうじょなみだぬぐうがために、ゆめまことえてせよう 』



























     【  刄血死術じんけつしじゅつ 紅血刀こうけつとう …… ❀ 血桜ちざくら六刀開花ろくとうかいか ❀  】



























    「 ──桜夢の奪われた未来を、今、この場で取り返すッ!!! 」



























 灰夢が詠唱と共に、血を固めた刀を六本作り出し、

 巨大な鎌を振りかざすマザーと、剣撃を繰り広げる。


「忌々しい……。さっさと死んで、アタシの奴隷に成り下がれッ!!!」

「てめぇのトモダチコレクションに、勝手に加えてんじゃねぇぞッ!!!」

「貴様の臓器もくり抜いて、全てアタシのモノにしてやるッ!!!」

「その言葉は、理科室で人体模型に会うまで取っとけッ!!!」




 <<< 死霊演舞・命を喰らう奏演ゾイ・トロウ・フィフォス >>>


 <<< 六刀流・弐ノ型・鬼龍想歌ろくとうりゅう・にのかた・きりゅうそうか >>>




 マザーが鎌から黒い魔弾を次々と放ち、時間差で灰夢を襲う。

 それを六本の刀で切り落としながら、灰夢が斬撃を畳み掛ける。


「アタシ以上に、あの小娘を上手く扱えるやつはいないッ!」

「桜夢は道具じゃねぇ。力だけしか見てないお前に、桜夢は渡さねぇッ!」

「何故、抗うッ!? 小娘一人の命に、そこまでする理由がどこにあるッ!?」



  <<< 六刀流・壱ノ型・狼雅心月ろくとうりゅう・いちのかた・ろうかしんげつ >>>



「──なっ!?」


 灰夢が斬撃を一点に集約させ、マザーの鎌を弾き飛ばす。


「俺の戦う理由なら、あいつの言葉だけで十分だ──」



























 「 孤独を彷徨う儚き命が、ただ『 生きたい 』と口にした。

 

         たった一人、恐怖に怯えながらも、涙を流し救いを求めた 」



























   「 俺が、この身を懸けるのに、それ以上の理由は要らねぇッ!!! 」



























                ──その瞬間、



























        灰夢が六本の刀を構え、目にも止まらぬ速度で消えた。



























               「 ──ッ!? 」



























        【  ❖ 六刀流・伍ノ型・殲影臥龍桜ろくとうりゅう・ごのかた・せんえいがりゅうざくら ❖  】



























 灰夢が全ての魔弾ごと、雷の速度でマザーを切り捨てる。

 その斬撃は周囲をも切り裂き、マザーをバラバラに砕いた。


「おのれ、愚かな……。このアタシが、こんな奴に……」

「まだ生きてんのか、しぶてぇなぁ……」

「アタシは、アタシは決して負けない……」

「いや、もう終わりだ……。そろそろ墓に戻る時間だぞ、マザー……」


 マザーが崩れた頭だけで、カタカタと言葉を発する。


「──ふはっ、ふっははははッ!!!」

「……?」

「いいだろう。このアタシの真の姿を見せてやる」

「いや、誰も頼んでねぇよ……」



























         【  死霊灰燼 ネクロ・フィラモリア…… ❖ 怨恨骸葬 ニシカキア・スケルトス❖  】



























 その瞬間、周囲に群がる骸骨たちが一斉にバラけ、

 マザーの体に密集し、巨大な魔物へと姿を変えた。


『フッハハハハハハハ、お前らも一緒に取り込んでくれるッ!!!」

「ダー〇ソウルかよ、どこの墓王だ。いいから黙って墓に帰れ──ッ!!」



 <<< 六刀流・壱ノ型・狼雅心月ろくとうりゅう・いちのかた・ろうがしんげつ >>>



 灰夢が六本の刀を前方に構え、一転突きで向かっていく。


『今のアタシには、お前など相手ではない──ッ!!!』



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「──ッ!?」


 とてつもない衝撃波によって、灰夢が勢いよく吹き飛んだ。


「チッ……。クソッ、ドクロの詰め合わせ特盛パックみてぇな体しやがって……」


 手に巨大な大鎌を持ったマザーが、灰夢を無視して九十九と桜夢に迫る。

 それを見た九十九が妖炎を作りながら、マザーへと向かって走っていく。


「なんとも、おぞましい怨念じゃな」



 <<< 妖炎鬼術ようえんきじゅつ骸ノ鬼灯むくろのほうずき >>>



 九十九が無数の蒼い鬼火を、マザーに向かって次々と放つ。

 それでもマザーは止まることなく、九十九に鎌を振り下ろした。


「──なッ!?」

「──九十九っ!? 影に戻れっ!!!」

「──ご主人っ!」


 九十九の動きが止まったのを見て、灰夢が影狼を使い影へと戻す。

 その隙に、マザーは桜夢に捕まえ、脅すように灰夢へと見せつけた。


『フッハハハハハッ!! お前は、このむすめが大切なのだろう?』

「…………」

『アタシには、あれば便利な程度だ。どうせなら、お前の前で殺してやるッ!!!』

「……ふっ、やれるもんならやってみろ」

『──なにっ!?』


 不敵な笑みを浮かべる灰夢に、マザーが戸惑う。


「俺の家族は、お前が思うほどヤワじゃねぇぞ?」

『──なんだとっ!?』


 ──その瞬間、灰夢が大きく息を吸い込んだ。


























    『 ぶちかませッ!!! ケダマァァァァァアアアアッ!!! 』



























   その掛け声を聞いた途端、マザーが手に持っていた桜夢が、


          蒼い炎を渦巻いて、二本の尾を持つ巨大な化け猫に変わった。



























          『 ──な、なんだコイツはッ!? 』



























   『 シャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!! 』



























『コイツ、桜夢に化けてっ……』

『シャーーーーーーーッ!!!!』

『──ガハッ!』


 地面に叩きつけるように、猫又がマザーに何度も攻撃する。

 その隙に、灰夢が猛スピードで走り、猫又の元へと向かった。


「ケダマッ!!! 俺を空までぶん投げろッ!!!」

『んにゃ〜っ!』


 猫又の手に飛び乗った灰夢を、猫又が空高くへと投げ飛ばす。


『九十九、力を借りんぞッ!!』

『もちろんじゃ、ご主人ッ!!』



 <<< 妖炎鬼術ようえんきじゅつ鬼燈籠おにどうろう >>>



 灰夢が周りに、妖炎の玉を無数に浮かばせると、

 そのまま空を覆う雲の中に、一直線に突っ込んだ。


 それと同時に、雲の中で蒼い光を放つ雷が、

 ゴロゴロと轟きながら、灰色の空を走りだす。


「──ケダマちゃん、こっちだッ!!!」

「……にゃ〜ん?」


 人の姿に戻ったケダマを、蒼月が瞬間移動でかっさらう。


『おのれ、このアタシをだまくらかすとは……。──なッ!?』


マザーが見上げると、闇のように染まる曇った空が、

グルグルと雲の渦巻きながら、蒼白い光を放っていた。


『なっ、なんだ……? あれは……』


 ケダマを拾った蒼月が、隠れていた桜夢と空を見上げる。


「……狼さん」

「……ごしゅじん」

「なんて禍々しい空だ……。これも、灰夢くんの死術なのか?」


 そんな蒼月たちの足元から、人型に戻った牙朧武が姿を見せた。


「お主ら、影に入れっ!」

「牙朧武くんっ!」

「このままだと消し飛ぶぞ、急げっ!」

「さぁ、桜夢ちゃんとケダマちゃんも、入って……」

「でも、狼さんが……」


 不安そうな桜夢を見て、蒼月が優しく微笑む。


「大丈夫、彼と約束したんだろ?」

「……うん」

「なら、彼は死んでも約束を守ってくれるさ」

「だけど、狼さんも死んじゃったら……」

「彼自身の忌能力、もう忘れちゃったのかい?」

「そ、そうだけど……」


 禍々しい空を見ながら、桜夢が不安そうに答える。


「大丈夫、彼は絶対に死なない。彼を信じるって、決めたんでしょ?」

「……うん」

「なら、最後まで信じてあげて。彼は必ず、僕たちの元に帰ってくるから……」

「……うんっ! わかったっ!」


 桜夢は笑顔で答えると、牙朧武の開いた影の中へと潜った。



「──ア、アタシは死なないっ! 配下たちよ、今すぐアタシを……」



 体を砕かれたマザーが、助けを求めながら周囲を見渡すと、

 蒼月に撃ち抜かれた悪魔たちが、そこかしこに転がっていた。


「お、おのれぇっ! よくも、よくもぉぉおおおッ!!!」


 そんなマザーを哀れむことなく、空が唸りを上げていく。


 



























  『 稲妻いなずまあおひかりをはなち、邪悪じゃあくなるもの天誅さばきくだす。


            かなしみといかりはとどろきともに、つど怨念おんねんくだく 』



























    『 りしきる時雨しぐれなみだぬぐい、そのおもいをって大地だいちらす 』



























      『 なげそらへと、ささげ、


             うないかずちを、この宿やどし、


                  いかりを大地だいちへ、かえすとしよう 』



























          【  ❖ 轟哭死術・焰靁ノ狼 ごうこくしじゅつ・ほのいかづちのおおかみ❖  】



























  『 このアタシがァァアアァァァアアアァァァアァァァァァアァァッ!!! 』



























 魔を喰らう蒼きいかづちは、その場の全てを灰に変え、


         天の怒りに触れた怨念は、叫びと共に大地へ還った。

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