第捌話 【 サイボーグ戦士 】

 いつも通りの穏やかな朝、灰夢がゲームをしていると、

 自分の部屋の入口の扉が、ゆっくりと開く音に気がつく。





「……ん?」


 灰夢が扉の方を見ると、幼児くらいの背丈をした、

 全身を鋼に包む何かが、ヨチヨチとゆっくり歩いてきた。


「……なんだ? 最新のベアーズか?」

「…………」


 無言で近寄ってくるサイボーグに、灰夢が視線を送り続ける。

 すると、サイボーグが目の前に止まり、そっと右腕を伸ばした。


「あるじぃ〜っ! ばぁすとぉ〜っ!」

「白愛っ!? お前、それ──」


 そう言いかけた瞬間、灰夢の顔面に超電磁砲レールガンが放たれ、

 ドカァンッという轟音と共に、大爆発を巻き起こした。



 ☆☆☆



 その頃、言ノ葉は霊凪に見送られながら、

 いつも通りに、学校に向かおうとしていた。


「それじゃ、お母さん。行ってきますなのだぁ〜っ!」

「えぇ、行ってらっしゃい。気をつけてね」

「は〜いっ!」


 そう笑顔で答えた瞬間、家の二階が眩く光り輝き、

 ドカァンッという音と共に、外に何かが飛んでくる。


「あわわわっ!? な、なんですかっ!?」

「あらあら……」


 吹き飛んできた落下物は、ゆっくりと立ち上がると、

 頭に血を昇らせながら、周囲の煙を一瞬で振り払った。


「ミィチィヅゥキィッ!! 出て来いや、ゴラァッ!!!」


「お、お兄ちゃんっ!?」

「うふふ、朝から元気いっぱいね」


 驚く言ノ葉と霊凪の後ろから、小さなサイボーグが姿を見せる。


「あるじぃ〜っ!」

「白愛、朝っぱらから、人の顔面に超電磁砲なんか放つんじゃねぇよ」

「えへへ〜っ、シャキーンッ!!」


 白愛は顔の鎧を自動展開すると、笑みを浮かべ、

 謎のポーズを決めながら、満足気な顔をしていた。


「なんで、嬉しそうなんだよ。お前……」


 何事もないように、呆れた顔を見せる灰夢に、

 近くに立っていた言ノ葉が、慌てて声をかける。


「お兄ちゃん、大丈夫ですかっ!?」

「陥没した地面に、破壊された部屋。言ノ葉、これが大丈夫に見えるか?」

「あ、あははっ……」


「うふふっ。灰夢くんじゃなかったら、大惨事だったわね」

「笑えねぇよ。霊凪さん……」


 そんな話をしていると、一人の女性が慌ててやってきた。


「主さま、大丈夫ですかっ!?」

「恋白か。俺は大丈夫だが、それ、何とかしろ。死人が出るぞ……」

「申し訳ありません。まさか、主さまに、このようなことをするとは……」


 恋白が白愛を抱き寄せながら、必死に頭をペコペコと下げる。


「おねぇちゃん?」

「白愛、ダメよ。主さまに、こんな……」

「えへへっ、どかぁ〜んっ!」

「……へ?」


 その瞬間、白愛の腕から眩い光が輝きを放ち、

 目の前にいた恋白に、ミサイルが打ち込まれた。


「こはくーーーーーッ!!!」

「こ、恋白お姉ちゃぁぁんっ!」

「あらあら……」


「あ、るじ……さ、ま……」


 恋白がミサイルで吹き飛び、遠くで焼き焦げ埋もれている。

 それを見て、口を開けたまま、灰夢たちは目を丸くしていた。


「……おねぇちゃん?」

「いや、お前が殺ったんだろ。白愛……」

「えへへ〜っ。あるじぃ〜、シャキーンッ!!」

「なんで、笑顔なんだよ。バーサーカーか、お前は……」


 灰夢が呆れながら、白愛にツッコミをしていると、

 壊れた灰夢の部屋から、再びサイボーグが降りてくる。


「やれやれ……。騒がしいと思えば、何をしてるんだか」

「満月、テメェが作ったんだろ。これ……」

「オレはただ、白愛の理想の義手や義足を作ってただけだよ」

「いや、全身サイボーグになってんじゃねぇか」

「白愛が『 こうして欲しい 』って言ったんだ。仕方ないだろ」

「『 仕方ねぇ 』じゃ済まねぇだろ、見てみろよ。アレを……」


 そう言いながら、地面に埋まったままの恋白を、

 満月に見せつけるように、灰夢がビシッと指さす。


「かなり小型化したつもりだが、さすがオレの完全武装だな」

「感心してんじゃねぇよ。超電磁砲とか、俺じゃなきゃ死んでんぞ」

「オレも見せに行くのが灰夢じゃなけりゃ、ちゃんと止めてたよ」

「──俺でも止めろよッ!!!」


 白愛は木の枝を使って、埋まったままの恋白を、

 優しくツンツンと、虫を触るように突っついていた。


「……おねぇちゃん?」

「…………」


 動かない恋白を見て、灰夢が小さくため息をつく。


「はぁ……。朝っぱらから大惨事だな。ったく……」

「もう少し、安全装置をちゃんとしないといけないな」

「安全装置も何も、ガキの義手に攻撃用の武装は要らねぇだろ」

「いや、何かあった時の護身用はいるだろ。白愛を守る為にも……」

「──俺らに被害が出てたら守るに守れねぇだろッ!!!」

「まぁ、それもそうか」


 満月の返答に、灰夢が全力で論破する。


「とりあえず、このままじゃ死人が出る。無闇に乱射するのは止めさせてくれ」

「分かったよ。とりあえず『 狙うなら、灰夢だけにしろ 』と伝えておく」

「おい。なんで、俺はいいんだよ」

「灰夢は死なないから、試し打ちにはちょうどいいだろ」


「テメェの体をバラして、練習用のまとにしてやろうか? ゴラァ……」

「……ほぅ? 先にオレの試し打ち相手になるか? 灰夢……」


 険悪な空気のまま、二人は静かに睨み合うと、

 同時に己の忌能力を、初手から全力で解き放つ。


「──全死術、統合術式展開ッ!!」

「──全武装、最大出力開始ッ!!」


 二人は同時に展開を終えると、その場から消え、

 祠を飛び回りながら、技を全力でぶつけ合っていた。


「あわわっ!? お兄ちゃんたち、喧嘩はダメなのだぁ……」

「うふふっ。本当に、二人は仲がいいわねぇ……」





 全力で殺し合う二人を見て、言ノ葉は慌て、

 霊凪は止めることなく、静かに見守るのだった。



























 その後も白愛は、恋白をずっと枝で突っついていた。


「……おねぇちゃん?」

「…………」

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