第漆話 【 スイカ割り 】

 灰夢たちが水泳レースを終え、浜辺に戻ると

 血だらけの蒼月とリリィが、みんなを待っていた。




「よう、生きて帰ったか。蒼月……」

「うん、今日もなかなか、愛が重かったよ」

「よかったな。こんなに愛してくれる人は居ねぇよ」

「出来れば、痛くない愛だと嬉しいんだけどね」

「死贄の彼岸花に、それは無理だろ」


 何事もなく微笑む蒼月に、灰夢が哀れみの視線を送る。


「まぁ、それは置いといて。みんなでスイカ割りしよーよ!」

「……スイカ割り? スイカなんか、持ってきたのか?」


 すると、蒼月の後ろからリリィが歩いてきた。


「……スイカ、いる?」

「リリィ、持ってんのか?」

「……あげる」

「……は?」


 リリィが砂浜に手をかざすと、土の中から、

 一瞬でポコポコと、大量のスイカが生えてきた。


「忘れてた。こいつ、植物の忌能力者だったわ」

「いや、逆に、なんだと思ってたのさ」

「精霊術と猛毒と体力吸収エナジードレインくらいしか、ほとんど見ねぇからよ」

「まぁ、リリィちゃんは、能力幅が広いからね」


「……いらなかった?」

「そんなことはねぇ、礼を言う。お前ら、スイカ割りすっか!」


「うんっ!」

「賛成〜っ!」

「負けませんよっ!」

「私もデスっ!」


 こうして、夏の一大水着イベントの最後を締めくくる、

 月影と愉快な仲間たちによる、スイカ割り大会が始まった。



























            一人目 …… 不動ふどう 言ノ葉ことは



























 言ノ葉はバットを握ると、闘志に燃えていた。


「よっしゃ〜っ! やってやるのですっ!」

「うふふ。言ノ葉〜っ! 頑張って〜っ!」

「お母さんの応援は、わたしにパワーをくれるのですっ!」

「娘の頑張ってるところを見ると、ついつい嬉しくなっちゃうわね」

「いきますよ〜っ!」


 そういって、言ノ葉が大きく息を吸い込む。



『 スイカさん、こっちに来てくださいっ! 』



 その瞬間、スイカが飛び跳ねながら、言ノ葉の元に向かった。


「一本、取ったのだぁ〜!!」

「お前、それはズリぃだろっ!!」

「言ノ葉、ズルいよっ! それ、絶対に外さないやつじゃん!」

「ふっふっふ、忌能力は使ったもの勝ちなのですっ!」


 不満をぶつける灰夢と氷麗に、言ノ葉がドヤ顔を決める。

 すると、言ノ葉の背後から、ゴゴゴゴッという音が迫ってきた。


「……ん? 何の音ですか? これ……」

「おい、他のスイカも全部来たぞ」

「……えっ!?」

「頑張れよ、言ノ葉……」

「ちょちょちょっ!? それは、さすがに割り切れませぅわあぁぁぁぁっ!!」


 言ノ葉がそのまま、大量のスイカに押しつぶされていく。


「……自業自得だな」

「……ですね」


 それを見て、灰夢と氷麗は、ちょっとスカッとした気分になっていた。



























            二人目 …… たちばな 氷麗つらら



























 氷麗がバットを握り、息を吐いて呼吸を整える。


「ふぅ……。では、いきます……」

「頑張ってください、氷麗ちゃんっ!」

「うん、頑張るっ! ちゃんと見ててくださいね、お兄さんっ!」

「今は別に、修行じゃねぇけどな」


 すると、木のバットが凍り、そこから氷の棘が生えた。


「なんか、釘バットみてぇになったぞ」

「スイカを割る……と言うより、叩き殺す方が正しそうだな」


 満月と灰夢が、冷静に氷麗の動きを観察し、感想を述べる。

 すると、灰夢は影から羽織を取り出し、死印を刻み出した。



【  死術式展開しじゅつしきてんかい …… ❖ 迅檑じんらい ❖  】



「あるじぃ〜?」

「何してんだ? 灰夢……」

「バカでもここまでくれば、さすがに学習する」

「……?」

「……?」


 灰夢の謎の行動に、満月が白愛と共に首を傾げる。


「氷麗ちゃん、そこですっ!」

「──はぁっ!!」


 言ノ葉の指示と同時に、氷麗がバットを持ち上げる。


 それと同時に、水着の紐に氷の棘が引っかかり、

 豊満な胸を隠していた水着が、フワッと宙を舞った。


「──ひゃっ!?」



 ──その瞬間、光速で灰夢が移動し、氷麗を羽織で包み隠す。



「お前、こういう展開に持っていかねぇと気がすまねぇのか?」

「……しっ」

「……あ?」

「──しばらかしてやる〜っ!!!!」

「──ちょっ! なんで、俺が悪くなってんだよっ! お前、それ凶器だぞっ!」


 氷麗は棘の生えたバットを振り回しながら、

 砂浜一周分、灰夢をひたすら追い回し続けた。



( ……あそこまで予知すると、もはや蒼月の未来視レベルだな )



「……見ちゃダメ」

「……あぁ、僕の魔眼がっ!」


 リリィはそっと気付かぬところで、蒼月の魔眼を潰していた。



























            三人目 …… 狐魂ここん 風花ふうか



























「頑張れ〜っ! 風花〜っ!」

「スイカさん、どこ……ですか?」


 風花がヨチヨチと歩きながら、湖の方向に向かう。


「あれ……冷たい、です……」

「おい、そっち行くと溺れんz……」



 ──その瞬間、風花が水の中に消えた。



「こぼあぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」

「ギャァァァァァアアっ!! 風花ぁぁぁぁぁああぁ!!」


 叫ぶ鈴音を置いて、灰夢がダッシュで水の中へと飛び込む。


「怖かった、凄く……怖かった、です……」

「ったく、水に触れた時点で引き返せよ」


 風花がガタガタと震えながら、灰夢にくっついて丸くなる。



( 大変だなぁ、灰夢は…… )



 事ある毎に、必死に子供たちを庇いに走る灰夢を見て、

 満月はヒシヒシと、灰夢の保護レベルの高さを感じていた。



























            四人目 …… 狐魂ここん 鈴音すずな



























「よ〜しっ! 風花の仇ィ〜っ! おりゃ〜っ!」

「…………」

「おりゃ〜っ! おりゃ〜っ! おりゃ〜っ!」

「…………」


 鈴音は全然違う砂の上を、ポカポカと叩き回っていた。


「お〜い、離れてんぞぉ……」

「おっかしいなぁ、よ〜しっ!!」


 鈴音が妖術を使い、周囲に狐火を灯らせる。


「これで一気に、焼き払うぞぉ……あ、あれっ!?」

「……ん?」


 その瞬間、狐火が鈴音を包みこんでいった。



『 グアアアァァァァァァァァァアアアアッ!!!! 』



 炎の中から、白い化け狐が高々と咆哮を上げる。


「──ッ!?」

「──ね、姉さんがっ!!」


 それを見た灰夢が突っ走り、急いで影の中に鎮めた。


「ごめんなさい、また失敗しちゃった……」

「まぁ、スイカは割れたからいいんじゃねぇか?」

「割ったと言うよりは、踏み潰したの方が正しいけどな」


 無惨に潰れたスイカを見ながら、灰夢と満月が呟く。


「あわあわあわあわ、い、いいい、今の何ですかっ!?」

「ふっしー、あぁやって面倒見てるんだね」

「あははっ、おにーさんヤベぇ。只者じゃないや」

「今のバケモノは、ワタシたちでも手に負えないデスね」


 九尾を見た大精霊たちは、突然の迫力に目を丸くしていた。



























          五人目 …… 風の大精霊 シルフィー



























 シルフィーがバットを構えて、風を纏う。


「よ〜しっ! いっくよぉ〜っ!」



 <<< 風の精霊術・空蒼の鎌鼬 ファンタジー・ファルチェム・イクティス>>>



 精霊術と共にバットを振り、風の刃を飛ばすと、

 遠くに置いてあったスイカが、真っ二つになった。


「えへへっ、やった〜っ!」



「「「 おぉ〜っ!! 」」」



「あれ、バット要らないだろ」

「スイカ割りって、なんだっけな」


 完成を上げる家族を横目に、灰夢と満月が冷静に呟く。



























          六人目 …… 水の大精霊 ディーネ



























 ディーネは、目隠しでオドオドしながらも、

 意を決したように、バットを強く握りしめた。


「い、いきますっ!!」



 <<< 水の精霊術・破断の水刃 セカーレ・アクア・フェルム>>>



 握りしめたバットを振り、水の刃が飛ぶと、

 再び遠くに置かれたスイカが、綺麗に割れる。


「や、やりましたっ!」



「「「 おぉ〜っ! 」」」



「だから、バットで叩けよッ!!」

「あわあわあわあわあわあわっ!」


 我慢できなくなったら、灰夢のツッコミに、

 ディーネは目隠しをしたまま、パニクっていた。



























          七人目 …… 地の大精霊 ノーミー



























 バットを持ったノーミーは、謎のポーズを決めていた。


「ふっふっふ、このワタシの力を見せる時が、ついに来たデスねっ!」

「…………」

常夏の黒き稲妻を刻んだ果実スイカを、この手でバラバラにしてやるデスっ!」

「セリフはいいから、とっととやれいっ!」

「行くデスよっ!」


 スイカにバットを向けながら、ノーミーが詠唱を始める。



  <<< 精霊術・押し潰す巨巌の守護王コントンディート・プラエフェクトゥス・レックス >>>



「スイカ一つに本気出しすぎだろッ! バカか、お前はッ!!!」


 巨大なガーディアンの一撃で、スイカ諸共、砂浜の一部が吹き飛んだ。



























           八人目 …… 火の大精霊 サラ



























 バット持ったサラが、不敵な笑みを浮かべる。


「へっ、ノーミーになんか負けないよっ!」

「……張り合うな」



 <<< 火の精霊術・大地を喰らう火山龍テラ・エデッセ・ボルケーノ・ドラゴン >>>



「だから、張り合うなっつってんだろッ!!!」


 炎の龍が、勢いよくスイカを砕き割ると、

 その大爆発で、少しだけ周囲の木々が焼けた。



 ──その瞬間、灰夢の後ろから爆風が吹き荒れる。



「──ッ!?」

「おい、サラ。テメェ、ツラ貸せッ!!!」( ※ 裏リリィ )

「ご、ごめん、マスター……。ち、違うの……これは、たまたm……」

「問答無用だ。テメェに、拒否権はねぇんだよッ!!!」

「やだやだっ! 猛毒風呂だけは嫌だよ。誰か助けて、やめてぇ〜っ!!」


 涙目のサラがリリィに引きずられながら、森の中へと消えた。

 それを見た氷麗が灰夢の腕を掴みながら、ガタガタと震える。


「あの、お兄さん……」

「……なんだ? 氷麗……」

「今の人、誰ですか?」

「リリィだ、見りゃわかんだろ」

「キャラが違いすぎませんか!? なんか、髪の毛とかも真っ赤でしたし……」

「自然を壊したりすると、あぁなる。お前も気をつけろよ」

「……き、気をつけます」


 青ざめた顔で、氷麗がコクリと頷く。


「──オラァッ!!!」

「うわぁあぁあぁあぁんっ! ごめんなさぁ~いっ!!」


 森の中からは、サラの悲鳴が響き渡っていた。



























            九人目 …… 夜刀神やとがみ 恋白こはく



























「では、挑ませていただきますね」

「恋白なら、安心感あるな」



 <<< 水神術・蛇水眼すいじんじゅつ・じゃすいがん >>>



 数匹の蛇の形をした水が、地を這ってスイカに向かっていく。


「おぉ、頭いいな。スイカを探すのに水を使うとは……」

「水神術って、あんなことにも使えるんだね」

「水の神なだけの事はある。初めて見るものばかりだな」


 灰夢、蒼月、満月の三人が、恋白の術を冷静に観察する。

 すると、蛇の形をした水が、スイカにまとわりつき始めた。



 <<< 水神術・蛇水葬送すいじんじゅつ・じゃすいそうそう >>>



 その瞬間、恋白が自分の前に出した手を握りしめると、

 巻きついた水の水圧によって、スイカが粉々に粉砕された。


「えっ!? ちょ、バットじゃなくて、そのまま潰すのかよっ!!」

「しかも、ちょっとジャ〇プコミックで見たことありそうな術だったよ?」

「なんか、一瞬で感動が薄れたなぁ……」


 目隠しを外した恋白は、とても清々しい顔をしていた。



























            十人目 …… 鴉魔からすま 蒼月そうげつ



























 バットを持った蒼月が、それをクルクルと回す。


「よし。じゃ〜、いくよっ!!」

「目隠しの上から目隠しって、なんかすげぇな」


 すると、蒼月が手に持ったバットを、勢いよく空に投げ、

 落ちてくる前に、マグナムでスイカのド真ん中を撃ち抜いた。


「……いや、曲芸かよ」

「まぁ、なんかやる気はしてたけどな」


 灰夢と満月が、冷静に蒼月にツッコミを入れる。


「リリィ、こいつの魔力全部吸ってやれ」

「……いいの?」

「そんなことしたら、悪魔じゃ無くなっちゃうでしょ!!」


 氷麗がビクビクと震えながら、再び灰夢にしがみつく。


「お、おおお、お兄さん……。あの人、銃を撃ちましたよ……」

「あぁ、魔力銃な。アイツは、射撃のプロって前に言ったろ」

「やばい人疑惑だったものが、確信に変わりました」

「まぁ、否定はしねぇ……」

「──いや、してよっ!!!」


 氷麗の中の蒼月の印象が、ヤクザとして定着した瞬間だった。



























          十一人目 …… Lily blood roadリリィ ブラッド ロード 華月かげつ



























「……いくよ」

「なんか、あまりいい予感がしねぇな」


 バットを持ったリリィが、迷うことなくスイカに向かって歩いていく。


「おい。なんで、そんなに一直線なんだ?」

「だって、私、スイカの声、聞こえるから……」

「そうだ。こいつ、植物と話せるんだった」


「──フンッ!!!」( ※ 裏リリィ )


 一瞬だけデストロイモードになったリリィが、スイカを潰すと、

 まるで、血が飛び散ったかのように、辺りが真っ赤に染まった。



「「「 ──ひぃっ!? 」」」



 スイカを叩き潰したリリィが、清々しい顔で髪を退ける。


「うっし、これで終わりだな」

「なんで、同じバットなのに、原型が残ってないんだ?」

「なんかもう、中に爆薬が入ってたみたいな割れ方だな」


 無惨な姿になったスイカを見て、流石の灰夢たちもドン引く。


「というか、スイカの声はどうなった?」

「灰夢、それは聞いちゃダメなやつじゃないか?」

「だって、さっきまで『 声が聞こえる 』って言ってたじゃねぇか」


 その言葉に、真っ赤なバットを握るリリィが答える。


「普通に、『 ありがとう 』っつってんぞ」

「割られたのにお礼なのかよ」

「スイカが『 ボクは割られるために生まれてきた 』って言うからよ」

「そんな切ない話にするのやめてくれ。スイカが割りにくくなる」

「安心しな。スイカこいつの本体は、果実の部分じゃねぇよ」

「……そ、そうなのか」


 それでも少し、気まずさが残る月影たちだった。



























            十二人目 …… 不動ふどう 梟月きょうげつ



























「では、始めよう……」

「梟月くらいだな。まともな奴は……」


 その瞬間、梟月が口から光線を放ち、スイカを粉々に撃ち砕いた。


「灰夢、もう一回言ってみろ。今のセリフ……」

「悪ぃ、忘れてた……。こいつ、巨〇兵だった……」


 満月の言葉に、灰夢が呆れながら言葉を返す。


「こ、ここ、言ノ葉……。今、言ノ葉のお父さんが……。何か、口から……」

「あ、あはは……」


 唯一、月影の中で、まともだと思っていた不動夫婦の片割れが、

 普通の人間でないことを知り、氷麗は目を丸くして固まっていた。



























            十三人目 …… 不動ふどう 霊凪れいな



























「うふふ。確かに、これは難しいわね」

「頼むから、破壊しないでくれ。食える量が減る」

「そうね、ちゃんとスイカを残さなくっちゃ……」


 すると、霊凪の後ろから不動明王が浮かび上がる。


「なぁ……。あれ、原型残ると思うか?」

「いや、微塵も……」


 不動明王は、ゆっくりとスイカに手を伸ばすと、

 大きな手の親指と人差し指で挟み、プチッと潰した。


「これで、どうかしら?」

「おい。なんか、スイカがイクラにしか見えなかったぞ」

「確かに、食える部分は残ってるが、あまり食べたくねぇな」


 慣れすぎた故に、冷静に感想を述べる灰夢と満月とは裏腹に、

 不動明王の姿を目にした氷麗は、灰夢にくっついて震えていた。



























         十四人目 …… 熊寺くまでら 満月みちづき不知火しらぬい 白愛はくあ



























「ましゅたぁ~?」

「ほら、白愛。あのスイカに攻撃するんだ」



( ……完全にパパだな )



「手を伸ばして、こうだ。やってみな……」

「……うん。ばぁすとぉ〜!」



 <<< 機神撃・超電磁砲レールガン >>>



 白愛が腕を前に構えると、義手の手の平から、

 超電磁砲が放たれ、スイカを木っ端微塵に砕いた。


「「「 ……えっ!? 」」」


 その突然の光景に、一同が言葉を失う。


「……ましゅたぁ~?」

「よくやったなぁ! 凄いじゃないか、白愛っ!」

「えへへっ! ぐっ〜!」

「あぁ。ぐーっ、だなっ! はっはっはっ!」


「ガキの腕に、なんてもんくっつけてんだ。──テメェッ!!!」


 白愛と満月は、満足気な顔でグッドサインを交わしていた。



























             十五人目 …… 牙朧武がるむ



























 既にバットすら持っていない牙朧武が、目隠しをして構える。


「あんなもの、一瞬である……」

「お前、牙狼砲ぶっぱなしたら許さねぇからな?」

「ぐぬぬ、先手で釘を刺されてしまったか」

「やろうとしてんじゃねぇよ。食われねぇスイカが可哀想だろ」

「そうじゃな、ならば……」



 <<< 幻影呪術・悪食げんえいじゅじゅつ・あくじき >>>



 スイカの下から、バカでかい影狼が一口でスイカを飲み込む。


「おい、残ってねぇじゃねぇか」

「大丈夫じゃ、ちゃんと美味しく眷属が食べる」

「俺らが食うやつがねぇっつってんだよッ!!!」


 キレる灰夢を気にすることなく、牙朧武はドヤ顔を決めていた。



























        十七人目 …… 不死月しなづき 灰夢かいむ東雲しののめ 九十九つくも



























「ご主人、わらわを使っておくれ……」

「いや、バットで割らねぇと意味ねぇだろ」

「わらわの出番がないじゃろっ!」

「お前もバットで割りゃいいだろ」

「わらわは、ご主人の妖刀じゃ。いかなる時も、ご主人と一緒がよいっ!」

「はぁ、ったく……分かったから、雫落に変われ……」

「うむっ! さすが、ご主人っ!」


 九十九が雫落に変わり、灰夢が妖刀を構える。



 <<< 雷閃居合らいせんいあい壱ノ型いちのかた死電一閃しでんいっせん >>>



 稲妻を纏った灰夢が、刀を構えて目を瞑り、

 目にも止まらぬ速度で、スイカの上を通り過ぎる。


 すると、その数秒後に、スイカが綺麗に八つに切れた。



「「「 おぉ〜っ! 」」」



「さっすが、お兄ちゃんですっ!」

「お兄さん。ちょっとだけ、かっこよかったですよ」

「ダークマスターが稲妻を纏うと、こっちにもビビッと来るデスねっ!」

「お前ら、大袈裟過ぎんだろ」


 すると、切れたスイカが突如、蒼い炎に包まれて消えた。


「「「 ……あっ 」」」

「……あ?」


 そして、ボンッという音と共に、九十九が元の姿に戻る。


「……おい」

「流石じゃな、ご主人っ!」

「てめぇ、スイカ燃やしやがったな?」

「……ん? ちゃんと、演出もカッコよく決まっておったじゃろ?」

「食う部分が消えるっつってんだろッ!!!」


 褒めてほしそうな顔をする九十九に、灰夢がしかめっ面を向ける。


「派手な演出に妖力を消費してしもうた。分けておくれ……」

「なら、嫌という程くれてやるよ。このクソ幼刀ッ!!!」

いらいいらい痛い痛いほほがきれれしまうれな、おひゅひん……頬が切れてしまうでな、ご主人……


 精気を九十九吸わせながら、灰夢は頬をグリグリとつねっていた。



 ☆☆☆



「ちゃんと割れたのは、言ノ葉とシルフィーとディーネのだけじゃねぇか」

「それも、バットで割れたのは、言ノ葉のやつだけだしな」

「大丈夫。スイカなら、いっぱいあるから……」


 再びポコポコと、リリィがスイカを実らせる。


「なんか、ここまで増えると価値観なくなるな」

「でも、わたしは楽しかったのだぁ〜っ!」

「まぁ、夏の思い出にはなったか」

「はいっ! 最高の夏休みでしたっ!」


 そういって、言ノ葉と氷麗は、満面の笑みを見せた。


「私にもちょーだいっ!」

「風花も……。欲しい、です……」

「アタシにも〜っ!」

「ワタシも欲しいデスよっ!」


「全員にくれてやかっから、少し待ってろ。順番に並べっ!」



「「「 はーいっ! 」」」



























 真夏の、一大水着イベントは終わりを迎え、


       種族の壁を超えた、ひと夏の家族の思い出が、


             日差しに負けない笑顔と共に、心に刻まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る