第陸話 【 人生ゲーム 】

 その日、何気なく参加したボードゲームによって、


          灰夢は己の人生のスリルを、ヒシヒシと味わっていた。



























 事の発端は、言ノ葉がゲームを持ってきたことだった。


「お兄ちゃんっ! これ、一緒にやりませんか!?」

「……なんだ? それ……」

「人生 ( の墓場 ) ゲームですっ!」

「おい、なんか不穏なワードが挟まってたぞ。今……」


 灰夢の右膝に座る風花が、灰夢の顔を見上げる。


「おししょー……。人生ゲームって、なんですか?」

「お題をクリアしながら駒を進めて、人生を体験できるゲームだったか」

「人生体験、なるほど……」


 言ノ葉、氷麗、桜夢の三人が、ボードゲームを広げていく。


「お兄さん。良かったら、みんなでやりませんか?」

「狼さん。これ、6人までできるんだって!」

「なら、せっかく6人いるし、やってみるか」


 すると、今度は左膝の上に座る鈴音が、灰夢の顔を見上げる。


「ししょー。鈴音と風花、バラバラの人生になっちゃう?」

「……え? あ〜、まぁ、バラけるだろうな」

「おししょー、風花たち……2人で、1人じゃ……ダメ、ですか?」

「まぁ、それでもいいか」


「なら、5人でやりますか? お兄ちゃん……」

「いや、どうせ入ってくる」

「……え?」


 そんな灰夢の言葉と同時、言ノ葉の後ろの押し入れが開と、

 中から、白愛を抱いた満月と、付き添う恋白が姿を現した。


「待たせたな。オレ、参戦だ……」

「さんせんだー!」


「満月お兄ちゃん、白愛ちゃん……」

「恋白さんまで……」


 ノリノリの満月たちに、言ノ葉と氷麗がポカンと固まる。


「うっし、人数は十分だな。始めんぞ……」


 灰夢はボードゲームを広げると、早速子供たちと遊び始めた。


























 参加者Player …… 言ノ葉P1氷麗P2灰夢P3満月P4風花&鈴音P5牙朧武P6


 観戦者 …… ケダマ、桜夢、九十九、白愛、恋白。


























 みんなでボードゲームを囲み、駒を並べていく。


「桜夢殿は、参加しなくても良いのか?」

「なんか難しそうだから、まずは見て楽しんでみるっ!」

「なるほどのぉ……」


 すると、ボードを見ていた牙朧武が、違和感に気がついた。


「のぉ、灰夢よ……」

「なんだ? 牙朧武……」

「これは、己の人生を体験できるのじゃろ?」

「……おう」

「ならば、何故、100マスまでしかないんじゃ?」

「確かに……。なんで、命に終わりがあるんだ? こいつら……」


 灰夢と牙朧武が、顎に手を挙げながら考える。


「いや、お兄ちゃんたちと一緒にしないでくださいよ」

「なんでだよ。俺らの一生を体験できるんだろ?」

「お兄ちゃんを基準になんかしたら、終わらないじゃないですか」


「お兄さん。普通の人間は、100年程度しか生きないんですよ?」

「何事にも例外はあるということを、作者に伝えなきゃいけないな」


 ブツブツとゲームに不満を言う灰夢たちを、

 言ノ葉と氷麗は呆れながら、横目で見つめていた。


「オレは別に金がなくても、生成するから衣食住は困らないぞ?」

「ましゅたぁ〜、しゅごぉ〜いっ!」

「満月の場合は『 例外 』じゃなくて、『 論外 』だな」



























  こうして人生ゲームは始まり、淡々とターンは進んでいき……


        大きな問題を起こすことなく、ゲームは後半へと入っていった。



























 ❖ 言ノ葉のターン ❖



「では、行きますね」

「……おう」

「──えいっ!!」


 クルクルと回るルーレットを、全員が静かに見つめる。



 ルーレットの数値 …… 6



「えっと、お題は何ですかね?」



























    【 ルーレットで決まった相手と結婚し、祝い金5千円を貰う 】



























 内容を見た灰夢は、ゲームの流れが変わってきたことを理解した。


「結婚マスか、いよいよ出てきたな」

「……え? わたし、結婚できるんですか?」

「そりゃ、『 人生の墓場 』なんて言うくらいなんだから、結婚がメインだろ」

「あぁ、確かに。それもそうですね」


 ボードに書かれた内容を、参加メンバーが確認する。


「ルーレットの番号とプレイヤーナンバーで、結婚相手が決まるんじゃな」

「これ、同性同士だったらどうなるんだ?」

「アリみたいだな。まぁ、今どき同性がダメなんてこともねぇだろ」

「なんか、思ったより社会的に作られてるんだな。こういうのって……」


 満月は腕を組みながら、ゲームの奥深さに感心していた。


「と、とりあえず回してみます」

「……おう」


 回るルーレットに、全員の目が釘付けになる。



























            ルーレットの数値 …… 4



























「……『 4 』と言うと、満月だな」

「……オレか」


 言ノ葉は横で、体育座りをしながら落ち込んでいた。


「はぁ……。満月お兄ちゃんですか……」

「言ノ葉。目の前でガッカリされると、さすがに心が痛むんだが……」


 満月が寂しそうな顔で、落ち込む言ノ葉を見つめる。


「凄いのぉ、人生ゲームというのは。こんな事も出来るんじゃな」

「なかなかに、楽しい人生になって参りましたね」

「当の本人は、あまり楽しそうじゃねぇけどな」


 何故か、落ち込んでいる二人を見て、灰夢は一人、呆れていた。



























 ❖ 氷麗のターン ❖



「私の番、行きますね」

「……おう」


 みんなに見守られながら、氷麗がルーレットを回す。



 ルーレットの数値 …… 4



「まぁ、少し進んだな」

「えっと、内容は……」



























      【 彼氏だと思っていた男に騙され、1万2千円失う 】



























 内容を読んだ氷麗の顔が、一瞬で青ざめる。


「騙されて、お金取られた……」

「お前、ほんとついてねぇよな」


「私の人生、さっきからこんなのばっかり……」

「氷麗殿は、開幕からほとんど稼いでおらんのぉ……」

「氷麗の財産は、もう諭吉一人しか居ないんじゃないか?」


「本当に、リアルな人生ゲームですね」

「このゲームの作者を、少し見直した気がするよ」

「そこのリアリティ、全然求めてないんですけど……」


 氷麗はなけなしの所持金から、1万2千円失った。



























 ❖ 灰夢のターン ❖



「うっし、やるか」

「灰夢の番か、楽しみじゃな」

「主さま、頑張ってくださいませ」

「頑張るも何も、ルーレットを回すだけだがな」


 みんなに見守られながら、灰夢がルーレットを回す。



 ルーレットの数値 …… 1



「……ん?」

「あっ、これ……」



























    【 ルーレットで決まった相手と結婚し、祝い金5千円を貰う 】



























 ピンク色のマスに、全員の目が止まった。


「また、結婚マスですね」

「主さまが、ついに……ご結婚を、なさるのですね……」

「泣くなよ、恋白。お前は俺のお袋か?」

「このわたくしを差し置いて……」

「急にメンヘラを出すのやめろッ!!!」


 恋白の瞳が、カエルを睨む蛇のように変わる。


「狼さん、ワタシとは遊びだったんだね」

「いや、遊ぶつもりすらねぇよ」

「──ガーンッ!」


「わらわは、ご主人の愛刀じゃ。どこまでも、お供するぞよっ!」

「ついてくんなよ。嫁と修羅場になんだろ。あと、勝手に愛刀にすんな」

「そ、そんな……」


 灰夢にフラれた桜夢と九十九は、部屋の隅っこで落ち込んでいた。


「容赦ないな、お前……」

「感情の起伏が激しすぎんだろ」


「とりあえず、ルーレットを回してみよ」

「あぁ、そうだな……」


 牙朧武に言われるがまま、灰夢がルーレットを回し、

 クルクルと回るルーレットに、全員の目が釘付けになる。


























            ルーレットの数値 …… 5


























「『 5 』って……」

「風花と鈴音じゃな」

「うん、さすがロリコンだな」

「おい。いつ、ロリコンが確定した」


 ルーレットの数字を見た女性陣が、同時に灰夢を睨みつける。


「……主さま?」

「……お兄さん?」

「……狼さん?」

「……お兄ちゃん?」


「待て待て待て待てっ! ゲームだろ、ゲームっ!!」


「風花……。おししょーと、結婚したの……?」

「えっ、でも……。鈴音たち、2人いるよ?」

「おししょー、どっちと……結婚、するの?」

「ししょー、どっち?」


「2人で1人の精神はどこいった。こういう時だけ分裂すんな」

「幼女2人と結婚か、灰夢も立派になったな」

「成長の仕方がおかしいだろッ!!!」


 そんな気まずい空気の中、さらに人生ゲームは進んだ。



























 ❖ 満月のターン ❖



「……よし、やるか」

「……おう」


 回るルーレットを、全員が静かに見つめる。



 ルーレットの数値 …… 4



「……ん?」

「……あ?」



























        【 交通事故で骨折して入院、5万円失った 】



























 ボードの内容を見た全員が、満月の方に目を向けた。


「満月。お前、骨があったのか」

「パーツ交換するだけじゃ、ダメなのか?」

「パーツ再生出来ないくらい、深刻なダメージを受けたんだろ」

「オレ、何に轢かれたんだよ」

「轢かれたと言うよりは、砕かれたに近いだろうな」


 満月が不満そうな顔をしながら、渋々お金を支払う。


「忌能力が無いと、こんなに不便なんだな」

「チートレベルに有能だからな。お前の忌能力……」

「生活面でも、とてもお世話になっておりますからね」

「ましゅたぁ〜、しゅご〜いっ!」


 淡々と話を続ける灰夢たちを、氷麗は冷めた目で見つめていた。


「そういうことを再確認する為のゲームでしたっけ、これ……」

「己の忌能力の価値を見返せるとは、素晴らしいコンテンツじゃな」

「絶対、目的変わってきてますよね」

「よし、次だ。どんどんいくぞ……」



























 ❖ 風花&鈴音のターン ❖



「風花、やっていいよ!」

「うん、ありがとう……。頑張るね、姉さん……」


 風花の回したルーレットを、全員が静かに見つめる。



 ルーレットの数値 …… 5



「……次は、なんだ?」

「……どれどれ」



























      【 子供ができる。周囲から、祝い金3千円ずつ貰う 】



























 ──その瞬間、部屋の空気が固まった。


「おししょー。子供、できたよ……」


「……主さま?」

「……お兄さん?」

「……狼さん?」

「……お兄ちゃん?」


「なんで、俺が悪いみてぇになってんだよッ!!!」


「灰夢……。お前、幼女2人と……」

「満月……。てめぇ、それ以上言ったら、事故じゃなく俺がバラすぞ」


 灰夢が指を鳴らしながら、満月にガンを飛ばす。


「おししょー。どっちの、子供……?」

「ししょー、どっち?」

「頼むから、そういう時だけ分裂すんのやめてくんね?」


「ししょー。子供って、どうやってできるの?」

「カ、カラスが運んでくるんだ。きっと……」

「……蒼月さん?」

「目を覚ませ、あれはカラスっぽい変態だ」

「変態じゃなくて、悪魔な……」


 灰夢が双子に説明し、尽かさず満月がツッコミを入れる。


「そうですか。主さまは、幼い方が好みでいらしたのですね」

「頼むから、誰かコイツらにゲームという概念について説明してやってくれ」


「残念じゃな。今、お主の周りの小娘は、全て敵じゃ……」

「ある意味、この先に待ってそうな未来としては、間違ってない人生だな」

「誰でもいいから、この罪深き俺の人生を、とっとと終わらせてくれ」

「やれやれ、不死身が何か言っておるわぃ……」


 敵意を向ける女性陣を前に、灰夢は避ける選択肢がないことを悟った。



























 ❖ 牙朧武のターン ❖



「吾輩の番じゃな……」

「おう、頑張れ……」



 ルーレットの数値 …… 3



「……どれどれ」

「……なんだって?」



























    【 会社で大出世、給料10万円貰う。職業がランクアップ 】



























 何事もなく出世していく牙朧武を、灰夢と満月が白い目で見つめる。


「なぁ、牙朧武……」

「……なんじゃ?」

「お前、何で現代社会に普通に溶け込んでるんだよ」

「一番人間じゃないやつが、一番人間してるな」

「吾輩も、もう少しイベントが欲しいところじゃがのぉ……」


「牙朧武の職業って、なんだっけか?」

「えっと、政治家? とか言うやつになっておる」

「それのランクアップって、まさか……」

「……総理大臣? と、書かれておりますね」


「「「 ………… 」」」


 解説する恋白の言葉に、一同が言葉を失う。


「どうする、呪霊に国が乗っ取られたぞ?」

「さすが、牙朧武殿。国を滅ぼすと言われるだけあるのぉ……」

「国家に上り詰めて、内側から滅ぼしていくタイプだったのかよ」

「……器用だな」


 なけなしのお金を数える氷麗の頭に、灰夢がポンッと手を置く。


「その運気を、少しでも氷麗こいつに分けてやってくれ」

「私、そろそろお金が尽きそうです」


「言ノ葉。これ、所持金が消えたら、どうなるんだ?」

「ゲームオーバーですね。そこで、人生終了です」

「私、こんな形で死ぬんだ……」

「そんなマジトーンで言うなよ。なんか、触れにくいだろ」


 お金を見つめる氷麗の瞳は、既に光を失っていた。



























 ❖ 言ノ葉のターン ❖



「……い、いきますっ!」

「……おう」


 回るルーレットを、全員が静かに見つめる。



 ルーレットの数値 …… 3



「……次は、なんだ?」

「……えっとですね」



























   【 旦那の浮気が発覚、修羅場になる。離婚して慰謝料5万円貰う 】



























 内容を読んだ瞬間、冷たい視線が満月に集まった。


「……満月お兄ちゃん?」

「……満月さん?」

「……熊さん?」

「……満月くん?」

「クマの、お兄さん……。最低、です……」

「満月。お前、そういう奴だったのか……」


「待ってくれっ! 勝手に結婚させて、勝手に修羅場にしないでくれっ!」


「ましゅたぁ〜、さいてぇ〜?」

「白愛、こちらにいらっしゃい」

「……おねえちゃん?」



「白愛ぁあぁ……。オレは、何もかも失ったのか……」



 恋白に白愛を取られた満月が、鉄の瞳から涙を流す。


「浮気がバレるって、怖いな……」

「そう言う灰夢も、子狐2人と結婚しておるがな」


「なんで、灰夢は許されるのに、オレは許されないんだ……」


「主さま特権ですね」

「ラノベ主人公補正じゃな」

「おい、変な補正入れるんじゃねぇよ」


 満月は、心に深いダメージを負った。



























 ❖ 氷麗のターン ❖



「……い、行きます」

「……おう」


 死に迫る氷麗のルーレットに、全員の目が釘付けになる。


 ルーレットの数値 …… 6



「あっ、結構進みましたよっ!」

「おう、内容は……?」



























  【 強盗にあって5千円を失う。ルーレットで偶数なら生、奇数なら死 】



























 内容を見た氷麗は、四つん這いになって落ち込んでいた。


「また、お金を取られた……」

「やめてくれ。氷麗こいつのライフは、もうゼロだ……」

「次回、『 氷麗、死す 』か」

「次回予告でネタバレしないでくださいよっ!」


「凄いのぉ。この人生ゲームは、氷麗殿の人生を忠実に再現しておる」

「私には、何の補正が入ってるんでしょうか?」

「紛れもなく、トラブルメーカーだろ」


 氷麗が最後の札を握りながら、静かに涙を流す。


「私……あと、5千円……しかない、です……」

「次に強盗と出会ったら、チェックメイトだな」

「その前にルーレットで、今、死ぬかもしれないけどな」


「氷麗さまの人生に、終わりが見えて参りましたね」

「やめてください、恋白さん。神のあなたが言うと説得力が凄いです」


「とりあえず、ルーレット回してみろ」

「……は、はい」


 クルクルと回るルーレットは、ゆっくりと氷麗の未来を示した。


























            ルーレットの数値 …… 4


























「偶数か。何だかんだ、生きてはいるんだな」

「生命力は、ゴキ〇リ並か」

「あの、全然嬉しくないです。それ……」

「まるで、灰夢の様じゃな」

「おい、何で急に俺までディスられた?」

「それは、ちょっと嬉しいです」

「……なんでだよ」


 赤くなった頬を抑える氷麗に、灰夢が横目でツッコミを入れる。


「ギリギリを生かされるのも、また辛いな」

「やっぱり、私、呪われてるんだ……」


「牙朧武、お前少し金を恵んでやれよ」

「……良いのか?」

「そういうマスに止まるか、結婚すればな」

「救済ポイントか。それを狙うのは、また難しいのぉ……」


 牙朧武はボードを見つめながら、氷麗を救う手段を探していた。



























 ❖ 灰夢のターン ❖



「うっし、やるか」

「次は、どんな修羅場じゃろうな」

「ちょっと待て。なんで、修羅場になるのが前提なんだよ」

「もはや、お決まりだからだろ」

「見てろよ、てめぇら……。俺が今から、人生を逆転してやる」

「それが出来たら、リアルもこんな人生は送っとらんじゃろうに……」


 クルクルと回るルーレットを、全員が静かに見つめる。



 ルーレットの数値 …… 3



「おい、マジかよ……」

「お前、まさか……」


 ボードの内容に、全員が目を見開いた。



























       【 子供ができる。周囲から祝い金3千円を貰う 】



























「主さま。また、お二人に手を出されたのですね」

「恋白に素で言われると、マジで落ち込むからやめてくんね?」


「お兄ちゃん、変態さんなのです……」

「お兄さんのえっち……」

「狼さんのスケベェ……」

「全然祝福されねぇじゃん。何が祝い金だよ、せめて上辺だけでも祝えよ」


 不満そうな顔をしながら、灰夢が全員からお金を受け取る。


「おししょー。えっちさん、なの……?」

「気にすんな。こいつらが、俺らの幸せに嫉妬してるだけだ」

「鈴音たちは、ししょーの味方だよっ!」

「その笑顔のまま、お前らは健やかに大きくなってくれ」

「お前も本気で、パパ味が増してきたな。灰夢……」


 双子を優しく撫でる灰夢を見て、満月は静かに頷いていた。


「ってか、やべぇ。ガチめに氷麗を殺しに行きかけてる」

「今ので、なけなしの5千円から、3千円奪ったからのぉ……」

「むぅ〜、お兄さんなんか嫌いです!」

「トドメを刺すのが誰かによっては、こっちが( リアルで )殺されそうだな」


 頬を膨らませて、じーっと睨む氷麗から、灰夢が気まずそうに目をそらす。


「人生とは、実に不平等なものじゃのぉ……」

「灰夢は嫁2人に、子供も2人目が出来て幸せなのにな」


「おししょー、また……カラスさん、子供……持ってきたの?」

「みたいだな、俺らで幸せにしてやろう」

「ししょー、風花、大切にしよーねっ!」

「あぁ、頑張ろうな……」


 幸せそうに微笑む双子を、灰夢が優しく撫で、

 そんな幸せな空間を、牙朧武たちが静かに見守る。


「リアルに考えると、灰夢の立場は本当に凄いのぉ……」

「一夫多妻制ってやつじゃな」

「相手は幼女ですけどね」

「凄いのは俺じゃなくて、2人セットで嫁いで来る嫁の方だろ」


「灰夢、お前は世渡りが上手いな。オレは失敗したよ」

「サイボーグにも、トラウマや教訓は刻まれるんだな」


 満月は部屋の隅で、小さく丸まっていた。



























 ❖ 満月のターン ❖



「なんかもう、回すのが怖いな」

「安心しろ。お前は、既に捨てられた身だ」

「慰めになってないだろッ!!!」


 何処か、希望の無い瞳で、満月がルーレットを回す。



 ルーレットの数値 …… 4



「……どれどれ」

「……ん?」



























         【 家を買う。好きな家1つに旗を立てる 】



























 目を丸くする満月の肩に、灰夢はポンッと手を置いた。


「よかったな。人生の再スタート感あるぞ」

「家なんか、自分で立てれば良くないか?」

「なんでもかんでも、忌能力で解決しようとすんなよ」

「仕方ないだろ。そういう生き方しかしてないんだから……」


「こいつ、忌能力なかったら生きて行けねぇんじゃねえか?」

「忌能力がなかったら、オレもお前もとっくに死んでるよ」

「確かに、それは間違ってねぇな」

「あの、リアル過ぎる話に持っていくの、やめませんか?」


 生々しい二人の会話に、氷麗が冷めた視線を向ける。


「なら、この家にしておくか……」

「赤い屋根の大きなお家でございますね」

「待て、恋白。そのフレーズは、既に中にファミリーが住んでるやつだ」

「……そうなのですか?」


「既に居る家族と同居とは。さすが、満月殿であるのぉ……」

「でもそれ、架空の話だよね?」

「桜夢、言ってやるな。こいつは、今、架空でも家族が欲しいんだ」

「やめろよっ! オレが現実逃避した寂しいやつみたいだろっ!」

「……違ぇのか?」

「いや、違ぇよッ!!!」

「現実とは、世知辛いのぉ……」


 すると、恋白が家の模型の屋根を見て呟いた。


「満月さま。この建物は、購入者に特典があるそうですよ」

「まさか、本当にシル〇ニアなファミリーがっ!?」

「ちょっと期待してんじゃねぇよ」

「本当だ。屋根に『 OPEN 』って書いてありますね」

「よかったのぉ、幻想で終わらなくて……」

「あぁ、これでオレもようやく……」


 満月が屋根を開けると、小さな刀の模型が置いてあった。


「おい、なんだこれは……」

「あれか、シル〇ニアな奴らの置き土産か」

「やめろよっ! 幽霊物件になっちゃうだろっ!」


「ここに、説明が書いてありますよ」

「なんて書いてあるんだ?」





 【  ❖ 妖刀ようとう鬼神斬波きじんざんぱ ❖  】


 前の住民の忘れ物、我が身に降りかかる災いを無効化できる。

 その代償として、災いを押し退ける度に、所持金が半分になる。





「いやもう、九十九だろ。それ……」

「わらわは、満月殿の家に忘れられておったのか」

「お前がいると、金が減るってよ」

「でも、強盗に殺されかけたりすると、返り討ちにするらしいぞ」

「まぁ、死なない代わりに金が減るなら、安いもんか」


 小さな刀の模型を、氷麗がじーっと見つめる。


「それ、私が欲しいんですけど……」

「確かに、満月は災いじゃなく、孤独なだけだからな」

「もう一人ではないぞ、満月殿。風呂もご飯も寝る時も、わらわがおる」

「ここに擬人化の設定はねぇけどな」

「オレは毎晩、刃物を抱いて寝るのか」

「ヤベェやつだな、確実に……」



























 ❖ 風花&鈴音のターン ❖



「次は、わたしがやるね」

「うん……姉さん、頑張って……」


 鈴音は勢いよく、ルーレットを回した。



 ルーレットの数値 …… 6



「やったぁ〜! いっぱい進んだ〜っ!」

「灰夢、なんて書いてあるんじゃ?」

「えっとなぁ……」



























        【 ベットが壊れた。家族全員が2千円失う 】



























 ボードに書かれた内容を見て、一斉に視線が灰夢に集まる。


「おししょー、ベット……壊れちゃった、です……」

「お前ら、ベットが壊れる勢いで……」

「まぁ、2人も嫁がおるからのぉ……」

「その上、子供も既に2人いるもんね……」


「勝手に変な理由を付けるんじゃねぇッ!!!」


「鈴音たちがいると、ベット壊れちゃうの?」

「あ〜、きっとあれだ。家族5人の体重に、耐えられなかったんだろ」

「そっか……。新しい、ベットは……大きいの、買いましょう……」

「あぁ、そうだな……」


「なんじゃろうな。とても眩しい、尊みを感じるのぉ……」

「影に住むわらわ達には、ちと眩しすぎるのぉ……」

「監獄にいたワタシにも、この輝きはなかなか辛いよ」


 純粋無垢な瞳の双子は、腐った心にダメージを与えていた。



























 ❖ 牙朧武のターン ❖



「さて、参るとするかのぉ……」

「お前はそろそろ、トラブってもいいんじゃねぇか?」

「吾輩もそうしたいところなんじゃが……」


 危機を感じさせない牙朧武が、静かにルーレットを回す。



 ルーレットの数値 …… 5



「おぉ、なんか凄い色のマスだな」

「なんて書いてあるんだ?」


 全員の視線が、ボードに書かれた文字に集まる。



























     【 株の売買に大成功。ルーレットの数字分だけ倍になる 】



























 まさかの内容に、全員の目が丸くなった。


「株までやってるのか、牙朧武……」

「灰夢よ、株とは何じゃ?」

「要するに、企業に金を貸して、儲けたら利益を少し貰う感じだな」

「完全に、世渡りのスペシャリストになってますね、牙朧武さん……」


 大金を抱える牙朧武を、氷麗が羨ましそうに見つめる。


「牙朧武。お前って、今、いくら持ってんだ?」

「えっと、70万円じゃな……」

「それが数倍になるの、だいぶやばくね?」

「現時点でも、オレらの中じゃダントツの勝ち組だからな」


「牙朧武殿の総理大臣という仕事は、本当に凄いのぉ……」

「氷麗はもう、あと2千円しかねえってのに……」

「人生って、残酷だな……」

「そろそろ、本気で泣きますよ? 私……」


 牙朧武が迷うことなく、サッとルーレットを回す。



 ルーレットの数値 …… 6



「最大倍率を引き当てやがった……」

「所持金が、420万になったのぉ……」

「おぉ〜っ! 影の狼さん凄〜いっ!」

「こいつ、運気持ちすぎだろ」

「呪霊とは思えないくらい、脅威的な幸運だな」

「呪いの概念は、どこに行ったんだよ」


 牙朧武が集めたお金を見ながら、そっと首を傾げる。


「吾輩、お金の価値感がイマイチ分からんのじゃが……」

「とりあえず、この世界では持ってねぇやつは死ぬものだ」

「今の、氷麗のようにな……」


「うわあぁあぁん……。もう、私……こんな人生、嫌だぁ……」

「おい、泣くな。リアルはちゃんと生活出来てんだろ」

「おにぃざぁ〜ん。わだじ……ぐすっ、じにだくないよぉ……」


 追い込まれた氷麗は、灰夢の胸に泣きついていた。


「氷麗さまは、ご苦労のなさる人生だったのですね」

「灰夢。お前って、こういう時はちゃんと優しいよな」

「あるじぃ~、やさし〜?」

「ご主人は、女の涙には弱いところがあるからのぉ……」

「まぁ、だから狼さんは、すぐ修羅場になるんだけどね」

「おい、人の優しさをチャラ男みてぇに言うんじゃねぇよ」


 涙を流す氷麗を、牙朧武が申し訳なさそうに見つめる。


「なんじゃろう。吾輩、何故か罪悪感を感じるのぉ……」

「大丈夫です。牙朧武さまは、悪くないと思いますよ」


 どんよりと落ち込む牙朧武を、恋白はそっと慰めていた。



























 ❖ 言ノ葉のターン ❖



「いきますよぉ〜っ!」

「浮気された女の再スタートか」

「なんか、重いのぉ……」

「やめてくださいよっ! 回しにくいじゃないですかっ!」

「安心しろ。落ちるところまで落ちたら、あとは上るだけだ」

「それ、全然慰めになってないのだぁ……」


 虚しさだけを残したルーレットが、クルクルと回り出す。



 ルーレットの数値 …… 4



「えっとえっと……」

「うわぁ……」


 ボードに書かれた内容を読むと同時に、全員が一瞬で冷めた瞳に変わった。



























    【 ルーレットを回して、止まった相手が結婚してたら別れさせる 】



























 まさかの内容に、全員の視線が言ノ葉に向く。


「言ノ葉ちゃん、他の人を別れさせることができるの?」

「なんだか離婚して、世間への逆恨みのようになっておりますね」

「言ノ葉、そこまで追い込まれていたなんて……」

「末期だと思っていたが、まだ落ちる領域があったのか」

「なんか、わたし……だんだん、悪役みたいになってませんか!?」

「見たいというか、確実になってるだろ」


 会話が飛び交うほどに、部屋の空気は重くなっていた。


「3か5なら、灰夢たちが別れることになるのぉ……」

「おい、満月。お前が浮気するから、周りにも被害が出てきたぞ」

「嘘だろ……。オレの元嫁、ヒステリックやば過ぎないか?」

「やめてくださいっ! 本当に罪悪感を感じますからっ!」


「言ノ葉、お姉ちゃん……。風花たちのこと、嫌いですか?」

「言ノ葉お姉ちゃん……。鈴音たちのこと、恨んでるの?」

「待ってくださいっ! ゲームですっ! そんなことはないですっ!」


 追い詰められていく言ノ葉が、必死に弁解を試みる。


「まぁ、いいからルーレット回してみな」

「は、はい……」


 灰夢に言われるがままに、言ノ葉はルーレットを回した。



























            ルーレットの数値 …… 5



























「でちゃった、5番……」

「おししょー、風花たち……。バイバイ、です……」


 番号を見た風鈴姉妹が、どんよりと落ち込む。


「わああぁぁぁぁ!!! ごめんなさい、ごめんなさいなのですぅ~っ!」

「なんとも罪深いゲームだな。これ……」

「さすが、人生の墓場と言うくらいのことはあるな」

「いや、修羅場の間違いだろ」


「言ノ葉、元気だして……」

「うわあぁあぁん、慰めが逆に辛いのですよぉ……」

「泣くな泣くな。誰も本気で嫌っちゃいねぇよ」

「おにいぢゃあぁあぁん……」


 言ノ葉は涙を流しながら、灰夢の胸に抱きついていた。


「女泣かせな男だなぁ、灰夢は……」

「この場合、普通は泣くの、俺らの方じゃねぇか?」

「まぁ、それもそうじゃな」


「別れるとなると、二人の子供はどうなるのじゃ?」

「そこは、一人ずつジャンケンみたいですよ?」

「ん〜。ゲームだし、均等に分けときゃいいんじゃねぇか?」

「まぁ、その方が穏やかでいいか」



























 ❖ 氷麗のターン ❖



「氷麗さまの場合は、生死が関わってくるルーレットでございますね」

「お前の最後、ちゃんと見届けてやるからな」

「やめてくださいよ、本当に終わっちゃうじゃないですかっ!」


 氷麗が緊張感に包まれたながら、ルーレットを回す。



 ルーレットの数値 …… 5



「……えっと」

「……どうだ? 生きてるか?」

「生存確認からはいるの、やめてくれませんか?」



























   【 ルーレットで決まった相手と結婚し、祝い金3万円ずつ貰う 】



























 虚しい空気から一変、ようやく氷麗に笑顔が戻った。


「おぉ、全員フリーの時に、これまた来たのぉ……」

「これはワクワクだねっ!」

「私が、結婚……」

「怖いな。もう『 結婚 』ってワードがトラウマになりそうだ」


 部屋の隅に蹲りながら、満月がボソボソと恐怖を語る。


「まぁ、ぶっちゃけ満月自身からは、そういうの無いんだけどな」

「家買ったり、骨折したりしておるだけじゃからのぉ……」

「確かに、振り回されておるだけじゃからな」

「満月さまも、大変ですね」

「そういうカバーは、さっき言って欲しかったよ」


 氷麗がルーレットを掴み、大きく深呼吸をした。


「い、行きますよ……」

「頑張るのじゃ、氷麗殿……」

「頑張るも何も、ただルーレットを回すだけだろ」


「氷麗ちゃんの結婚相手、誰かな〜?」

「ワクワク、です……」

「ドキドキ、だね……」


 氷麗の回したルーレットに、全員の目が釘付けになる。



























            ルーレットの数値 …… 6



























 その数字を見て、全員の目が丸くなった。


「……あっ」

「……牙朧武、結婚おめでとう」

「……吾輩、結婚したのか?」

「みたいじゃのぉ。牙朧武殿、お幸せにじゃ……」


「よかったな、氷麗。総理大臣とは、この上ない玉の輿こしだぞ……」

「あの貧乏人から、一瞬で金持ちか。人生は何があるからわからんな」

「牙朧武さんは好きなんですけど、ちょっと複雑な気持ちです」

「まぁ、少なからず、身も心も人間じゃねぇからな」


 キョトンとする牙朧武に、全員の視線が集まる。


「牙朧武殿は一応、男気があるから大丈夫じゃろ」

「……一応?」

「こいつは男っぽいが、そもそも【 性別 】って概念がねぇんだよ」

「……そうなのか」

「牙朧武は【 呪い 】が具現化して、形になった存在だからな」

「子孫を残すような考え方は、吾輩にはないからのぉ……」

「それもまた、反応に困るな」


「私、何と結婚したんですか?」

「性別不明の、よく喋る犬……」

「なんだか、人の道を外れてしまった気がします」

「安心しろ。リアルも、だいぶ外れてっから……」


 氷麗は改めて、普通という概念が失われつつあることを理解した。



























 ❖ 灰夢のターン ❖



「さて、俺の番だな」

「次は、どんな修羅場だろうな」

「もう、つっこまねぇぞ?」


 灰夢が緊張感の欠片も無く、ルーレットをクルッと回す。



 ルーレットの数値 …… 3



「3マスか、どれどれ……」

「なんか、飛行機の絵が描いてあるな」

「おぉ、旅行マスなんてのがあるのか」

「なんて書いてあるんだ?」



























   【 無人島で子持ちの女性を救い結婚する。祝い金を3万円ずつ貰う 】



























「おい、登場人物じゃねぇ奴と結婚したぞ。こいつ……」

「無人島で子持ちの女性を救うなど、聞き覚えしかないんじゃが……」

「なるほど、モテる男は格が違うわけだ」

「実際はモテると言うより、モンス〇ーハンターしただけだがな」


 その内容を見た恋白が、灰夢の手をガッと掴んだ。


「主さま。わたくし、主さまに一生を捧げますっ!」

「あるじぃ〜、ささげるぅ〜!」

「……お、おう」


 ぐいぐいっと顔を寄せる恋白の圧力に、灰夢が言葉を失う。


「おししょー、取られちゃった……」

「ししょーはもう、帰ってこないんだね」

「切実に悲しむのやめてくれ、なんか罪悪感を感じっから……」


 しょんぼりと落ち込む風鈴姉妹に、灰夢が呆れた視線を向ける。

 すると、後ろで見ていた桜夢が、トントンっと灰夢の肩を叩いた。


「ねぇ、狼さん……」

「……ん?」

「ワタシのことも、あの時みたいに迎えに来てよ」

「お前の場合は迎えに行ったんじゃなくて、お前が俺を殺しに来たんだろ」

「あっ、そうだった……」


「どうせ、お兄さんは誰でも助けるお人好しですもんねっ!」

「お兄ちゃんは、わたしのことを妹としか思ってないですもんねっ!」

「祝い金を渡す時に、罵倒する風習でもあるのか? お前らは……」


 頬を膨らませながら、言ノ葉と氷麗が祝い金を渡す。


「お前はいいな。オレはこんなにも、孤独になってしまったというのに……」

「なんでここで、満月がダメージ受けてんだよ」


 満月は妖刀のレプリカ、【 鬼神斬波 】を握りしめながら、

 どこか寂しそうな顔で、赤い屋根の大きなお家を見つめていた。



























 ❖ 満月のターン ❖



「はぁ、やるか……」

「頑張れ、満月殿……」

「なんかもう、一番活力をそこなってるな。お前……」


 無気力な顔をした満月が、そっとルーレットを回す。



 ルーレットの数値 …… 4



「おぉ、ピンクマスじゃ……。家族が増えるのではないか?」

「まさか、ようやくオレにも再び希望の光がっ!?」


 マスの色を見た満月が、夢と希望に胸を膨らませる。



























   【 猫を拾った。猫が5万円を持って帰ってきた。5万円貰う 】



























「よかったな、満月。無事に家族が増えたぞ」

「きっと、ケダマを拾ったんじゃな」


「……にゃ〜ん?」


「あぁ、うん。オレ、これ二度と結婚できないやつだわ」

「ペットを飼い始めましたからね」

「さすが、シル〇ニアに住んでるだけはある。動物には好かれるんだな」


 キョトンとするケダマを、満月が優しく撫でる。


「なんだかんだ、満月殿が一番ついてないのではないか?」

「確かに、傍から見ておると孤独死してしまいそうじゃな」

「いや、人を離婚させてる言ノ葉よりはマシだろ」


「ぬぁんですか、わたしが一番ヤバい人みたいじゃないですかっ!」

「人を追い込むレベルに、精神追い詰められてんだぞ。お前……」

「かなりヒステリックになっておるからのぉ……」

「言霊の力は、人の人生すら変えるのか」

「使ってませんよっ! わたしを嫉妬の化身みたいにしないでくださいっ!」


 溢れ者たちのくだらない争いが、小さな六畳間で巻き起こっていた。



























 ❖ 風花&鈴音のターン ❖



「……いきます」

「……おう」

「……頑張って、風花っ!」

「……うんっ!」


 風花が小さな手で、クイッとルーレットを回す。



 ルーレットの数値 …… 2



「なぁ、後半ピンクマス多くないか?」

「何としても、人生の墓場に持っていかせようとしとるんじゃろ」

「怖過ぎんだろ、このゲーム……」


 恐怖を感じながらも、灰夢たちがボードの内容を読んでいく。



























          【 最後に別れた相手と、寄りを戻す 】



























 内容を読むと同時に、全員の視線が灰夢に向いた。


「……ん?」

「灰夢……。お前、復縁したぞ……」

「待て、島で救った二人はどうなるんだ?」

「……二重結婚じゃな」


「は〜いっ! 重罪だ〜、修羅場だ〜っ!」

「満月お兄ちゃん、嬉しそうです」

「俺を仲間に引き込もうとするんじゃねぇよ」


「それで、これはどうなるんじゃ?」

「恋白、そこら辺に説明書がなかったか?」

「えっと、少々お待ちくださいね」


 恋白が説明書をめくり、内容を声に出して読んでいく。



























 ❖ 人生 ( の墓場 ) ゲーム …… ルール ❖


 できる限り家族を増やし、最後に家族の人数で勝敗を決します。

 人数が同じ場合は、家族の合計金額によって、順位が決まります。



























 その、まさかのルール内容に、一同が目を丸くする。


「これ、金が多い奴が勝ちってゲームじゃねぇのか」

「もしかして、後半はチーム戦になるってことか?」

「一夫多妻制を超える勢いで、誘導してくるんですね」

「生々しいというか、なんとも独特な設定じゃな」


「風鈴姉妹は一人に換算するとしても、島の二人はゲーム設定だよな」

「お主らは、別れる前の子供もおるしのぉ……」

「おい、猫も家族に入るぞ。これ……」


 説明書を受け取った満月が、詳しい内容を読み込んでいく。


「ということは、わらわも……」

「いや、さすがに刀を家族のカウントには含めねぇだろ」

「むぅ〜、妖刀ハラスメントじゃな」

「何を一丁前に横文字使ってやがんだ」


「いや、入るぞ。妖刀……」

「……は?」

「ほら、ここに書いてあるだろ?」


 満月の開いたページを、灰夢が目を凝らしながら見つめる。


「マジじゃん、本当にカウントすんのかよ」

「凄いね。本当にみんなが登場してるみたいっ!」

「桜夢はいねぇけどな」

「──ハッ、確かに……。ワタシだけいない……」


 深刻そうな顔をする桜夢を気にすることなく、

 灰夢は影から、ホワイトボードとペンを取り出した。


「つまり、今の順位はこういうことか?」



























 一位 風鈴姉妹 & 灰夢 & 子供二人 & 島の二人 …… 6ポイント


 二位 氷麗 & 牙朧武 …… 2ポイント + 高額現金


 三位 満月 & 妖刀 & 猫 …… 3ポイント


 四位 言ノ葉 …… 1ポイント



























 書かれたポイントを見ながら、全員が状況を把握する。


「なるほど、ラノベ主人公補正が最強だったか」

「俺はてっきり、牙朧武の社会的地位が最強だと思ってたんだがな」


「何じゃろうな。一位と四位を並べると、どこか悲しくなるのぉ……」

「言わないでくださいよ、九十九さん……」


 ボードを見た言ノ葉は、改めて自分の状況を理解していた。



























 ❖ 牙朧武のターン ❖



「吾輩の番じゃな……」

「おう、頑張れ……」


 牙朧武がルーレットを掴み、くるっと捻る。



 ルーレットの数値 …… 3



 ボードの演出が、一同にゲームのクライマックスを知らせていた。


「そろそろ、終盤に近づいてきたのぉ……」

「結婚すると、家族全体が倍速で動くから、尚更だな」

「イベント内容、なんだって?」



























  【 道で猫を見かけ追いかけた。猫を飼ってる者と恋に落ち、結婚する 】



























 予想だにしない出会いに、一同が口を開いたまま固まった。


「おい、満月と牙朧武が恋に落ちたぞ」

「シル〇ニアファミリーと言うのは、本当に動物を引き寄せるのですね」

「牙朧武は動物に含んでもいいのか?」

「その前に、恋に落ちたという点について、疑問を持って欲しいんですけど……」

「牙朧武殿は事実上、男にも女もなれるからのぉ……」

「ちょっと言葉にできない複雑な心境だが、今のオレには十分だ……」

「それでいいのかよ、満月……」


「我輩と共にゆこう、満月よっ!」

「あぁ……。牙朧武に出会えて、オレは幸せだぞっ!」


 暑苦しい群青劇に、一同が冷たい視線を送る。


「ロボットと呪霊の純愛劇が始まりましたね」

「どこから突っ込みゃいいんだ、これは……」

「ちょっと、暑苦しいのです……」


「ケダマ殿が、満月殿を孤独から救ってくれたんじゃな」

「ケダマ……。オレ、お前を一生大切にするぞっ!」

「……んにゃ〜?」


 満月のドヤ顔を見ながら、ケダマは首を傾げていた。







 現在の順位……


 一位 風鈴姉妹 & 灰夢 & 子供二人 & 島の二人 …… 6ポイント


 二位 氷麗 & 牙朧武 & 満月 & 妖刀 & 猫 …… 5ポイント


 三位 言ノ葉 …… 1ポイント






「なんか、ますます言ノ葉が悲しく見えてくるな」

「いいですよ。どうせ、わたしは嫉妬の化身ですよっ!!」

「もう、開き直ってきてんじゃねぇか」


「その割には、灰夢の服から手は離さないんだな」

「だって、だって……」

「嫌ったりしねぇって、大丈夫だって……」


 言ノ葉が涙目になりながら、ギュッと羽織を掴み直す。

 それを見た氷麗が、言ノ葉の反対側から羽織を掴み出した。


「ズルいべさ、言ノ葉……」

「あのなぁ、暑苦しいんだよ。お前ら……」


「狼さ〜ん、ワタシも〜っ!」

「はぁ……」


 両膝に風花と鈴音を乗せ、右袖を氷麗、左袖を言ノ葉が掴み、

 背中から桜夢に抱きつかれる灰夢が、一人、大きくため息をつく。


「モテる男は辛いなぁ、灰夢……」

「リアルまで修羅場に持ってくんじゃねぇぞ? てめぇら……」

「それはそれとして、ここからハッピーエンドに持っていくのは結構キツイぞ?」

「人生がハッピーになる未来は、限りなく少ねぇってことだな」

「現実は厳しいのぉ……」


 背中にくっついた桜夢が、後ろからゲームボードを見つめる。


「ねぇ、狼さん……」

「……ん?」

「ワタシ、どこにもいないよぉ……」

「さすがに、俺を殺しにくる設定が出てきたら野蛮がすぎんだろ」


「ゆうて、島に救いに行っとる時点で、割と凄い展開じゃがな」

「それに、氷麗は強盗だので何度か死にかけてるしな」

「確かに、ありえなくもないな」


「怖いです。私、もう一人になりたくない」

「大丈夫じゃ、吾輩が必ず護ってやろう」

「……牙朧武さん」

「やべぇ、本気で牙朧武がおとこになってきてらぁ……」


 財力に溢れる牙朧武の姿が、氷麗には神のように見えていた。



























 ❖ 言ノ葉のターン ❖



「……い、いきますっ!」

「もう、お前から変わらねぇと救ってやれる気がしねぇ、頑張ってくれ……」


 緊張感に包まれながら、言ノ葉がルーレットを回す。



 ルーレットの数値 …… 3



「まだまだ先はあるので、希望ありですっ!」

「まぁ、言ノ葉だけ一人分のペースでしか進んでないもんな」

「なんか、【 おひとり様ルート 】とか言うのに入っていったぞ」

「結婚してないやつしか入れないのか、ここ……」


 枝分かれした道を曲がり、言ノ葉が個別ルートに進む。


「ということは、家族を増やすチャンスが多いのではないでしょうか?」

「名前だけ聞くと、そんな感じは微塵もしねぇけどな」

「止まったところ、なんて書いてあるんだ?」

「えっと、どれどれ……」



























      【 孤独を埋めるために奴隷を買った。2万円失う 】



























「おう、でてきたじゃねぇかっ! よかったな、桜夢……」

「えぇーー!! ワタシ、言ノ葉ちゃんの奴隷なの!?」


 まさかの登場の仕方に、桜夢がショックで固まる。


「言ノ葉、お前……」

「そんなにも病んでたんじゃのぉ……」

「なぁんで、わたしはこんな悪役ばっかりなんですかぁ〜っ!」

「痛てぇ、痛てぇよ。言ノ葉……」


 言ノ葉は涙を流しながら、灰夢にポコポコと理不尽をぶつけていた。



























 ❖ 氷麗のターン ❖



「……いきますっ!」

「……おう」


 氷麗が勢いをつけながら、ぐるんっとルーレットを回す。



 ルーレットの数値 …… 1



「全然進みませんでした……」

「まぁまぁ、牙朧武殿と満月殿の振りでも進むんじゃ、大丈夫じゃろ」

「おい。またピンクのマスだぞ。そこ……」

「ほんとに結婚ラッシュだな」


 マスに書かれた内容を、全員がじーっと覗き込む。



























      【 現状一位の魅力に惹かれ、恋に落ち、結婚する 】



























「なんだ、この欲にたかるようなパワーワードは……」

「私、お兄さんに……恋を、しちゃった……」

「今日のイベントの中で、一番嬉しそうな顔してるおるな。氷麗殿……」

「これが、トキメキというやつなんじゃろうな」


 キラキラと熱い視線を、灰夢が冷めた瞳で見つめ返す。


「お前、もう家族いるだろ」

「まぁ、いますね……。呪霊とロボットと、猫と妖刀が……」

「……いすぎだろ」

「牙朧武殿と満月殿も、恋に落ちとるしのぉ……」

「本当に、なんでもありだな。この人生……」

「ほら、灰夢。お前にやるよ、この妖刀……」


 満月がホイッと、刀のレプリカを灰夢に投げ、

 流れるように、九十九が灰夢に向かって宙を舞った。


「ようやく出逢えたな、ご主人っ!」

「…………」


 九十九が抱きつく瞬間に、灰夢が右手でガッと顔を掴む。


「俺が出会ったのは、お前じゃなくて氷麗だ」

「ご、ごごご、ご主人……。痛ぃ、痛ぃ……」






 現在の順位……


 一位 風鈴姉妹 & 灰夢 & 妖刀 & 子供二人 & 島の二人

    氷麗 & 牙朧武 & 満月 & 猫 …… 11ポイント


 二位 言ノ葉 & 奴隷 …… 2ポイント






「やべぇ、もう何も言えねぇ……」

「言ノ葉、なんでこんなことに……」

「辛すぎませんか? わたしの人生……」


 どんよりと落ち込む言ノ葉を、灰夢と氷麗が無言で見つめる。


「終始奴隷の桜夢もまた、なんとも言えないな」

「ワタシ、奴隷のまんま終わっちゃう」

「誰だ? こんなゲーム考えたやつ、ツラ貸せ……」

「こんな人生、普通は体験せぬものなんじゃろう」

「まぁ、そうじゃろうな」


 参加者たちは、自分たちの人生が普通でないことを再認識した。



























 ❖ 灰夢のターン ❖



「あと4以上でゴールだな」

「さて、とっとと終わりにするか」


 躊躇することなく、灰夢がルーレットを回す。



 ルーレットの数値 …… 3



「うん、終わらなかったわ」

「……何だ? この、無駄にハートがいっぱい書いてあるマスは……」

「どれどれ……」


 ゴール一歩手前のマスに、全員の視線が集まった。



























  【 全ての奴隷を解放し、家族として迎え居れ、もう一度ルーレットを回す 】



























「うわぁ、なんか最後に強制ハッピーエンドに持っていったぞ、こいつ……」

「狼さん、ワタシを助けてくれたのっ!?」

「……え? まぁ〜、そうなるのか。これは……」

「やったやったぁ〜っ! えへへ、狼さん〜っ! ばり好いと〜よ〜っ!」

「やめろ、くっつくな……」


 桜夢が満面の笑みを浮かべながら、グラグラと灰夢の体を揺らす。


「さすが、ラノベ主人公補正。こういうスキルはバケモンだな」

「周りに奴隷がいるほど、起死回生ができるマスなのですね」

「恋愛シュミレーションゲームは、あんなに出来ぬのにのぉ……」


「なんだろうな、世界がこいつの味方をしてるのか?」

「世界が味方をしてたら、俺は月影には居ねぇよ」

「確かに、間違いないな」






 現在の順位……


 一位 風鈴姉妹 & 灰夢 & 妖刀 & 子供二人 & 島の二人

    氷麗 & 牙朧武 & 満月 & 猫 & 奴隷 …… 11ポイント


 二位 言ノ葉 …… 1ポイント






「──言ノ葉あぁぁぁぁぁあああっ!!」

「満月。いきなり叫ぶなよ、ビックリするだろ」


 ボードを見た満月が、涙を流しながら大声を上げる。


「さすがに、可哀想が過ぎるだろっ!!」

「まぁ、気持ちはわかるけどよ」


「わだ、わだじ……」

「おい、奴隷を取って悪かったって。泣くなよ……」

「いや、泣いてる理由はそこじゃないだろ」

「お兄ぢゃん。わだじのごど、ぎらいにならないでぐだざい……」

「だから、なるわけねぇだろ。大丈夫だから、泣くな……」

「おにぃぢゃああぁぁぁぁん……」

「痛ってぇっ! お前、急に抱きついてくんなって……」


 言ノ葉が抱きつくと同時に、周囲の子供たちが弾け飛んだ。


「さすがに、こういう展開は予想してなかったな」

「人生ゲームって、結構シビアなものですね」

「この中、俺にもう一回ルーレット回させるのが、一番鬼畜だろ」




 ──その時、部屋にコンコンッとノックが響いた。




「……はいよ、誰だ?」


 部屋の扉を開けたのは、店の女将である霊凪だった。


「みんな、ご飯が出来たわよ」

「おう、そうか。今日の晩飯はなんだ?」

「今日は、みんな大好きな、煮込みハンバーグにしたのっ!」

「うわぁ〜っ! おいしそ〜っ!」

「とても楽しみでございますね」

「霊凪さん、いつもありがとうございます」

「いいのよ。みんなの幸せな顔が見れるだけで、私も幸せだもの……」



























 その時、牙朧武は見ていた……


 灰夢が話題を広げて、気を逸らしているうちに、

 満月がコソコソと、ゲームボードに何かしているのを──



























「それじゃあ、下で待っているわね」

「「「 はーいっ! 」」」


 そういって、霊凪は部屋を出ていった。


「ほら、灰夢。とっとと回して終わらせてくれ」

「あぁ、そうか。俺の番だったな」


 そっと灰夢がボードに手を伸ばし、ルーレットを回す。

 そして、高速で回るルーレットを、ポンッと人差し指で止めた。



 ルーレットの数値 …… 1



「お兄ちゃん。今、手で止めましたよっ?」

「別にいいだろ。テキトーに止めるのも、自然に止まるのも同じだ」

「ゴールの一歩手前で止まったな」


 灰夢の止まったマスに、氷麗が違和感を覚える。


「……あれ? さっきもゴール前じゃなかったですか?」

「確かに、後1マスで終わりだった気が……」

「でも、足元のハートのマスは変わってないですね」


 不思議そうに首を傾げる、子供たちを前に、

 灰夢が小さく微笑みながら、ゲームを進めていく。


「気のせいだ。元々、1マスあっただけだろ」

わけないしな」

「じゃな。……で、なんて書いてあるんじゃ?」

「言ノ葉、読んでくれ……」

「……えっ? あっ、はい……」


 灰夢に言われるがままに、言ノ葉はマスに書かれた内容を読んだ。



























     【 一番孤独な者を家族として迎え入れ、幸せにする 】



























 その内容を見た言ノ葉が、灰夢の方に振り返る。


「お兄ちゃん、これ……」

「ハッピーエンド、だな……」


「さすが、ラノベ主人公補正ってところか」

「主さまに、救えぬ者はおりませんね」


「お兄ちゃ〜んっ!!!!」

「だから、急に飛びついてくんなって……」

「やれやれ、最後までヒヤヒヤさせるのぉ……」


「ほら、鈴音。最後の一振、回してやれ……」

「──うんっ!!」



























       鈴音は笑顔で、最後のルーレットを思いっきり回した。




























 最終順位


 一位 風鈴姉妹 & 灰夢 & 妖刀 & 子供二人 & 島の二人

    氷麗 & 牙朧武 & 満月 & 猫 & 奴隷 & 言ノ葉


 総計 …… 13ポイント



























                ようこそ──



























       家族の数だけ幸せに満ちた、人里離れた箱庭へ──

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