第肆話 【 得意不得意 】

 晩餐を終えた後、灰夢は大会に参加したメンバーで、

 大会のゲームを部屋でやりながら、二次会を楽しんでいた。





「まさか、ダークマスターが、あのフラッシュ様だったとは……」

「そりゃ、おにーさんに勝てるわけないよね」


「お兄さんが、もっと早く教えてくれたら、安心感もあったのに……」

「お前が俺のフレンドコード、要らねぇっつったんじゃねぇか」

「それは、そうですけど、名前ぐらい教えてくれてもいいじゃないですか」


 氷麗が不満そうに、灰夢の横顔を見つめる。


「まぁ、いいじゃないか。無事に賞金も手に入ったんだし……」

「そうですね。満月さんと九十九さんも、ありがとうございました」

「構わないさ、オレも楽しかったからな。また、いつでも呼んでくれ」

「わらわも楽しかったぞ。また、共に戦おうではないか」

「はい、是非……」


 二人の言葉に感謝しながら、氷麗はペコリと頭を下げた。


「それにしても【 暗黒破壊神あんこくはかいしん蚤死ノミデス 】は、隠す気なさすぎだろ」

「あれ、ワタシってバレてたデスか?」

「わたしでも、名前を見て気が付きましたからね」

「……嘘、言ノ葉も気がついてたの?」

「分かりますよ。ノーミーさん以外に、こんな妥当な名前知りませんし……」


「なんでここ、こんなにゲーマー多いの……」

「リアルで発散できない戦闘欲を、各々がつぎ込んでるからだろ」

「あぁ、なるほど……」


 知りたくなかった事実を知って、氷麗が聞いたことを後悔する。


「でも、おにーさん。アタシのことは気が付かなかったでしょ〜?」

「【  Purgatorium 煉獄 (プロガトリウム) 】だけならな。横に並んでたノーミーの名前で確信した」

「あぁ、確かに。一緒に並んでたら、そりゃバレちゃうか」

「氷麗の調査を見るまでは、俺も大精霊お前らがいるとは思わなかったがな」


 そんな話をしながら、灰夢は甘える九十九を膝に乗せて、

 牙朧武とチームを組みながら、大精霊たちと対戦していた。


「お兄さんがフラッシュさんなら、シャルフさんは誰なんですか?」

「今、俺の真横にいるだろ。張本人が……」

「ガッハッハッハ。吾輩も、いつか出てみたいもんじゃ……」

「──えっ、牙朧武さんなんですか?」

「そうじゃよ、おかしいかのぉ?」

「いえ、なんかもう、むしろ納得しました」


 灰夢と共に戦う牙朧武の姿に、氷麗が心から納得する。


「かっこいい名前デスね、シャルフって……」

「吾輩の名前は、灰夢が付けてくれたんじゃ……」

「お兄さんがですか、名前の由来とかってあるんですか?」

「そのまんま【 Shadow Wolf 】を縮めて、【 Sha.Lf シャルフ 】だ……」

「確かに、そう言われるとまんまですね」


「ちなみに九十九は、苗字の【 東雲しののめ 】の【 Cloud 】な」

「私、なんで、気が付かなかったんだろう」

「まぁ、まさか目の前に本人がいるとは、普通は思わねぇだろ」


 どんより落ち込む氷麗にを見て、満月が優しくカバーする。


「満月さんは、由来とかあるんですか?」

「【 鋼ノ熊 メタリック・ベアー】の発音を並び替えて、【 Bearickベアリック 】と綴っただけだ」

「ほんとに、なんで気が付かなかったんだろう。私……」


 氷麗は四つん這いになって、さらに深く落ち込んでいた。


「それじゃあ、ダークマスター……」

「……ん?」

「ダークマスターは、なんでフラッシュなんデスか?」

「理由は色々あるが。ぶっちゃけ、牙朧武の名前を並び替えただけだ」

「……へ?」

「【  Sha.Lf シャルフ 】と【  Fl.Ash フラッシュ 】、スペルは同じだろ?」

「あっ、ほんとだ……」


なら、だ。俺らは互いに、二人で一人だからな」

「なんでしょう。凄い信頼と友情、そして、愛情を感じますね」

「なんか、凄くかっこいいデス……」

「まぁ、おにーさんって光の速さで動く死術もってるし、間違ってはないよね」


「昔は【  Ash  】って名前だったから、それを残したかったってのもある」

「こんなにも、気がつけそうな要素がたくさんあったのに、私は……」

「まぁまぁ。普通、目の前に頂点トップがいるなんて、誰も思わないデスよ」

「……もう、この場所……怖い、です……」

「戦いの中じゃ味方なんだから、別にいいだろ」


 本気で落ち込む氷麗に、灰夢が呆れたの視線を送る。


「もしかして、あの幽霊も……」

「……幽霊? あぁ、【  D.is ディズ 】な」

「やっぱり、ここに居るんですね」

「あれは、蒼月だ……」

「あの、ヤクザのおじさんですか?」

「あぁ。【 デビルアイズ魔眼 】を、【 D.isディー・アイズ 】に書き換えただけだ」

「あぁ、そういえば。あの方は悪魔だって言ってましたね」


 それを聞いて、言ノ葉が首を傾げる。


「蒼月のおじさんがでてきたら、勝ち目なくないですか?」

「そりゃ、未来が見えるんだからな。……勝てるわけがねぇだろ」


「あのおじさん、未来が見えてるんですか!?」

「あぁ、そうだ……」

「ひえぇ、怖すぎますよ……」

「前に祭りの時、じゃんけん無双の射撃百発百中だったろ?」

「確かに、圧倒的なブレの無さでした……」


 氷麗は夏祭りを思い出しながら、一人で納得していた。


「それに、蒼月は天才肌だからな」

「……天才肌?」

「頭はバカだが、直感が優れすぎて、武器や魔法を一発で覚える」

「それが、ゲームの強さでもあると?」

蒼月あいつの場合は、そもそも強い弱いの問題じゃない」

「……えっ、どういう意味ですか?」


「5×5のルービックキューブの色をバラして、前に渡したんだよ」

「あぁ、ルービックキューブ。それが、何かあったんですか?」

「あいつ、その時が初めてルービックキューブに触ったらしいんだが……」

「……?」

「『 こっちの方が綺麗だよ〜! 』って、一瞬で色を揃えてきた」

「……こ、怖すぎませんか?」

「5×5が、なんで一瞬で……」


 謎すぎる蒼月の適応能力に、子供たちの顔が青ざめる。


「ゲームの罠や仕掛けも同じように、当たり前に解除していく……」

「まぁ、未来が見えてるなら、罠なんて絶対かかりませんよね」

「いつもはテキトーな性格だが、直感だけなら月影の中でも段違いだ……」

「だからこそ、考えたりする速度が異常ってことですか?」

「違う。考えてクリアすると言うより、元から見ただけで分かってるんだよ」

「つまり、どんなトリックでも、解けるのが当たり前であると?」

「あぁ、そういうことだ……」


「ぶ、ぶっ飛んでるデス……」

「あれが居ると話にならねぇから、俺と満月で出禁にした」


「あのおじさん、何者なんですか。ほんとに……」

「だから、言ってるだろ。ただの悪魔だ……」

「言ノ葉ぁ……。私もう、理解が追いつかないよぉ……」

「そうですね、少し考えるのはやめた方がいいと思います」


 泣きついてきた氷麗を、言ノ葉は優しく慰めていた。


「でもこれで、無事に学校も行けるのじゃろ?」

「それなんですけど。私、本当に全額貰っちゃっていいんですか?」

「別にいい。これからの学費や生活費と思えば、全然足りねぇだろ」

「それはそうですけど、せっかく皆さんが頑張ってくださったのに……」

「まぁ、俺らは別に、金には困ってねぇからな」

「そりゃ、お兄さんも満月さんも、食べなくても死なないですけど……」


「別に、食わねぇから要らないってわけじゃない。ちゃんと稼ぎがある」

「でも、お兄さん。あまり仕事してないじゃないですか」

「お前、俺らのプレイヤー名を、大会以外でも見たんだろ?」

「……え?」


 それを聞いて、言ノ葉が氷麗の言葉を思い出す。


「そういえば、ユーチ〇ーバーがどうとか、言ってましたね」

「……あっ!」

「俺らの動画を満月が上げて、そこから収益が来てるんだよ」


「まぁ、オレや灰夢からしたら、新作のゲームを楽しんでるだけだがな」

「普通にプレイしてても、お兄ちゃんたちは、元のスキルが異常ですからね」

「格ゲーとストラテジーゲームの場合は、特に灰夢が異次元レベルだ」

「シューティングゲームや音ゲーになると、満月の方が上だけどな」


 まさかの収入源に、氷麗が口を開けたまま固まる。


「ダークマスターは、なんでそんなに強いんですか?」

「普通に戦闘経験による駆け引き・心理戦・反応速度のレベルじゃないか?」

「リアルで戦場を生きてるんだ。俺ら月影が、並みの人間に負けるわけがない」

「お兄さんに勝てるかもと思った、私がバカでした……」


 灰夢と満月の何気ない会話で、氷麗の心がポキッと折れた。


「逆に、お兄ちゃんの苦手なゲームとかってあるんですか?」

「灰夢の場合は、恋愛シュミレーションゲームがゴミだな」


「あぁ、何かわかった気がします」

「まぁ、お兄さんですからね」

「ダークマスターには、難易度が高すぎますね」

「リアルの経験値がどれほど大切か、おにーさんを見てよくわかったよ」

「おい、てめぇら何が言いてぇんだ?」


 満月の言葉に、子供たちが疑う余地もなく納得する。


「そして、何故かそれを、牙朧武が一番上手い」

「まぁ、恋愛系のドラマや小説を、よく見たり読んでしておるからのぉ……」

「お前、子孫繁栄の概念がねぇくせに、よく恋心が分かるよな」

「それは単に、お主が鈍すぎるだけじゃよ」


 灰夢が不思議そうに見つめてくるのを、牙朧武が哀れみの視線で返す。


「灰夢は友情や信頼は受け取るくせに、なんで愛情は受け取らないんだよ」

「お前、あの手のゲームに出てくるヒロイン、何歳だと思ってんだ?」

「ゲームの時くらい、高校生や大学生に戻ってくださいよ」

「鏡を見ろ、鏡を……」

「精神論は難しいのぉ……」


 九十九はポンッと肩に手を置き、灰夢をそっと慰めていた。


「九十九さんは、何か得意なゲームとかってあるんですか?」

「わらわは、モンスターなんかを育てるゲームが好きじゃな」

「そういえば、よくポケ〇ンなんかの育成ゲームをやってるよな。九十九は……」


 そんな満月たちの会話を聞いて、灰夢と牙朧武の顔が青ざめる。


「こいつのゲームデータ、鬼怖ぇぞ……」

「……怖い?」

「……どういうことですか?」


「九十九は主人公以外、全てにの名前を付けるからのぉ……」

「……ひぇぇぇ!?」

「そ、それは……」

「さすがに、恐怖デス……」

「九十九さん、愛情が深すぎるよ……」


 予想以上の歪んだ愛情に、子供たちの顔が一瞬で固まった。


「その方が、愛着が湧くんじゃよ……」

「そのモンスターが進化した時に、自慢される俺の気持ちを考えてくれ」


「キャラの『 なつき度 』が最大になって進化すると、感極まるぞっ!」

「どう考えても、そいつ俺じゃねぇだろッ!!!」

「お兄ちゃんとは、縁の無いワードなのです……」


 九十九が自信満々に、キラキラとした瞳を灰夢へと向ける。


「九十九はモンスターが死ぬと、たまに本気で落ち込んでおるしのぉ……」

「おい、俺が自分の知らないところで死んでるみたいに言うのやめろよ」

「良かったじゃないですか、お兄さん。ちゃんと死ねてますよ?」

「なんか、俺の求めてる死に方と違ぇんだけど……」


「大丈夫じゃ、ちゃんと復活させておるぞっ!」

「ごめんなさい、お兄さん。やっぱり死ねてませんでした」

「おい、俺の体のリカバリーは、ポケモ〇センターと同じカテゴリーなのか?」

「歪んだ愛情って、凄いな」

「歪みすぎだろ。メンヘラなんか比じゃねぇぞ、こいつ……」

「良いでは無いか。わらわはいつでも、ご主人と一緒じゃ……」


 膝の上で微笑む九十九の頬を、灰夢はプニプニと刺して遊んでいた。


「何で、こうもアンバランスなんだ。灰夢の周りは……」

「ある意味、いいバランスにも見えますけどね」

「不器用というか、素直というか」

「類は友を呼ぶってやつデスかね」

「やめろよ、俺が諸悪の根源みてぇだろ」


「九十九が封印されていた理由って、これじゃないよな?」

「なんか、ワンチャンそんな可能性も無くはねぇな」

「ご主人は、わらわを捨てたりしないでおくれ?」

「少し考えものだな、これは……」

「そんなぁ、ご主人〜っ!」


 そんなくだらない話をしながら、二次会は大いに盛り上がっていた。



 ☆☆☆



 夜中の二時を回ったところで、二次会が幕を閉じる。


「さて、オレは今日の対戦の中継でも、上げてくるとするかな」

「おう、いつもありがとな」

「別にいい、オレが好きでやってるだけだ」


「わらわたちも、今日は帰るとするかのぉ……」

「そうじゃな、吾輩も読みかけの恋愛小説があったんじゃ……」

「どこから手に入れたんだよ、その小説……」

「前に、あの女将が吾輩に貸してくれたんじゃよ」

「……えっ、霊凪さんがっ!? マジかよ……」


「わたしもそろそろ、眠くなってきましたね」

「ちょうどいい頃合だし、そろそろ解散にすっか」


「お兄さん。私は、もう少しだけ、ここで遊んでてもいいですか?」

「……ん? 別に構わねぇけど……」


「それじゃ、アタシたちも戻ろっか。ノーミー……」

「デスね。ダークマスター、また遊びに来るデスよっ!」

「へいへい、いつでも遊びに来い」


「では、お先に失礼しますね」

「おう。言ノ葉も、今日は応援ありがとな」

「はいっ! お兄ちゃんの為なら、いつでも駆けつけますよっ!」

「ははっ、心強い限りだな」


「では、おやすみなさいなのです……」

「おやすみぃ……」

「おやすみデスっ!」

「おやすみじゃ……」

「おやすみである……」


「おう、おやすみ……」

「おやすみなさい……」






 そうして、灰夢の部屋から順々に帰っていくと、

 灰夢は残った氷麗と共に、二人でゲームを再開した。

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