第参話 【 姫と従者 】

 灰夢たち、チーム『 白雪姫と三人の従者 』は、


         順調に勝ち進み、無事に決勝戦の場へと辿り着いた。



























「さぁ~っ! 盛り上がってまいりましたっ!


 ゲーム大会も、いよいよ大詰めっ! 

 試合も残すところは、決勝戦のみっ!


 決勝戦では、それぞれ2人ずつの2組に別れていただき、

 全員が十機を持った状態で、一斉にバトルがスタートっ!


 どちらのペアも勝てば優勝、どちらか片方が負ければ、

 勝ったペア同時での第2ラウンドで、優勝が決まります。


 また、皆さんお待ちかねの、決勝戦に上がった方々のみ、

 ご来場時に御記入いただいたプレイヤーネームを公表しますっ!


 そして、勝ったチームには記念として、石碑のプレートに、

 四人のプレイヤーネームを刻んで、プレゼントを致しますっ!!」



























 司会の説明を、灰夢たちは興味無さそうに聞いていた。


「ほぇ〜、そんなものをくれるんじゃな」

「灰夢、いつものプレイヤーネームでよかったんだよな?」

「別にいいだろ。こういう時ぐらいしか、外で使わねぇし……」


「わらわと、ご主人の名を刻んだプレート。よいのぉ……」

「やめろ、素直に気持ち悪ぃから……」

「そんなこと言わんでおくれぇ、ご主人……」

「わかったから、じっとしててくれ……」


 涙目で抱きついてくる九十九の頭に、灰夢がポンッと手を乗せる。


「どうしましょう、お兄さん。緊張感がやばいです……」

「ここまで来て『 緊張で、本気が出せませんでした 』は通じねぇぞ?」

「そうなんですけど、でも……」

「はぁ……、ったく……」

「──ひゃっ!?」


 プレッシャーに押しつぶされそうになる氷麗を見て、

 灰夢が緊張をほぐそうと、優しく肩を掴み抱き寄せた。


 それに驚いた氷麗が、灰夢の顔をそっと見上げる。


「大丈夫だ。俺が、ぜってぇ勝つから……」

「……お兄さん」


 そういって、優しく笑みを浮かべる、灰夢の瞳を見ると共に、

 絶対的な安心感が、氷麗の不安を消し去り、体の震えを止めた。





『 それではプレイヤーの方々を、ご紹介致しますっ! 』




 司会の大きな声と共に、会場内に歓声が上がる。


「いよいよか……」

「こういう場面で、一緒に戦うのは初めてだから、少し楽しいな」

「俺も、お前らが一緒でよかったよ」

「ご主人の為なら、どこへだってお供いたすぞっ!」

「頼もしいなぁ、ったく……」


 盛り上がる歓声の中、巨大な電工掲示板に、

 決勝カードの、プレイヤーネームが公開された。



























    『 決勝戦、対戦プレイヤーは……コチラの方々ですッ!!! 』



























               「 ……えっ? 」



























     画面に公開された、プレイヤーネームを見て、


             氷麗を含む、全てのゲーマーたちが固まった。


























          Snow White ( スノーホワイト )


          Fl.Ash ( フラッシュ )


          Bearick ( ベアリック )


          Cloud  ( クラウド )


          Brothers.α ( ブラザーズ・アルファ )


          Brothers.β ( ブラザーズ・ベータ )


          Sisters.γ ( シスターズ・ガンマ )


          Sisters.Δ ( シスターズ・デルタ )


























「な、なんで……」

「……あ?」

「ど、どうしましょう。トッププレイヤーが、帰ってきてます」

「あぁ、まぁ。そうだな……」

「この調子なら、勝てると思ったのに……」


 氷麗が青ざめた顔で、掲示板を見つめる。


「お前、なんで、この並びで分からねぇんだよ」

「……え?」

「大会の常連者が四人いるんだから、消去法で気づけよ」

「……消去法?」


























            チーム  白雪姫と三人の従者


            1P …… Snow Whiteスノーホワイト

            2P …… Fl.Ashフラッシュ

            3P …… Bearickベアリック

            4P …… Cloudクラウド



                VS



            チーム  ブラザーコンプレックス


            1P …… Brothers.αブラザーズ・アルファ

            2P …… Brothers.βブラザーズ・ベータ

            3P …… Sisters.γシスターズ・ガンマ

            4P …… Sisters.Δシスターズ・デルタ


























「フラッシュさんが……白雪姫と、三人……の、従者……?」

「ほら、行くぞ……」

「……えっ!? ちょ、待ってください。どういうことですか!?」

「なんだ、まだ疑ってんのか?」

「だってっ! あれじゃまるで、お兄さんが……」

「あぁ、そうだよ……」



























     「 今、お前の前に立っている俺たち月影が、


             あらゆるゲームの頂点である、絶対強者トッププレイヤーだ 」



























 そう告げる灰夢の瞳は、揺らぐことの無い自信に満ちていた。


「あらゆるゲームの、頂点……」

「ほら、とっとと行くぞ。賞金……貰うんだろ?」

「……は、はいっ!!」


 氷麗が灰夢たちの背中を追い、四人がゲーム台の前に立つ。


「お前とクラウド九十九のペアでいいか?」

「構わないさ。負けるなよ、フラッシュ灰夢……」

「誰に言ってんだよ。ベアリック満月……」

「この戦い、勝とうな」

「あぁ、だ。全員、練習の成果を見せてやれ」

「──おうっ!」

「──うむっ!」

「──はいっ!」


 自信に満ちた表情を見せる三人を、氷麗が横目で静かに見つめる。



( 本当に、みなさんが……あの、トッププレイヤー…… )



 灰夢たちがゲーム台に座ると、敵がメラメラと圧をかけていた。


「オレたちを落としたトッププレイヤーは、お前か。お面の男……」

「覚えててくれてありがたいんだが、俺はお前らを知らないんだ。悪ぃ……」

「……コイツッ!!」

「一つのゲームで名をあげるより、様々な世界を楽しむのが好きでな」


「ふっ、そんな戯言を言えるのも、ここまでだ……」

「このゲームを極めた、オレたち兄弟の手にかかれば、お前など屁でもないっ!」

「全キャラを使いこなし、あらゆるキャラの相性を網羅するボクたちには……」

「お前がキャラを選んだ時点で、勝敗が決したのと同じなのさ」


 喧嘩を吹っ掛ける言葉を聞いて、灰夢が嬉しそうに笑みを浮かべる。



























  「 ……なら、試してやるよ。を、超えられるかどうか 」



























 そういって、灰夢はキャラをランダムに設定した。


「──なっ、こいつっ!?」

「決勝戦で、ランダムだとっ!?」


「ちょ、おにぃさ……」


 その瞬間、氷麗は走馬灯のように、あの言葉を思い出していた。

 ついさっき、恋白が真っ直ぐな瞳で告げた言葉を──



























     『 恋は盲目と言いますが、信じる心を忘れてはなりませんよ 』






















「なんだ? 氷麗……」

「いえ、なんでもないです。頑張りましょう!」

「……おう」



























         『 それでは決勝戦、──開始ッ!!! 』



























 司会の掛け声と共に、ゲームが一斉に始まる。


 ランダム選択から出てきた、灰夢のキャラは、

 敵の一人には不利、一人には有利なキャラだった。


「行くぞ、氷麗……」

「──はい、お兄さんっ!」


「先に、スノーホワイトの方を狙うぞ……」

「わかったよ、ニイちゃん……」


 スタートの合図と共に、四人がほぼ同時に動き出す。

 氷麗に二人が攻め掛かり、それを灰夢が追う戦いが始まった。


 それぞれが攻撃を避けては返し、カウンターを狙い合う。

 一瞬の隙が命取りになる戦いに、観客の誰もが息を飲んでいた。


「──あっ!」

「──よしっ!」


 最初に機を失ったのは、氷麗だった。


「気にすんな、どんどん行くぞ……」

「──はいっ!」


 その次に、敵の一人を灰夢が、もう一人を氷麗が倒した。


「──やった!」

「よし、よくやった……」


「──くっ!」

「──まだだっ!」



























      白熱する戦いは、三十分を超えるほどの長期戦となっていた。


























 敵の二人は3機ずつ残し、氷麗は残すところ1機にまで追い込まれる。

 だが、そこまで追い込まれても、未だに、氷麗は諦めてはいなかった。


「まだ、負けてない……」


 氷麗が意を決して、二人を巻き込んだカウンターを決める。


「──なっ!?」

「──コイツっ!」


 それが見事に相手に決まり、敵の二人が同時に機を失った。


「──やった!」

「よし、でかしたっ!」


 すると、復活した兄のキャラから、氷麗に必殺技を放つ。


「──あっ!」


「へへっ、このキャラの必殺技は、当たれば確実に一機減る」

「やったね、ニイちゃん。あとは二人で、フラッシュを倒すだけだっ!」


 必殺技を食らった氷麗のキャラは、残機がゼロになり、

 白熱していた決勝の場から、一番初めに姿を消してしまった。


「ごめんなさい、お兄さん……」

「……ん? 何を謝ってんだ?」

「だって。私、負けちゃいましたし……」


「お前、俺を信じて誘ったんだろ?」

「……はい」

「四人で勝つって、約束しただろ?」

「……はい」



























     「 なら、最後まで。お前はもう 」



























「……お兄さん」


 そう言われた氷麗が、画面に映る灰夢の残機を見て言葉を失う。

 同時に、氷麗の事しか見ていなかった敵も、違和感に気がついた。


「おい。こいつ、まだじゃないかっ!」

で、目の前にいる敵の情報を見落とすのは、負けたも同然だぞ?」


「嘘だろ、何回もスノーホワイトの攻撃を庇ってたはずっ!」

「このキャラは、敵のエネルギー技で回復できる。そんなのも知らねぇのか?」


 淡々と2対1でも、押されることなく応戦していく灰夢。

 それでも、敵二人の手数に、なかなか攻めきれないでいた。


「チッ、ちょこまかと逃げやがって……。氷麗、あれを使え……」

「──えっ!? でも、それって……」

「一緒に、チームで勝つんだろ?」

「ですけど……それは、お兄さんの……」

「俺が10機なんじゃない。俺らはだ……」

「……2人で、20機?」

「どんなゲームだろうと、どうせやるなら、一緒にやる方が楽しいだろ?」

「……お兄さん」


 楽しそうに微笑む灰夢が、氷麗の瞳を横目で見つめる。



























 「 ゲームは娯楽だ。熱くなるのもいいが、俺ら自身が楽しむことを忘れるな 」



























   そんな灰夢の何気ない言葉が、氷麗の中の不安や悩みを全て消し去った。



























            「 ──はい、お兄さんっ! 」



























       その瞬間、灰夢の一機が減り、氷麗のキャラが復活した。




























『『『 おぉ〜ッ!!! 』』』


『なんと、フラッシュ選手っ! 仲間に自分の機を分け与えたァッ!!!』



 そんなチームプレイに、観客から熱気が立ち込める。



「なっ、こいつ、バカなのか!?」

「足でまといに、残機をやるなんて……」

「もう、足でまといになんかにならないっ!」

「はっ、スノーホワイトアイツの機を減らし続ければ、勝機はあるぞっ!」


 真剣にキャラを操作する氷麗に、灰夢が横からアドバイスをしていく。


「いいか、氷麗……。戦場では、絶対に相手のペースに流されるな」

「相手のペースに、流されずに……」

「バカを言ってでも、冷静さは保て……」

「冷静さを、保つ……」

「頭を冷やすのは、得意だろ? 白雪姫さんよ……」

「はい。それだけは、絶対負けませんっ!」

「ふっ、その意気だ……」


 笑顔が戻った氷麗を見て、灰夢が画面に視線を戻す。


「今更考えを改めたところで、ゲームの腕は変わらないっ!」

「お前ら、俺らのチーム名を見てなかったのか?」

「……チーム名だと?」

「白雪姫はな、毒林檎を食って眠りについちまうんだよ」

「……だ、だからなんだっ!」

「おいおい、まだわからねぇのかよ」

「棺で眠るだけの姫に、何が出来る──ッ!!」



























  「 そこから王子様のキスで、ストーリーだろうが──ッ!! 」



























 そう告げると同時に、灰夢が兄を場外へ吹き飛ばした。


「──なっ! こいつ……」

「あまり、姫の従者を見くびるなよ?」


「ニイちゃん、必殺技だッ!」

「やっちまえ、ブラザーッ!」


 弟の方が必殺技ゲージを溜め、灰夢に当てる瞬間を探る。


「へへっ。これを当てれば、お前でも一機減るはずだっ!」

「そうだな。その必殺技が?」

「オラッ! 喰らえ──ッ!!!」


 弟のキャラが、ゼロ距離で放った必殺技を、

 灰夢は一瞬の回避コマンドで、華麗に交わした。


「──なっ!?」

「──こいつっ!!」


「どうした、もう終わりか?」



 ──その隙に、後ろから氷麗が追い打ちをかける。



「──えいっ!」


「──なっ! コイツ、また……」

「──ニイちゃんっ!」


「──オラァ!」


 氷麗が兄を攻撃し、足場の無い所に浮いた兄のキャラを、

 まるで、予期していたかのように、灰夢が場外に叩き落す。


「──チッ、クソッ!!」



 ──その瞬間、全ての機を失った兄が、弟の機を奪って復活した。



「あっ、ニイちゃんっ! なんで、ボクの機を取ったんだよッ!!!」

「お前一人じゃ、コイツらに勝てないだろッ!!!」

「ニイちゃんが弱いから、先に死んだんだろッ!!!」

「うるせぇッ! お前は黙って、囮になってればいいんだよッ!!!」

「……ニイちゃん」


「おい、チーム『 ブラコン 』が喧嘩すんなよ」


 灰夢の必殺ゲージが溜まり、キャラがキラキラと光り出す。


「ぶちかますぞ、氷麗……」

「はいっ! いきましょうっ!」


 灰夢と氷麗が挟み込むように、弟のキャラを追い込んでいく。


「クソッ、コイツら……」

「ろくに会話もしないで、なんて連携だ……」


 氷麗が弟のキャラを凍らせ、その隙に灰夢が必殺技を放つ。

 すると、弱っていた弟のキャラは、一瞬で場外に吹き飛んだ。


「──やったっ!」

「ナイスだ、氷麗っ!」


「あぁ、負けちゃった……」

「お前がグダグダ言ってるからだッ!!!」

「ニイちゃんのせいだろッ!!!」

「今、いい所なんだから、黙ってろッ!!!」


 氷麗が兄を攻撃して、自分の必殺技ゲージを溜めていく。


「私はもう、負けたりしない……」

「へっ……。必殺技なんか、当たらなければいいだけだッ!!」


「当たらなければ、な……?」


 氷麗と戦っているうちに、灰夢が背後から、

 兄の操作するキャラの動きを、一瞬だけ縛る。


「──しまったっ!」

「ゲームオーバーだ、ブラコン……」


 その瞬間、氷麗がゼロ距離で必殺技を叩き込んだ。


「──ハァッ!!」


「──なッ!?」

「──ニイちゃんッ!!」



























           ──その瞬間、大会の勝者が決まった。



























     『 両チーム、何と同時に決着が着いたァァァァァ!!!! 』



























     Aグループ勝者 : Cloudクラウド  & Bearickベアリック   ペアッ!!!


     Bグループ勝者 : Fl.Ashフラッシュ & Snow Whiteスノーホワイト ペアッ!!!



























               『 よって── 』



























 『 栄えある優勝は、❀ 白雪姫と三人の従者 ❀ チームだぁッ!!! 』



























    「 ──やっっっっっっっったああああぁぁぁああああ!!!! 」



























『『『 ──ワアァァアアァアァァアアァァアアァアァァアァァ!!!! 』』』



























       氷麗の喜びの声と共に、盛大な歓声が場内に響き渡った。


























 その後、姫の為に戦いの中で、

 初めて Fl.Ash灰夢 が機を減らした瞬間だと、


 一部のネット業界で、大きな反響を呼んだ──



 ☆☆☆



 帰りのバスでは、氷麗がプレートを抱えて、

 言ノ葉と寄り添いながら、幸せそうに眠っていた。


「えへへ……王子様の、キスで……復活、ですよ……」

「もうなんか、ポーカーフェイスの欠片も無くなってんな」

「良いでは無いですか。氷麗さま、とても幸せそうですよ」

「本当に、うちに来たばかりの頃の表情が嘘のようだな」

「今日くらいは、幸せに浸らせてやりなされ……」

「一人の少女が報われたんだ、凄いことだと思うぞ」


 そう言いながら、満月が眠った白愛をそっと抱きしめる。


「その状態で言うと、ますますパパ感増すから、やめとけ……」

「それがな。最近、自分でもそんな気がしてならないんだ」

「……自覚あったのかよ」


「そういう、お前だって、膝の上に寝てる双子乗せてる時点で同じだろ」

「まぁ、確かに……ってか、絵面だけなら、俺の方がひでぇな」

「……今更気づいたのか」


 灰夢と満月は、互いに哀れみの視線を向けあっていた。



 ☆☆☆



 寝てる子供たちを背負いながら、灰夢たちが店に戻ると、

 蒼月、梟月、霊凪が、店の中でみんなの帰りを待っていた。


「おかえり〜、ネットで中継見てたよ〜っ!」

「さすがだね、君たちは。お疲れ様……」

「あまりゲームが分からない私でも、ドキドキしちゃったわっ!」


 灰夢たちを迎え入れながら、霊凪たちが感動を伝える。


「上位ランカーがいるとはいえ、所詮は地域のお遊びだろ」

「まぁ、君たちからしたら相手にならないよね。普通……」

「でもまぁ、氷麗は楽しめたみてぇだから、いいんじゃねぇか?」

「本当だ、凄く幸せそうだね」


 眠る子供たちを見て、蒼月は小さく微笑んでいた。


「晩御飯の時間になったら、盛大にお祝いしなくっちゃっ!」

「おいおい、大袈裟だろ……」

「灰夢くんだって、祝い事は多い方が楽しいでしょ?」

「まぁ、それもそうだな……礼を言うよ、霊凪さん……」

「うふふ。梟月さんと一緒に、腕によりを掛けて作るからねっ!」


 霊凪が幸せそうな顔をしながら、灰夢に笑顔を向ける。


「君たちは晩御飯まで、部屋でゆっくり休んでおいて……」

「すまないな、そうさせてもらう。白愛も寝かせなくてはいけない」

「わらわは、風花殿を部屋に眠らせてくるぞ」

「わたくしも鈴音さまを、おやすみさせて参りますね」

「ワタシは、言ノ葉ちゃんを寝かせて、精霊たちの、様子を見てくる」


 そういって、各々が子供たちを寝かせに、部屋へと向かった。

 そんな中、灰夢だけがピタリと足を止め、梟月たちの元へ戻る。


「そうだ、梟月……」

「……なんだい?」

「今度、氷麗をここで、働かせてやってくれねぇか?」

「このお店で、バイトと言うことかい?」

「あぁ、仕事がなくて生活が厳しいんだと……」

「……そうなのか」

「内容は任せる。給料は俺が出すから、梟月から誘っといてくれ」


 そんな灰夢の提案を聞いて、蒼月が横から口を挟む。


「素直に、君から『 ここで働きな 』って、言えばいいのに……」

「俺が言ったって言ったら、また責任感じるだろ。こいつ……」

「まぁ、それもそうか」

「蒼月からでもいい、テキトーに声をかけてやってくれ」

「灰夢くんは優しいね。りょーかいだ……」

「悪ぃな、頼む……」

「別にいいさ、気にしないで……」


「そんじゃ、俺は部屋にこいつを寝かせてくる」

「あぁ、お疲れ様……」

「ゆっくり休んで……」

「おう、ありがとな……」





 灰夢は、幸せそうな顔で眠る氷麗を寝かせる為、

 その場を後にし、自分の部屋へと向かっていった。

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