第肆話 【 水着イベント 】
八月下旬。蒼月の提案によって、月影たちは海……には行けず、
梟月の代案で、植物庭園内にある、湖エリアへと遊びに来ていた。
「青い空、白い雲っ! 夏といえば、これだよねっ!」
「……どれだ?」
「決まってるじゃない、水着イベントだよっ!」
「なら、まずは隠すべきところを隠せ……」
「……ん? 目隠しなら、ちゃんとしてるじゃないっ!」
「目じゃなくて、股の間の
目隠し一つに真っ裸の蒼月が、ドヤ顔で寝そべる二人を見下ろす。
「も〜、しょうがないなぁ……」
「何がどう、しょうがねぇんだよ」
「楽しそうだな、蒼月は……」
「ったく、こいつの羞恥心はどうなってんだ」
「オレ、水着を着てるとパンツみたいじゃないか? 全身機械だし……」
「満月の場合は、全裸でも隠すところねぇもんな」
「やめろよ。そう言われると、今度はオレが恥じらいの無いやつみたいだろ」
水着を着る蒼月を横目に、寝そべったままの灰夢と満月は、
やる気のない瞳のまま、つまらなそうに言葉を交わしていた。
「ぼんやりしてると、、夏も終わっちゃうよっ! 二人共っ!」
「俺たち老人には、この日差しは眩しいな」
「まぁ、日光は本物だからな。屋根開けてるし……」
「本当に、建物の中とは思えないよな。ここ……」
動こうとしない二人を見て、蒼月の瞳が哀れみの眼差しに変わる。
「君たちは、おじいちゃんか」
「おじいちゃんだよ、悪かったな」
「お前もだろ、蒼月……」
「女の子たちの水着が見れるんだよ? テンション上がらないの?」
「まぁ、目の保養にはいいな」
「満月も、たまにそういうことストレートに言うよな」
「お前は逆に、そういう欲求が働かなすぎなんだよ」
すると、灰夢たちの後ろから、そっと足音が近づく。
「──わっ! ししょーっ!」
「おぉ、鈴音か……」
「……どう? ししょー。……鈴音、水着似合う?」
「あぁ、よく似合ってんよ」
「……ほんと? えへへ、やったぁ〜!」
褒められた鈴音が、嬉しそうに体をくねらせる。
「……風花は、どうした?」
「後ろにいるよ〜。ほら、出ておいでよっ!」
「お、おししょー……」
小さな声で呼びかけながら、風花は物陰から見つめていた。
「風花も、よく似合ってんじゃんか」
「……ほんと、ですか?」
「あぁ、本当だよ。さすが、リリィのセンスだ……」
「えへへ……。ありがとです、おししょー……」
二人は水着を披露すると、微精霊たちと触れ合っていた。
「おししょー……。お砂で、精霊さんと……遊んで、きます……」
「おう、行ってこい。怪我しないようにな」
「ししょー。後で、泳ぎ方を教えてくれる?」
「あぁ、気が向いたら戻ってこい」
「えへへっ、やったぁ〜!」
「いって、きます……」
そういって、二人が微精霊たちと砂浜へと走っていく。
すると、灰夢の影の中から、牙朧武と九十九が姿を見せた。
「どうじゃ? ご主人っ! 似合っておるかのぉ?」
「おぉ、よく似合ってるな。お前の和風な感じ、俺は好きだぞ……」
「す、好きとな……」
「おい、水着のセンスの話だぞ?」
「わ、わかっておるわぃ!」
九十九が顔を赤くしながら、照れ隠しをするように答える。
「ガッハッハッ! 良かったでは無いか、九十九。予想以上の反応じゃ……」
「じゃな。もっと、興味無さそうに返すかと思っとったわ」
「俺もノーコメントでスルーするほど、無神経じゃねぇよ」
「普段はノーコメントどころか、気づいてすらおらんじゃろ」
「……へ?」
「はぁ、なんでもないわぃ……」
灰夢のポカンとした顔に、九十九が呆れた視線を返す。
「吾輩たちは、向こうで水を浴びてくるぞ」
「あぁ、今日は好きなだけ自由を満喫してこい」
「よしっ! 行くぞ、牙朧武殿っ!」
「うむっ! 参るとしようっ!」
そういって、二人は湖へと向かっていった。
「こうやって見ると、違和感なく家族として感じるな」
「まぁ、言葉を交わして笑えるんだ。暴れなきゃ人間と同じだろ」
「増えたねぇ、家族……」
三人が感心しながら、水辺で遊ぶ家族を見つめる。
すると、三人の元に、ヨチヨチと幼女が歩いてきた。
「……ましゅたぁ〜?」
「白愛。水着、よく似合ってるじゃないか」
「……えへへ、──ぐっ!」
「──ぐっ!」
白愛と満月が、互いにグッドサインを送り合う。
「……満月、マスターってなんだ?」
「オレの事らしい。どこで覚えたのかは、よく知らないがな」
「ノーミーのやつ。何度か、俺の部屋に遊びに来てたよな」
「あぁ、あいつが原因なのか」
「その可能性が、一番高いだろうな」
灰夢と満月は証拠はなくとも、何となく納得していた。
「ましゅたぁ、あそぼ……」
「あぁ、いいぞ……」
満月が白愛を抱えて、浜辺へと向かっていく。
その後ろ姿を見て、灰夢と蒼月が静かに微笑む。
「白愛ちゃん、だいぶ話せるようになったね」
「まぁ、十五年も眠ってりゃ、初めは上手く話せないだろうよ」
「あの子が来て、もう一ヶ月くらいか。時が経つのは早いねぇ……」
「満月のパパ味が、どんどん増していってるな」
「でもまぁ、本人も幸せそうだし、いいんじゃない?」
「……まぁな」
すると、再び別の方向から、ゆっくりと足音が近づいてきた。
「あの、主さま……」
「……ん? おぅ、恋白か。お前も水着、良く似合ってんじゃねぇか」
「本当ですか!? ふふっ、頑張って選んだ甲斐がありましたっ!」
「お前が白い水着を着ると、そういう精霊にしか見えねぇな」
「ほ、褒めすぎですよ。主さま……」
「そうか? 過剰評価をしてるつもりはねぇけど……」
「え、えへへっ……」
恋白が恥じらいを隠す様に、灰夢に笑顔を見せる。
「恋白は、やっぱ泳ぐのは得意なのか?」
「そうですね。この体でも、人並み程度には泳げますよ」
「そうか。さすが、水神と呼ばれるだけの事はあるな」
「白愛も遊んでおりますので、あちらに行って参りますね」
「おう、たまには羽目を外してこい」
「はい、ありがとうございますっ!」
白愛と満月の後を追って、恋白も浜辺に走っていった。
「そんじゃ、僕はリリィちゃんの所に行ってくるね〜っ!」
「あいよ、
「灰夢くん。何か、他の子たちと、違う見送り方してない?」
「気のせいだ、たっぷりと
「微妙にアクセントが違う気がするけど、まぁいいや。いってきま〜すっ!」
( また生きて会えることを、願ってるぞ。蒼月…… )
灰夢が心の中で、静かに蒼月に祈りを捧げる。
すると、灰夢の後ろから、再び何かが走ってきた。
「お兄ちゃん、見てくださいっ!」
「おう、言ノ葉……って、お前はスク水かよ……」
「なんか、リリィお姉ちゃんが、これがいいって……」
「まぁ、確かに……。お前には、それが一番似合うか」
「……それ、どういう意味ですか?」
「いや、純粋に可愛いってことだよ……」
「……え!? あっ、そうですか? でへへぇ〜……」
言ノ葉が嬉しそうな顔で、デレデレと体をくねらせる。
「いや、顔に出過ぎだろ。少しは隠せよ」
「い、いや〜。そんな直球で感想が来るとは思ってなくてですね」
「悪かったな。回りくどい言い方は苦手なんだよ」
「知ってます。それが、お兄ちゃんのいいところですからっ!」
「ふっ、そうか。……そういや、氷麗はどうした?」
「居ますよ、ほら……」
言ノ葉の後ろから、パーカーを羽織った氷麗がやってきた。
「お待たせしました……」
「おう。なんか、ガードの硬い感じが、お前らしいな」
「放っておいてください。それより、お兄さんは泳がないんですか?」
「まぁな。お前も、泳ぐ気はなさそうだな」
「流石に……。水着はちょっと、恥ずかしいので……」
「一緒に来といて、今更、何を言ってやがる」
「だって、せっかくのイベントですし……」
「その感情を隠す時の無表情、もう癖になってるだろ」
「まぁ、冷静さを保つには便利なんですよ」
「せっかくなんですから、氷麗ちゃんも一緒に泳ぎましょう!」
そういって、言ノ葉が後ろから、ガバッとパーカーを奪い取る。
それと同時に、氷麗の豊満な胸を包む、水色の水着が姿を現した。
「──ひゃっ!? ちょ、言ノ葉っ!! 何すんの急にっ!!」
「だって、いつまでも隠してるから、勿体ないなって思いましてっ!」
「だからって、急に……。それも、お兄さんの前で……」
氷麗が手で体を隠しながら、チラチラと灰夢の様子を伺う。
「……? 別に、隠すようなもんでもねぇだろ。良く似あってんぞ?」
「お、おおお、お世辞は結構です。どうせ、みんなに言ってますし……」
「別にお世辞じゃねぇよ。氷麗はスタイルも良いし、水色はよく映える」
「……あ、ありが……とう、ござい、ましゅ……」
氷麗のポーカーフェイスが崩れ、顔を赤くしながら冷気を発する。
「お兄ちゃん、オーバーキルですね」
「おい、御自慢のポーカーフェイスがボロボロになってんぞ」
「……だ、誰のせいだと思ってるんですかっ!!」
「言ノ葉がパーカーを取ったからだろ。俺のせいにするなよ」
「えっ、わ……わたしのせいですか!?」
慌てる言ノ葉を横目に、氷麗が体を押さえて
「もう、お嫁にいけないよぉ……」
「だから無理すんなって、いつも言ってんのによ」
「だって、ここの人たち、みんなスタイルいいから、自信なくなりますし……」
「おい、後ろの言ノ葉が凄い顔してんぞ?」
「……へっ?」
氷麗が振り向くと、メラメラと何かを燃やす言ノ葉が睨んでいた。
「……言ノ葉? なんか、顔が怖いよ?」
「わたしには無いモノを、二つも持っているくせに……」
「言ノ葉には、無いもの?」
「……こ・れ・で・す・よッ!!」
「──痛ったぁぃ!?」
言ノ葉が氷麗にぶら下がる、大きな脂質を引っぱたく。
「何するのよ、言ノ葉ッ!!」
「所詮、男なんて、みんな乳ですよっ!!」
「おい、俺まで巻き添えにすんな」
「いいですよ、こうしてやりますっ!」
「ちょ、待って……。言ノ葉、だめっ……水着を取ろうとしないでっ!」
「もう、絶対に許さないのだぁ〜! ぶっころですよぉ〜っ!」
「あっ、そこはダメだって……ひゃっ! もう、しばらかすよっ!」
『 ──凍らせるの禁止ですっ! 』
「あぁ!! 言霊使った!! なまらズルいべさ〜、言ノ葉ぁ〜!!」
「問答無用なのだぁ〜!!!!」
取っ組み合いをする二人を、灰夢が呆れた視線で見守る。
( ……まぁ、ちゃんと忌能力を使い慣れてきてるってことでいいか )
言ノ葉と氷麗は、互いを押さえつけ合うように、
グルグルと回転しながら、その場でじゃれ合っていた。
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