第伍話 【 心の傷跡 】

 灰夢たちは村の入口に辿り着き、森の中から村の様子を伺っていた。




「どうだ、生体反応はあるか?」

「いや、ないな。もう何年も踏み入った痕も無い」

「悪魔とやらは、どこにいるんだろうな」

「一応、今朝方飛ばしたドローンの映像も見てはいるんだがな」

「直接調べてみねぇことには、分かりようがねぇか」

「……だな、行ってみるか」


 周囲を警戒しながら、灰夢と満月が立ち上がる。


「おい、村に入るのか?」

「お前は、どうするんだ? ここで、ずっと待つのか?」

「いや、私も行く。見つけなくては、話にならないからな」


 灰夢たちは森を出て、村の中へと進んで行った。

 

「酷ぇな、家が溶けてらぁ……。まるで、酸でもかけられたみてぇだな」

「これだけ見ると、中々に大型の悪魔が暴れたようだな」

「あぁ……。出会ったら最後、目と目があって大バトルだな」

「惹かれ合う時間は、与えてくれそうにないか」


 すると、突然、後ろにいた真希が歩みを止める。


「……どうした?」

「あそこが、私の家だったんだ……」


 真希が見つめる先には、押しつぶされた家の跡が残っていた。


「……真希」

「いや、すまない。余計なことを言った、忘れてくれ……」


 そういって、真希が過去を振り払うように、再び前へと進む。

 その後、色々な家の中を見ても、真新しいものは見つからなかった。


「ん〜、特に何もねぇなぁ……」

「私は、もう少しここを見て回る。お前らは、どうする?」

「ここに、祠があるって言ってたよな。場所を教えて貰ってもいいか?」

「それなら、そこの奥の洞窟を抜けた先にある」


 灰夢と満月が後ろを振り返ると、木々に隠れた洞窟を見つけた。


「あの先か、わかった。ありがとな……」

「気をつけろ、アイツらは強い。いざと言う時は、迷わず逃げるんだぞ」

「それは、むしろ、お前に言いたいくらいだ。わざわざ死にに行くなよ?」

「私は勝つために来たんだ、必ず倒してみせるさ」

「……そうか。なら、生きてまた会おう」

「あぁ……」


 そう言い残すと、灰夢と満月は洞窟へと向かっていった。



 ☆☆☆



 祠に繋がる洞窟の中を歩きながら、二人は話をしていた。


「なぁ、満月……」

「……なんだ?」

「お前、その子に何か思うところがあるのか?」

「なんだ? 急に……」

「お前が直ぐに人に装備品を提供するのは、割と珍しいからな」

「……そうか? お前らには、割としてるつもりだが……」

「俺ら月影ならともかく、初対面の赤の他人には無いだろ」

「…………」

「子供だからということもあるんだろうが、他に何あるのかと思ってな」

「まぁ、ちょっとな」

「それは、聞かない方がいいやつか?」

「いや、お前ならいいだろう」

「……そうか」


 過去を振り返るように、満月が自分の手を見つめる。


「オレの忌能力【 破壊と創造オーバーホール 】は、使わなきゃ分からないだろ?」

「まぁ、そう言われるとそうだな」

「今は見た目があれでも、昔はただの人間だ。人目に着く忌能力じゃない」

「なら、なんで。……そんな姿になった?」

「それは、俺が戦いの中で、体の大部分を失ったからだ」


 そう答えた満月は、少しだけ自分の過去を語った。




























「オレの記憶は、実は大部分が欠けていて思い出せない。

 その原因は、機会の体に自分の脳をスキャンしたからだ。


 唯一思い出せるのは、小さな村の中で過ごしていたことと、

 まだ子供だったオレを大切にしてくれていた家族がいた事。

 そして、見知らぬ兵士たちに、オレの村が焼かれたことだ。


 家族は忌能力を知っていたから、よく機械を作って遊んでいた。

 危険な事は父が教えてくれた、人への優しさは母が教えてくれた。


 だから、オレも無闇に力を使うようなことはしてなかった。

 これは、いざと言う時に使う、なんだと教えてくれた。


 だが、ある時、戦争で訪れた兵隊たちが、村に攻め込んできた。


 その戦いの理由も、今では思い出すことは出来ないが、

 悲惨な村の焼き尽くされた姿だけは、今でも覚えている。


 あっという間に、オレの家族や親戚も村人も、何人も死んだ。


 だから、オレは自分の忌能力を使って、必死に応戦したんだ。

 ロボットを作り、皆を守る盾を作り、前線に出て戦っていた。


 その時のオレはまだ子供だったが、そんなオレでも、

 一人でも多くの村人を守る為に、戦うべきだと思った。


 結果だけを言えば、オレはかなりの兵隊を殺したんだと思う。

 だが、相手から受けた攻撃で、俺は片腕と両足を失っていた。


 手当をしてもらって、オレはなんとか一命を取り留めたが、

 そこに待っていた現実は、英雄としての賞賛ではなかった。



 ──オレを蔑み、バケモノを見るように避けていく村人たち。



 今では『 人型破壊兵器 』などと、笑って言っているが、

 あの時のオレには、そんな現実が心の底から辛かったんだ。


 だが、皆から避けられる孤独な日々になっても尚、

 いつか分かってもらえると思い、必死に生きていた。


 忌能力を使って、自らの義手と義足を自分で作り、

 体を作り替えながら、あらゆる機械で村に貢献した。


 だが、結局、一度恐怖を覚えた人間たちは、

 もう二度と、オレに心を許すことは無かった。


 母や父が居たら、もしかしたら違かったのかもしれない。

 皆を助けられたら、今とは違う人生だったかもしれない。


 それでも、一度失ったものは、もう二度と戻ることはない。

 いくら過去を見ても、取り返すことは出来ないんだと知った。



 だから、オレは一人で村を出たんだ──



 そこから数十年間は、人のいない場所で生活をしていた。


 兵器を作って、一人でも負けない強さを手に入れようと、

 自分の体を改造しながら、たった一人で生きていたんだ。



 そんな時に、爺が現れた──



 最初は信用していなかったが、何度もオレの場所を訪れ、

 くだらない話をしていた時、爺が同じ言葉を言ったんだ。


 兵器や忌能力を見た上で、オレの親と同じ言葉を──



























  『 その力は、君が大切な人を助け守る為に、


            天から君に授けられた、特別な力なんだよ 』



























 ──と。


 だから、オレは爺を信じてみることにしたんだ。


 ロボットの姿のオレを見ても、決して恐れることなく、

 冷たい鉄箱の中に眠る、オレの心を見てくれた爺をな」



























 そう話すと、満月は少しだけ笑っていた。


「それを、この子を見て思い出したってことか」

「あぁ……。ほんの少しだけな」

「そうか、よかった……」

「……よかった?」

「引きこもりのオタクが、ロリコンを爆発させたのかと思った」

「お前と一緒にするなよ。灰夢……」

「おい、いつから俺が、になったんだよ」

は否定しないんだな」

「まぁ、ゲームオタクは事実だからな」


「でも、あれか。最近は、女子高生もターゲットになってきたな」

「生々しいからやめろ、急にいかがわしくなんだろ」

「凄いな、『 女子高生 』ってパワーワード。罪がなくても悪く感じる」

「お前は、今、その冤罪えんざいを俺に押し付けたからな?」


 二人が洞窟を歩きながら、淡々とくだらない話を続ける。


「まぁ、最近のお前を見てると、ロリコンと言うより純粋なパパだけどな」

「俺らからしたら、もう曾孫すら超えてるレベルだろ」

「まぁ、外見だけでいえば、男の中では灰夢が一番若いからな」

「それが悪いとは言わないが、面倒事も多いんだぞ?」

「確かに、かなりのトラブルメーカーだしな」

「……誰がだ?」

「……お前だよ。なんで、自覚ないんだよ」


 そんな話をしていると、奥に光の差し込みを見つける。


 灰夢と満月が、その場所へと足を踏み入れると、

 洞窟の天井に穴が空き、岩の扉がある広場に出た。


「ここが、祠の入口か」

「みてぇだな。しっかりと扉が閉まってらぁ……」

「……どうするんだ? 灰夢……」

「それは、ここの管理人に聞くのが早いだろ」

「やっぱり、この子なのか……」

「あんな怪我で普通生きてるかよ。……そうだろ? よ……」


 灰夢が不意に放った言葉に反応するように、

 満月に抱かれていた少女の瞳の色が変わる。


 そして、ゆっくりと目を瞑ると、

 テレパシーのような声で喋りだした。


『気づいて、いらしたんですね』

「逆に、気が付かない方が無理だろ」

『……なら、なぜ助けたのですか?』

「お前……。いや、が、本気で助けを求める目をしていたからだ」

『……全て、お見通しという訳ですか』

「まぁ、なんで、その子の体に入ってんのかは知らねぇけどな」


 満月が少女を下ろし、そっと地面に立たせる。


『……あなたたちは、何故ここへ?』

「俺は死術書ってのを探してる。……知らないか?」

『そうですね。この子に、手を差し伸べてくれた恩義もありますので……』


 白い髪の少女が、ゆっくりと扉の前へ進んでいき、

 そのまま手をかざすと、岩の扉がゆっくりと開いた。


『詳しい話は、中で致しましょうか』





 白い髪の少女が、祠の中へと足を踏み入れていく。

 それを追うように、二人も祠の中へと入っていった。

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