第肆話 【 傷ついた少女 】

 灰夢と満月は、島の中で出くわした女性、真希まきに導かれ、

 島の中にある村を目指し、生い茂る森の中を進んでいた。




「本当に広いな、この森……」

「なんだか、まるでジャングルだな」

「人の手も行き届いていないからな」

「まぁ、そもそも手入れをする人間がいねぇもんな」

「それでも、面影はあるものだ……」

「そうなのか? これで分かるんだから、すげぇな」


 淡々と進む真希の後ろを歩きながら、灰夢が語り掛ける。


「なぁ、真希……」

「……なんだ?」

「お前の親父って、先に一人で島を出たんだよな?」

「あぁ、そうだが……」

「島から逃げた後、親父には会わなかったのか?」

「もちろん、会おうとした。だが、その願いは叶わなかった」

「……何か、あったのか?」

「父さんは、行方不明になっていたんだ」

「……行方不明?」

「あぁ……。だから、どこで何をしているかも分からない」

「…………」

「もしかしたら……。父さんも、もう……」

「……真希」


 すると、後ろを歩いていた満月が突然、動きを止めた。


「──灰夢、真希、止まれっ!」

「何だ急に、急がないt……」

「しっ、静かに……」

「──ッ!?」


 灰夢が真希の口を塞ぎ、じっーと気配を探る。


「……満月、どっちだ?」

「前方に生体反応……。かなりゆっくりだが、近づいてくる」


 灰夢たちの前方から、草木を分ける音が迫る。


 灰夢が真希を後ろにさげ、満月との間に隠す。

 すると、目の前の茂みがガサガサと動き出した。


「…………」

「…………」

「…………」



























           「 ……たす、けて…… 」



























 そう告げる小さな声と共に、右腕と左足を失った、

 白い髪をした幼い少女が、体を引きずりながら現れた。


「……お、おい。大丈夫か?」

「……まて、灰夢っ!」


 近づこうとした灰夢を、真希が慌てて止める。


「……なんだ?」

「こんな所に、子供がいるなんておかしい」

「まぁ、そりゃそうだが……」

「十五年間も人のいない島で、こんな体で生きてるなんて、普通じゃない」

「それでも、目の前のこれが事実だろ」

「罠だったら、どうするんだっ!」

「だから、俺が行くんだよ。お前は、後ろにいればいい」

「──お、おいっ!」


 そういって、灰夢は少女に向かっていった。


「……大丈夫か?」

「……たす……けて、お……ねが、い……」

「とりあえず、手当だな」


 灰夢は、真希に見えないように羽織で隠しながら、

 自分の影の中から、医療道具の入った箱を取り出す。


 すると、後ろで見ていた満月が近づいてくる。


「……あ、あぁ……こわ、い……」


 少女の声を聞いた満月が、その場でピタリと動きを止めた。

 それを見て、灰夢が優しく少女を抱き寄せ、そっと頭を撫でる。


「大丈夫だ、怖くねぇから……」

「こわ、く……ない?」

「あぁ、怖くない。大丈夫だ……」

「……大……丈、夫……?」

「あぁ、大丈夫だ。俺らは、お前の味方だ……」


 灰夢が少女の顔を見つめて、静かに笑みを見せる。

 すると、それを見た少女の震えが、ゆっくりと止まった。


「満月、いいぞ……」

「悪ぃな、ありがとう……」


 そういって、再び満月が歩み寄ってくる。


「……どう思う?」

「体温や心拍数なんかは、普通の人間だな」

「なら、悪魔ってやつではなさそうだな」

「あぁ、恐らく違うだろう」

「傷は、塞がってるか」

「かなり時間が経過してるな。念の為、防ぐものはあった方がいい」

「そうだな。とりあえず、手当をしておく……」


 灰夢が医療道具を使って、少女の体に手当をしていく。


「灰夢。この子の体、見せてくれるか?」

「あぁ、わかった……」


 満月が機械の手で触れ、少女の体のスキャンを始める。

 すると、それを後ろで見ていた真希が、ゆっくりと近づいた。


「おい、大丈夫なのか?」

「少なくとも、触れたり体温を感じても、人と変わらない」

「それは、そうかもしれないが……」

「死にかけてるガキだ、放っておく訳にもいかねぇよ」


 そういって、灰夢が淡々と手当をしていく。


「まさか、このまま連れていくのか!?」

「他に、どうする手段もねぇんだ、仕方ねぇだろ」

「だからって。私たちは、これから戦いに行くんだぞ?」

「その時は、このガキは俺らが守る。気にすんな……」

「守るって言ったって……」


 すると、満月が背中から、謎の装置を取り出した。


「満月、それはなんだ?」

「転送装置だ。念の為に持ってきた……」


 満月が転送装置を起動して、それを静かに見守る。

 すると、中から、手と足のような何かが送られてきた。


「なっ、なんだそれ……」

「人の体に優しい素材の義手と義足だ。即席だが、無いよりはいいだろう」

「──ぎ、義手と義足っ!? こんなに直ぐに。あんたら、何者なんだ……」

ただの、探し物をする流浪人だ……」


 満月が、手当された少女の体に、即席の義手と義足をつけていく。


「……どうだ、歩けるか?」


 灰夢が、少女をゆっくりと降ろして見守ると、

 少女は二三歩地団駄を踏んで、コクっと頷いた。


「まぁ、今できるのはこんなものか」

「ちゃんとしたのは、帰ってからだな。それなら、細かな調整もできる」

「……おて、て……さん、おあ……し、さん……くれ、る……?」

「あぁ、そいつはやる。もっと丈夫でカッコイイやつは、今度な……」

「……うんっ!」


 あまりの対応の速さに、真希が言葉を失う。


「さて、とっとと村に行って、用を済ませて帰ろう」

「……だな」

「真希、この先の道を教えてくれ……」

「あっ……あぁ、もうすぐそこだ……」


 真希は二人に困惑しながらも、再び歩み始め、

 満月は少女を抱き抱え、灰夢と真希の後を追う。




 少女は、体に身につけた義手と、自分の手で、

 落ちないよう、しっかりと満月の体を掴んでいた。

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