第伍話 【 全員集合 】

 灰夢たちの住む店の扉がガチャッと開き、蒼月と梟月が振り返ると、

 緑色の髪にドレスを着た女性と、元気いっぱいの少女が入ってきた。





「言ノ葉、無事に帰還なのですっ!」

「おっ、おかえり言ノ葉ことはちゃん。リリィちゃんもおかえり……」

「おかえり、二人とも……」

「うん、ただいま……」


 そして、二階に居た灰夢たちも、合わせるように姿を見せる。


「久方ぶりに、全員が揃ったな」

「あっ! お兄ちゃんが、帰ってきているのです!」

「だから、俺はお前のお兄ちゃんじゃねぇって……」

「お兄ちゃんは、お兄ちゃんなのですっ!」

「はぁ……」


 灰夢の言葉を気にすることなく、少女が嬉しそうに灰夢に抱きつく。


「灰夢、久し振り……」

「あぁ、相変わらずだな。華月かげつ……」

「リリィって、呼んでって……。いつも、言ってるのに……」

「わかったよ、リリィ……」

「……うん」


 そういって、綺麗なドレスを着た女性が、静かに笑みを浮かべる。


「狼の、お兄さん……。この人が、同居人さんですか?」

「……ん? あぁ、こいつが……」



 ──その瞬間、薄らとしか表情の変わらなかったリリィの目が光った。



「──ッ!?」

「──ッ!?」


 突然の変化に驚き、風花と鈴音が慌てて灰夢の背中に隠れる。


「その、肩の……。なに? 灰夢……」

「何って、ただの子供だが……」

「お、おおおおお、お兄ちゃんにも、そういう趣味がっ!?」


 同時に言ノ葉も、風花と鈴音を見て白目に変わっていく。


「俺って、そんなに全員からロリコン野郎だと思われてたのか?」

「灰夢くんの場合は、言ノ葉ちゃんの影響もあるだろうけどね」

「そのロリっ子は特別だろ。なんだよ、双子のケモ耳幼女って……」

「いや、むしろ俺が知りてぇよ」


 すると、灰夢の周りをクルクル回っていたリリィが、

 風花と鈴音をパッと捕まえて、胸にギュッと抱きしめた。


「もらっても、いい……?」

「いいわけねぇだろ。ゲーセンの景品じゃねぇんだぞ」

「むぅ……」


 灰夢の冷静な返しに、リリィの頬がぷっくらと膨れる。


「助けて、灰夢くん……」

「狼の、お兄さん……」


 リリィの腕の中で怯えながら、風花と鈴音が涙目で手を伸ばす。


「ここに住む予定だから、別にいなくなったりはしねぇよ」

「……そうなの?」

「あぁ……。だから、離してやれ……」

「うん、わかった……」


 リリィが二人を離すと、二人は急いで灰夢の肩に乗って隠れた。


「つ、ついに……。わたしにも、妹ライバルが……」

「なんだよ。『 妹ライバル 』って……」


 突然現れた風花と鈴音に、言ノ葉が謎の闘志を燃やす。


「こいつが風花、こっちが鈴音だ。迷惑かけるだろうが、よろしく頼むな」


不動ふどう 言ノ葉ことはです。よろしくなのですぅ〜っ!」

「風花、です……。よろしく、です……」

「鈴音です、お世話になります……」

「ん〜っ! すっごく可愛いのだぁ〜っ!」


「……まぁ、大好評ならいいか」


 ぴょんぴょんと喜ぶ言ノ葉を見て、少し引き気味に灰夢が呟く。


「……ワタシはリリィ、よろしくね」

「──ッ!?」

「──ッ!?」


 リリィの自己紹介をしようと近づくと、再び二人が灰夢に隠れ出す。


「ワタシ、嫌われちゃった……」

「お前が急に、二人を捕まえたりするからだろ」


「狼の、お兄さん……」

「……ん?」

「……この人、怖い人?」


 怯えながら肩に掴まる風花が、そっと灰夢に問いかける。


「リリィはウチの精霊術士だ。あまり表情は変わらねぇが、悪いやつじゃねぇよ」

「……精霊術士?」

「コイツは自然を操れる忌能力者で、身体の中に四人の大精霊を宿してる」

「四人の、大精霊……?」

「そんなの、いるの……?」


 灰夢のファンタジーな説明に、二人は目を輝かせていた。


「世の中的には、【 四大精霊エレメント 】って言うらしい」

「す、凄い……。おとぎ話、みたいです……」

「精霊さんの本物って、初めて聞いた……」

「いや、お前らがそれを言うのか? 化け狐共……」


 呆れながら二人と話す灰夢に、リリィが無表情のまま問いかける。


「……妖狐?」

「あぁ……。なんでも、人間と妖狐の子供らしい」

「そっか、よろしくね」

「よろしく、です……。風花、です……」

「鈴音です。よろしくお願いします」

「ふふっ……。やっぱり、可愛い……」

「まぁ、仲良くしてやってくれ」

「……うん」


 そんな話した途端、灰夢の影が大きく広がり、

 部屋にいた者たちの表情が、一瞬で凍りついた。



『 ……自己紹介は、終わったかのぉ? 』



 そう灰夢に問いかけながら、足元の影の中から、

 黒く淀んだオーラを漂わせる牙朧武が姿を現す。


「おわああぁぁぁぁ……」


 そのおぞましい獣の姿に、言ノ葉を始め、

 その場の全員の目が、釘付けになっていた。


「なんだ、牙朧武くんか。凄い圧力だから、何かと思っちゃった……」

「ワタシも、びっくり……」

「そろそろ慣れてくれ。また襲われたら、たまったもんじゃねぇから……」


 牙朧武を見て冷静に呟くリリィと蒼月に、灰夢が冷たい視線を向ける。


「いつも思うんだが、もうちょっと穏やかに出てこれないのか?」

「吾輩、そんなに圧を感じさせておるのか?」

「牙朧武は見た目からして、どう考えても無理だろ」


 呆れながら告げる満月に、灰夢が諦めた顔で答える。


「き、急に足元から出てくると、ビックリするのです……」

「すまぬのぉ……。これでも、静かに出ているつもりなのじゃが……」

「あっ、いや……。牙朧武さんは、悪くないと思うのですっ!」


 申し訳なさそうにする牙朧武を見て、

 言ノ葉は慌ててフォローを入れていた。


「初めて牙朧武が来た時が、なんだか懐かしいな」

「あの時は僕ら全員で、灰夢くんと敵対しちゃったもんね」

「何度も『 俺だ 』っつってんのに、誰も信じねぇからだろ」


 思い出話をする蒼月と満月に、灰夢がしかめっ面を向ける。


「この呪力は、桁違い……」

「急にそんなの連れて帰ってきたら、誰だって疑うって……」

「うふふっ……。灰夢くんが不死身で、本当に良かったわ」

「勘弁してくれ。お前らが本気になると、シャレになんねぇんだから……」


 リリィと蒼月の言葉に、霊凪は静かに笑顔を見せていた。


「死術と呪術で、オレら五人と互角に戦ってたくせに良く言うな」

「それは俺の忌能力じゃなくて、死ぬ為に手に入れた付属品だろ」

「付属品でアレだけ戦えれば、十分すぎるって……」

「あの戦いだけで、俺は千回ぐらい死んだからな?」


「死ぬ度に強く復活する恐怖を、オレは初めて実感したよ」

「俺の人生は、コンテニューしか選べねぇからな」

「そろそろ、強くてニューゲームしたらどうなんだ?」

「それがしてぇから、死術を集めてんだろうがッ!!!」


 物騒な思い出話に、花を咲かせる灰夢たちを見て、

 風花と鈴音は、目をパチパチしながら固まっていた。


「あの灰夢くんが、千回死ぬって……」

「ここの人たち……。ヤバい、です……」



 二人が小さな声で呟いた、その時──



























             ──蒼月が、一言呟いた。



























「……おや? お客さんかな?」

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