第参話 【 迷惑 】

   灰夢かいむの部屋で鈴音すずなと寝ていた風花ふうかは、


            山神と戦っていた時の夢を見ていた。


























     風花の夢の中に出てきた灰夢は、


          山神に岩で上半身を潰された時、


               再び立ち上がることはなかった。


























       鈴音も捕まり、山神に力を吸収され、


            その後に、自分も襲われそうな時──



























             ──ふと、目が覚めた。


























       灰夢が店のカウンターで、蒼月そうげつたちと、


            入手した死術の話をしている時だった。



























「──キャァァァァァァァァァ!!」

「……あ?」

「上の階からだ、あの子たちじゃないか?」

「はぁ、ちょっと見てくるか」



 ☆☆☆



 鈴音と風花が、燃える畳を見て焦っていると、

 そこに、見知らぬ和服の女性が駆け付けてきた。


「──どしたのっ!? 大丈夫っ!?」

「あ、あの……。その、これは……」


 女性を見た風花が、オドオドと焦りながら躊躇っていると、

 一階の店から登ってきた灰夢が、自分の部屋へと姿を見せる。


「おい。なんの騒ぎ……だァァアア!?」

「あっ……。狼の、お兄さん……」


 自分の部屋の畳が燃えてるのを見て、灰夢は純粋に驚愕した。


「おいおい。来た初日だからって、キャンプファイヤーは派手過ぎんだろ」


 灰夢が燃えている所に手を伸ばし、一瞬にして凍てつかせる。

 それを見た女性は不思議そうな顔をして、灰夢に問いかけた。


「灰夢くん……。あなた、今、何をしたの?」

「触れたところを凍らせる死術だ、前に旅してた時に拾ってな」

「あなた、自分の手が……」

「大丈夫だ。どうせ、嫌でもすぐに治る」


 そんな会話をしている間に、灰夢の手が治っていく。


「灰夢くんの身体は、本当に不思議よね」

「俺からしたら、あんたの忌能力の方が不可思議だけどな」

「うふふっ……。女の子は、秘密が多いのよ……」


 女性が灰夢に微笑んでから、傍に居た風花と鈴音に触れる。


「あなたたち、火傷してない?」

「大丈夫、です……」

「うん、鈴音も大丈夫……」

「そう、よかったわ……」


 そんな女性の顔を、二人は不思議そうに見つめていた。


「……怒らないん、ですか?」

「怒ったりしないわよ。何か、理由があるんじゃないの?」


 女性の言葉に続くように、灰夢が双子に問いかける。


「鈴音、なんで燃えたんだ?」

「分からない、起きた時には燃えてて……」


 鈴音がそう答えると、風花が下を向いて黙り込んでいた。


「……風花?」

「…………」

「大丈夫よ、なんでも言ってごらん?」


 女性と灰夢が問いかけると、風花はゆっくりと口を開いた。


「……ゆ、夢を……」

「……夢?」

「夢を、見たんです……」


 言葉を発する程に、風花の手に力が入っていく。


「戦いの中で……。お兄さんが、死んじゃって……」

「…………」

「姉さんも……。力を、取られちゃって……」

「……そう」

「風花も、そのまま……」


 泣きながら答える風花を、女性はそっと抱きしめる。


「怖かったわね、もう大丈夫よ……」

「お部屋、燃やしちゃった……。力が、まだ……。ちゃんと、使えなくて……」

「誰でも怖い時や不安な時は、周りが見えなくなっちゃうのよね」

「ここに居たら、風花……。また、燃やしちゃいます……」

「落ち着いて、大丈夫だから……」

「怖い時とか、不安な時に……。力が、出ちゃうんです……」


 答える度に、風花の目からは涙が溢れ出していた。


「灰夢くん……」

「はぁ……」


 涙を流す風花を見て、鈴音が不安そうに灰夢の服を掴むと、

 灰夢は優しく鈴音の頭を撫でてから、風花に歩み寄って行く。


「燃えたなら、家でも部屋でも作り直せばいい」

「でも、風花は……」


 俯く風花の前にしゃがみこむと、灰夢は優しく頭を撫でた。





「なんでも、最初のうちは上手くいかねぇんだ。

 子供だろうと、大人だろうと──


 それこそ、妖魔も、呪霊も、人間も。

 誰だろうと、それは変わらねぇ……


 失敗して、努力して、そうして使えるのようになる。

 初めっから上手くいくとは、俺も思っちゃいねぇよ」





 それでも風花は、灰夢を不安そうに見つめる。


「でも、風花の力は、一つ間違えたら……」

「……俺が死ぬってか?」


 灰夢は揺らぐことの無い笑みを浮かべながら、

 涙を流し続ける風花に向け、静かに語り始めた。







「俺のことを、やれるもんならやってみな。

 俺は死ねるなら、その方が報われるんだ。


 それに、空を焼き尽くす程の大爆発でも、

 俺の身体は、こんなにピンピンしてんだぞ?


 例え、お前が化けてでも、俺は殺せねぇよ。


 ましてや、ここにいる俺の同居人たちは、

 俺なんかよりよっぽど強ぇから、安心しな。


 お前らが、自分に燃え移るなら考えもんだが、

 そうじゃねぇなら、別に気にすることはねぇよ」







 涙を流す風花と、不安そうな鈴音を抱き寄せると、

 自分の羽織をバッと広げて、灰夢が二人を包み込む。































         「 迷惑をかけて、何が悪い……? 」



























     「 同じ時間を、他の誰かと過ごしてりゃ、


            互いに迷惑かけんのは当たり前だろ 」



























      「 自分で間違えたと思ったんなら、


             その反省を、ちゃんと次に活かせ。




      失敗して落ち込んだ時は、泣いてもいい。


             だが諦めずに、また練習してみろ 」



























     「 それを何度も繰り返していって、初めて、


            みんな、色んなことを覚えていくんだ 」



























      「 昨日の夜、俺がお前らに言っただろ?


           『 お前らの居場所は、俺が作る 』って 」



























    「 甘えたい時は、好きなだけ甘えりゃいい。


            泣きたい時は、いくらでも泣きゃいい 」



























     「 俺は確かに不死身だが、だ。


            俺に、お前らのはねぇんだ。




       だから、不安な時も、怖い時も辛い時も、


            助けて欲しい時は、ちゃんと俺に教えてくれ 」



























       『 何があっても、俺が必ず助けっから── 』



























     風花と鈴音は、そっと灰夢の服にしがみつき、


           生まれて初めて、堪えること無く大きな声で、




             子供らしく泣いていた……

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