第3話 陰キャ、急な戦闘に戸惑う
「い、今の何ですか?」
急なことに俺は戸惑った。
急に体が熱くなったと思ったら緑色の光が俺の中に入ってきて…もしかして新しい命、てきなやつなのか?
そう考えているとイルエールさんが言った。
「新しい命…まぁ、あながち間違ってはいませんね。詳しく説明すると長くなるのですが…そうですね。簡単に言うのであれば、今のは異世界で生きていくために必要な『加護』ですね」
加護…か…なんか急にファンタジー感が出てきたな。まぁ…俺には加護もクソもないよう思えてくる…運、人一倍悪いし。
するとイルエールさんが言った。
「加護に運も何もありませんよ。加護は誰にでも生まれた時から必ず持っているものなんです」
「そう…なんですか」
そこで俺は思案した。
なんか……さっきからずっと気になってたんだけど…これ、俺の思考読まれてるよね?
俺の疑問はすぐに解決された。
「人の思考を読むぐらい、
「…!」
まじですか…天使、恐るべしです。まぁ、もう驚きはしないな。俺の黒歴史を読まれーーー気分が落ち込んでくる…
「…とまぁ、それてしまったので話を元に戻しますが、自身の加護は生まれてくるときから持っており、そして一体どんな加護を持つのかは、その人の素質や性格によって決まるんです」
そこで俺は一つ疑問に思った。
「…その加護って持っていたら何か効果とかあったりするんですか?」
ゲームでの定番で言うなら、加護は耐性を上げたりだとか、属性や能力を強化するものだったりとか、即死回避など特殊効果を付属するものが大体だ。
異世界での加護もそのようなものなのだろうか…僕、気になります!
俺の問いにイルエールさんが言った。
「勿論です。付く加護によって、その加護に関連することが出来るようになりますよ」
「…というと?」
「例えば熱い性格の人によく付与される『火の加護』なら火を自由自在に扱えるようになって、生まれつき空間把握能力が高い人なら『透視の加護』と索敵能力に長けるんですが……」
すると、イルエールさんは何故か意外そうに俺を見た。
「それにしても…まさか『エルフの加護』とは…」
「…え?それって…俺のですか?」
イルエールさんが頷く。
「はい」
エルフの加護…?何だ…それ?ゲームでもそんなの聞いた事ないな…
「エルフの加護…?それって…珍しいんですか?」
俺の問いにイルエールさんは顎に手を当てて答える。
「まぁ、希少性はそんなに高くありません。ただ…本来『エルフの加護』というのは、亜人にあるものであって人間にはない加護なんです」
亜人にしかない加護…なるほど、だから今驚いたのか……にしても亜人…
異世界と聞いてから一瞬頭に浮かんだ亜人という名の存在、やはり存在するみたいだ。
まぁ、いてもおかしくないよな。異世界なんだし。
異世界もののラノベなら亜人なんて必ずと言っていいほど出るぐらいなんだし。
「亜人と聞いてもあまり驚かないんですね」
「まぁ…」
アニメとかゲーム好きですから。
…とそんなこと思っている場合ではなく俺は話を本題に戻すべくイルエールさんに言った。
「…ところで亜人にしかないって、俺人間ですけど大丈夫なんですか?」
拒絶反応が起こって体が弾け飛ぶなんて事があったら絶対に嫌だな…
俺の疑問にイルエールさんが答える。
「『エルフの加護』が付いたということはそれが阿迦井さんの適した加護という事なので恐らく大丈夫だと思います。今まであまり例がなかったので保証はできませんが…」
「そうですか…」
例がない…
不安しか覚えない答えだが、天使であるイルエールさんの戸惑っている様子から本当に前例がなく想定外のことなのだろう。
だが、俺はイルエールさんの『大丈夫だと思う』という言葉を不安ながらも今は信じることにした。
「では、そろそろ行きましょうか」
そう言ってイルエールさんは手を差し伸べた。
「え?どこにですか…?」
俺の言葉にイルエールさんはキョトンとした顔で言った。
「どこって、異世界にですよ?」
…え?
イルエールさんの言葉に、逆に自分がキョトンとした。
「え、ここ…もう異世界じゃないんですか?」
「あ、いえ違いますよ?ここは僕が生み出した幻想世界です」
………え?幻想世界?
「はい」
…へぇー幻想世界…
「はい」
ほぉー幻想世界か…
「はい」
…と、言うことは…実質ここはまだ家ってこと!?ちょっと待て!ということは!ということはだよ!?ここは景色が変わっているだけでまだ家の中、家族もみんないる!もし今のをみんなに見られたら俺は部屋の前で見えない誰かと話してるヤバい奴にしか思われないじゃん!
驚愕の事実に気付いた俺は、恥ずかしさで頭を抑えているとイルエールさんは「違いますよ」と言って答えた。
「物凄い誤解をされているようですが、幻想世界は僕が創り出した世界なので阿迦井さんが今いる場所は部屋の中ではありませんよ。それに、阿迦井さんの家はここにはありません」
「え、でも…何でここに部屋が…」
この場所がイルエールさんが創造した世界ということにも驚愕だが、何故こんな所々に木々が生えた見晴らしのいい場所に俺の部屋があるのだろうか。
前を見れば見晴らしのいい草原が、後ろを見れば横幅約3.5mのコンクリート材質の壁と違和感しかない。
そんな俺の疑問に、イルエールさんは手を頭の後ろに回して何やら言いにくそうな様子で答えた。
「い、いや~実は…その〜天使って人間と同じように学園を卒業しないとなれないんですよ」
え、が、学園…?……ってあれ、卒業って…まさかの天使、職業説ある?
「それで、僕はこの間やっとの思いで卒業して、阿迦井さんが天使として初めての仕事に選ばれたんですが…」
へぇ…俺が選ばれるなんて…なんか光栄だな。
「初めは…
…あ、何か予想できちゃった気がする。
「ですけど僕、人を転移させるの凄い苦手で…阿迦井さんだけのつもりが、部屋ごと転移させちゃいました…」
…うん、やっぱり。
そして今のを聞いてひとつの疑問が浮かんだ。
「…じゃあ、今家って…俺の部屋だけ消えている状態ってことですか?」
それって…結構な大問題だよね?もしそうだったら多分俺の家テレビに映るよ?
「そう、なりますね」
…わー
「でも心配しないでください!騒ぎになる前に後でちゃんと戻しておきますから!」
いや、もう手遅れな気が…
今はもう恐らく朝の7時を過ぎている。多分今頃、家族や通行人に見つかって大騒ぎになっているだろう。いや、家の一角が無くなっているんだ。間違いなく大騒ぎになっている。
でもまぁ部屋はちゃんと戻してくれるみたいだし、明日には「という夢だったのさ!」っていう風になってる……かな?取り敢えずは大丈夫だと信じよう。うん。
「なら…大丈夫です」
………天使、学園…卒業…
そこで俺は更なる疑問を問いかけた。
「…ところでさっき卒業したばっかって言ってましたけど…天使ってなるものなんですか?」
俺の中では、天使はこの世が誕生してから存在していて、なるものではないイメージだ。だが、学園、卒業、天使、こう見てみると天使は一種の職業ではないのかとさえ思えてくる。
「端的に言えばそうですね」
「そうなんですか…」
じゃあ…
―――天使の前って何なんだ?
「それは…」
俺がそう思った瞬間、突然イルエールさんは何か悲しげな表情になり、視線を下に落とした。
だが、それは一瞬のことで、すぐに先程と同じ爽やか好青年な表情に戻ると言った。
「すみませんが、それは禁則事項なので…」
「え、あぁ…」
そ、そうですよね!たかが人間の分際でそんな立ち入った事聞いて良い訳ないですもんね!ゲーマーだからか、アニメ好きだからか…凄い立ち入った事を聞いてしまいました!……凄い申し訳ないです…
「いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください。色々聞きたくなるのもわかります。僕も最初はそうでしたから」
心の中での謝罪でも快く受け止めてくれる…凄い優しいな…
「まぁ阿迦井さんが陰気な性格というのは前もって知っていましたし大丈夫ですよ!これでも僕、初めての正式な仕事で、阿迦井さんと会うのとても楽しみにしてたんです!」
「あ、ありがとうございます…」
陰気……
「あれ?どうかしましたか?」
「いえ、何も…」
自分で言ったり他の人に言われてもあまり何も感じないけど、俺と真逆の性格でしかも天使様に言われると凄いメンタルにくるな…まぁ、もうこの際どうでもいっか!
「では、長話もあれなんでそろそろ行きましょうか」
そう言うと、イルエールさんは何やら巻物を取り出し、それを地面に置くと何かを唱え始めた。すると次の瞬間、イルエールさんの周りに黄色に輝く巨大な魔法陣が形成された。
うわぁ…!すご…!
その光景を見て、俺は興奮を覚えた。
アニメやゲームだけだと思っていた光景、それが今、俺の目の前で起こっている。
凄い…!初めて生きてて良かったと思った…!
魔法陣が完全に形成されると一瞬眩い光を放ち、光が治まるとイルエールさんが立ち上がった。
「さぁ準備は整いました。どうぞこの中へ…」
そう言ってイルエールさんは魔法陣の中に入ることを勧めた。
俺はそれに従って魔法陣へと歩き出す。
…いよいよだ。現実世界とお別れし、始まろうとしている異世界生活…この魔法陣の中に入ったら最後。もう現実世界に戻ってくることは出来ないだろう。だが…
フッ…異世界…好意を抱くよ…興味以上の対象だ!
もう迷いは無かった。
そもそもイルエールさんから現実世界での俺のお先真っ暗な今後の話を聞いた時から、この世界に残りたいという気は微塵もなく消え失せている。
「…そうですね、行きましょう!」
そうして俺は魔法陣の中へと足を踏み入れようとした…がその時、ある不安を覚えた。
俺は魔法陣の手前で立ち止まり、イルエールさんに問いかけた。
「あの、これって転移するんですよね?」
俺の記憶が正しければ確か…
俺の問いにイルエールさんはニコッと答える。
「そうですよ」
………
「…大丈夫なんですか?」
イルエールさんはさっき、『人を転移させるのが物凄い苦手』と言っていた。で、今から俺は異世界に転移するわけだ。
…これ、本当に大丈夫なのか?
するとイルエールさんはこちらの意図を察したのか「大丈夫ですよ」と言って答えた。
「確かに僕は転移を得意とはしませんけど、これはスクロールによる転移魔法ですので安全ですよ」
スクロール…か…スクロールってことは、初めから魔法が出来上がってるってことだよな。…確かに安全だ。
そうと分かればもう心配することは少なくとも今は無い。俺は立ち止まっていた体を動かし、魔法陣の中へと足を踏み入れた。
「では行きますよ!―――テレポーション アライズ―――」
イルエールさんが呪文のようなものを叫ぶと、魔法陣が強烈な光を放ち、…そして次の瞬間、突然魔法陣が消滅し、周りが真っ暗になった。
「え…!?」
急な事に俺は思わず驚きの声を上げた。
「大丈夫ですよ。周りが暗くなったのは転移してる最中だからです。時期にこの空間から出られますよ。それによく見てみてください。僕達はちゃんと存在していますから」
そう言われ、俺は自分の手を見てみた。
…確かにそうだ。周りは真っ暗なはずなのにイルエールさんと自分の姿はハッキリと見えている。…不思議な空間だ。
そんな事を思っていると、イルエールさんはこちらに振り向きざまに言った。
「さて、目的地に着くまで少し時間がありますね…何か聞きたい事とかはありますか?」
聞きたいこと?それはもちろん…
「…今向かってる異世界ってどんな世界なんですか?」
今思えば、向かっている場所がどんな世界なのかは大雑把にしか教えてもらっていない。今わかっていることは、一つは亜人が存在すること、二つ目は加護という異能的とも魔法的とも受け取れる力が扱えること、それだけだ。
「そうですね…説明するとうんと長くなってしまうのでとても簡単に説明すると―――」
簡単といっても結局は長かったので、今の話を要約するとイルエールさんが言っていたことはこうだった。
俺達が今向かっている異世界は数多くの魔物が存在しているらしく、それに伴い異世界には数多くの冒険者が存在しているらしい。だがレベルという概念はなく階級制で、職業もタンク、ヒーラーと言ったものはなく個々の自由。その他にはクエスト等の存在…簡単に一言で言ってしまうと、異世界はRPG系のゲームと世界観が近い気がする。
イルエールさんの説明を聞き終えた俺は、一つ思ったことがあった。
冒険者が数多く存在している…つまり、俺も冒険者になるってことなのか?
俺がそう考えていると、イルエールさんが言った。
「それは阿迦井さん次第ですよ。冒険者になって現実にはない生活を送るか、商人などになって現実世界とあまり変わらない生活を送るか…」
その言い方、冒険者になった方が良いって言っているようなものでは…?
「まぁ僕はその前提で会いに来てますからね。阿加井さんも、今の生活も自分の人生も変えたいと思ったから異世界に行くと決めたのでしょう?」
そりゃあ…
「…言ってしまえばそうですけど自分戦い方なんて知りませんし…」
そう俺が答えると、イルエールさんはニコッと爽やかな笑みを浮かべた。
「それなら、心配無用ですよ!」
イルエールさんがそう言った次の瞬間、突然、足元に赤く輝く魔法陣が出現し俺の周りを囲った。
え、何?なんで魔法陣?
そう疑問に思っている間にもイルエールさんは言葉を続ける。
「基本的な戦い方は、
…………はい!?
「え、ど、どういう事ですか?」
今からって…え!?
「今から阿迦井さんには僕が作った幻想世界に行ってもらって魔物を一体倒してもらいます。でも安心してください!魔物は決して強くはありませんから!」
「いやちょ、ちょっと待ってください!全然話の理解が…」
「大丈夫ですよ、僕もちゃんとフォローします!自分の力と加護の力を信じてください!」
いや『信じてください!』って、俺は引きこもりで滅多に外に出ないし、自分の加護だってどういう能力を扱えるのかさえまだ分からないんですけど!?
そんな俺の考えにイルエールさんはハッと思い出したように言った。
「そういえば確かにまだ言っていませんでしたね。阿加井さんに付与された『エルフの加護』というのは防御、付与、治癒魔法を扱えながらも素早い近接戦闘を得意とする加護です。戦闘向けの加護と言っていいでしょう。戦えるだけの力は十分にあります。まぁこう見てみると『エルフの加護』は確かに阿加井さんと相性のいい加護だと思いますね」
『エルフの加護』、支援魔法を扱え、近接戦闘もできる。職業で言うならば魔法剣士みたいだな。聞く分には悪くないと思える加護だ…けど!俺はそれより急に戦闘が始まろうとしているこの状況に驚愕を禁じ得ないんですけど!?
「まぁそんな深いことは考えないで、では行きますよ!」
そう言ってイルエールさんはまたスクロールを取り出し、足元に広げた。
「え、ちょっと!」
だが時すでに遅し。
「―――アシューム アライズ―――」
イルエールさんがそう唱えた瞬間、魔法陣が眩く輝きだし、目の前の真っ暗な景色が真っ白に染まった。
嘘ぉ〜〜〜〜!?俺まだうんとも何も言ってないのに!?
そう思っている間にも白く染ってた景色に赤、青、緑と空間に色が宿っていき、気付くとそこは火山地帯なような場所になった。
何だよここ…!
空は真っ暗な雲に覆われ、雷が鳴り響き、俺の少し離れた場所では溶岩が流れ出ている。
何だよここ〜〜〜〜!?
「グァ"ァ"ァ"」
すると後ろから悍ましい唸り声が聞こえた。
「ヒッ!」
いる…後ろにいてはいけない何かがいる!
俺は恐る恐る後ろを振り向いた。
!?
後ろから聞こえたいた悍ましい声の正体…俺の後ろにいたのは全身が鋭い鱗で覆われた巨大なトカゲのうな生物だった。
「グ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ!!」
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