開幕の閃光 ♯3

黒い鯨、戦艦型怪異が上空で宙返りをするのを品川は見た。



 「デカいぞ!!」


 『旗艦級だ!』


 ダッチャの言葉に品川はうめく。

 戦艦型、それも旗艦級怪異とは、数千体にも及ぶ大型で協力怪異の集団『怪異艦隊』を指揮する存在だ。

 戦艦や、巡洋艦など。軍艦に例えられる大型怪異を指揮し、統率する。

 

 「と、言う事は。ダッチャ!!」


 『雲海の下からくるぞ!!』


 ダッチャが報告した直後、雲海を突き破ってまた新しい大型怪異が姿を現す。


 『重巡型12 軽巡36 駆逐艦多数。なんだよこれ!?』


 ダッチャはセンサーシステムを操作して状況を把握する。


 『おかしいぞシナガワ、怪異の野郎、『突然現れる』ぞ』


 「なんだ、それ?」


 『どうもこうもねえ! レーダーに突然現れるんだ。異空間センサーにも顕現反応が無い。全く予兆も無く出現している。まるで瞬間移動だ!』


 品川は回避行動を取りつつレーダーを見る。

 ダッチャの言う通りだった。

 何もない空間に突然、怪異反応が出ていた。


 「まさか、ワープしてきてるってのか!?」


 次の瞬間、品川は前方の風景が歪むのを見た。

 その中心から切り取ったような闇が現れる。

 品川の反応は速かった。操縦桿を下に倒して急降下する。

 その後ろに品川は駆逐艦型怪異が現れるのを見た。

 品川は思考する。

 レーダーや無線から味方が混乱しているのが分かる。

 その混乱に乗じては怪異戦艦からの対空砲火。味方が次々と撃墜されている。

 今、自分たちを追ってきている怪異はいない。

 そして、今レーダーで旗艦級怪異を補足している。


 「ダッチャ、アリー大尉を呼び出せるか」


 『繋がらない、レーダーでは捕捉している…今、格闘戦の真っ最中みたいだ』


 「手が回らないか。AWACSに無人攻撃機UAVの指揮権譲渡を申請してくれ! 8機欲しい!」


 『何する気だ!?』


 「旗艦級を撃沈する」




 

 ミラリア帝国海軍第512戦闘航空攻撃隊所属

 ダッチャ・バットス二等兵曹

 

 ああ、全くこの馬鹿。何を言ってやがるんだこの日本人は。


 「冗談じゃねえよな」


 『当たり前だよ。こんな状況で冗談言えない』


 凄まじい力が体にかかる。

 風景が一回転する。

 窓の外を怪異がすっ飛んでいくのが見えた。


 『この状況を打破するにはそうするしかない。やってくれ』


 あたいはこいつが気に入らない。

 何にも考えてないのほほんとした顔をいつもしやがって。

 それでいて戦闘機パイロットとしての技量がそれなり、というかエース並みなのが余計に腹が立つ。

 ――もっと腹が立つのはこいつのほうが階級が上だって事だ

 まあ、それは置いといて。シナガワの判断は真っ当だ。

 喧嘩の基本は頭を潰す事。

 レーダーみる限り味方は手が離せないらしい。

 手が空いてるのはあたい達だけだ。

――おっと、レーダーに反応、怪異。感づかれたな、追ってくる。


 「10秒、絶対に落とされるな」


 『了解、振り回すよ!』


 また激しい力が身体を襲う。

 オーグメンターを使いやがったなこいつ。

 目まぐるしくかわる風景の中で、あたいは機器を操作。

 後席担当はつらい。

 戦闘機動の凄まじいGに耐えながら機器を操作するのは曲芸に近い。

 戦術ネットワークに接続、AWACSミズーリ12にUAV指揮権譲渡を申請、承認。

 パネルに表示。


 ≪UAV DATE LINK…Complete≫


 ≪UAV ONLINE≫


 ≪UAV ― 8 ≫


 「八機、承認下りたぞ!!」


 『援護モードにセット、行くぞ!!』


 機体が右旋回。

 遠くに旗艦級怪異が見えた。

 品川がどうやって落とそうとしているのかは分かる。弾幕の薄い左後方部だ。

もっとも、弾幕の薄い部位を狙うのは対怪異艦格闘航空戦のセオリーだがな。当たり前の事だ。

ふと見ると、キャノピーの外、機体後方から八つの灰色の物体が付いてくる。

 UAVだ。

 あたい達を援護するため後ろにつく。

 『ダッチャ、一撃で決めるよ! 弾幕が予想以上に厚い。手持ちのミサイルを全部使う。呪核を』


 「呪核を一撃で壊すんだろ」

 

 分かってるっつーの。

 弾幕が機体をかすめる。品川が回避機動を始めた。UAVが戦闘開始、怪異と格闘戦を繰り広げる。

 凄まじい戦闘機動だ。

 生身の人間が乗っている戦闘機では決してできない機動をUAVは軽々とやってのける。

 テクノロジーってすげーな。

 あっという間にUAVがこっちを追っていた怪異を落とす。

 だが、また新しい怪異の一団がこっちを追ってくるのが長距離レーダーに見えた。

あたいはセンサーシステムを操作。

 センサーが怪異の力の源、魂である呪核を捉える。

 その情報を機体に搭載されているミサイルに入力。

 これでシナガワがトリガーを引けば、ミサイルは呪核目掛けて超音速で突っ込むって寸法だ。

 おお、ちょうどいい。貫通ミサイル積んでたんだ。これならいける。とどめにUAVのフルパワーレーザー攻撃もお見舞いだ。


 『ミサイル諸元入力、UAVも攻撃させるぜ』


 「ありがとう」


 機体の急激な機動が終わった。

 まっすぐ突っ込む。

 攻撃コースに乗った。

 狙うは呪核ただ一つ。

 ドン、という衝撃音。音速を超えた。


 『全弾発射フルファイア!!』


 品川の宣言と同時に、翼から白い煙が出る。

 ミサイル発射。

 すぐに旗艦級の左後方で爆発。

 ミサイルが着弾。

 続いて赤い光線が八つ、その爆炎目掛けて放たれた。

 何かが砕ける音。

 続いて旗艦級怪異がゆっくりと消えてゆく。旗艦級怪異、撃沈。


 『やった!!』

 品川の歓声。

 


『発光現象』から5555秒



 あたいは波の音を聞いた。


 

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SMF 特殊任務軍活動録 @Sabuo-yamabuki

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