開幕の閃光 ♯2
『7時方向、上だ!!』
左後方、上から突っ込んできた怪異を視認する前に、既に品川は操縦桿を右に倒し、スロットルレバーを前に引いていた。
機体が急減速しつつ、ロールして右旋回。
機体から10メートルの距離を、怪異が突っ切っていった。
「当たるか!!」
スロットルレバーを今度は目いっぱい押して怪異を追撃する。
機体が加速、後ろを取る。
スロットルレバーの武装選択スイッチを切り替え。
HMDに表示。
≪READY GUN 4000 ≫
HMDと機体のFCS(火器管制装置)がリンク。
品川の目線と照準が連動し、怪異を狙う。怪異の影が照準レティクルに入った。
トリガーを引く。
≪FIRE≫
発砲。
≪プテラノドン≫に搭載された20ミリ機関砲が唸りをあげる。
ゴゴゴ、と言う衝撃。
発砲時間わずか0.5秒。だが十分だ。
怪異が爆散する。
「一機撃墜。次は?」
『三時方向。くそ、まだまだ多い、スターボード(右へ)』
「スターボード、ウィルコ」
後席でレーダーを担当している。ダッチャの指示に従い、品川は操縦桿を右に倒し、機体を右旋回させる。
第五艦隊をスクランブルし、一路西に向かっていた部隊は、すぐさま怪異の大軍と遭遇した。
これに対し、海軍戦闘機部隊、および海軍魔女戦闘隊が航空格闘戦を開始。
しかし、怪異の圧倒的な物量に苦戦を強いられていた。
発光現象から5200秒。
「そういや、さっき変じゃなかったか?」
空中給油を受けている最中、突然、品川はダッチャに話しかけた。
『なんだよいきなり』
「いや、さっき君に呼ばれただろう。その時何かおかしかったんだよな」
『何が?』
そう問われても、品川は何も答えられなかった。
あの感覚をどう説明したものか、と。自分の語彙力の無さを恨んだ。
だから、曖昧に返事を返した。
「いや、何か。いや、本当に何か分からないけど、違和感を感じたんだ」
『お前、ついに頭がイカれたか』
「君に言われると何かイラっとする」
『何だとオ…品川! 接続を解け!!』
ダッチャの言葉を品川は聞き返さなかった。
レーダーに怪異反応。
強力な個体である事を示している。
スロットルを引く。
空中給油機と機体をつないでいたブローブが外れる。
外れたブローブから魔力燃料が漏れ出る。が、品川は意に介さなかった。
直後、空中給油機を赤い光が貫いた。
『砲撃!?』
ダッチャの驚く声、品川は機体を急上昇させる。
周りで同じように給油していた味方戦闘機が爆散したのが見えた。
「怪異はどこだ!?」
『下だ! 怪異反応、AWACSとリンク、データ照合中』
落ちていく空中給油機の下、雲海を突き破って巨大な黒い影が現れる。
先ほど相手にしていた怪異とは桁違いの大きさだ。
その形はまるでクジラのようだ。
『AWACSミズーリアイ12より展開中の全機へ!! 警報!!』
ミズーリアイ12の緊迫した声。
『戦艦型だ!!』
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