美しい自慢の娘を持った母の、半ば束縛も同然の、偏執的な子育ての告白。
タグにある通り、いわゆる「毒親」のお話です。いや本当にただそればかりではなさそうなところもあるのですけれど、とまれ娘の人生を自分の身代わりにしてしまうかのような、いわゆる自他境界のあやふやな人のお話です。親子の関係というのはままならないもので、家庭の数だけ複雑な事情が(人知れずであれ)存在するにせよ、しかし本作の場合はその行く末というか結末を思うと、なかなかにやりきれないものがありました。
つまりは、母親の異常な行動に胸を痛めるお話、と、全体を大雑把に要約するならそうなるのですけれど。そのうえで興味を引きつけられるのは、先述の「ただそればかりではなさそうな」部分。実は読み返すまで完全に見落としていたのですけれど、なんとその異質な部分、冒頭一行から堂々丸出しにされていたところにびっくりしました。主人公(母)の願いであり望み、「娘に清らかなまま、死んでほしかった」という文言。具体的な経緯がわからないと真意が掴めないところがあって、つまりこの先はネタバレを含みます。
てっきり、「死ぬまで清らかなままでいてほしい」という意味なのかと思いきや、さにあらず。読み進めるとどうやらこの母、娘に「清らかなうちに死んでほしい」と願っているようで、つまり娘に先立たれることすらなんとも思っていない部分があるんです。思えばなかなか妙な話で、これだと自分の人生の代替としてはもちろん、愛玩動物的な可愛がり方としても本末転倒な、まるでいつしか手段と目的が混同してしまったかのようなその願望。それがさらりと、でもところどころ「んん?」と引っかかる形で提供されていく、この口語体の切れ味が光っていました。
果たして冒頭のあの一文、それは彼女の元々の本心なのか? あるいは事後、自らにそう言い聞かせて、本音を上書きしているのでは? 実際のところはわかりませんが、それでも想像の余地としての後味を残した、重苦しくも食べ出のある小品でした。ジャンル指定が「現代ファンタジー」となっているところが好きです。