私、別にあんたといたい訳じゃないんだからねっ!! ~幼馴染がたった一文字違いで騎士団を除名されました~

杏里アル

幼馴染み

 森の中、一箇所いっかしょポツリと出来た小さな野原の場所で、私達は誓い合った。


「ゆびきりけつめい、うそついたらだ~めよ。ち~かったっ!」


 赤色の長髪少女と、頭に髪飾りをつけた茶髪の少年は地面に座り込んだ状態で、

笑顔でお互いに見つめ合い。小指同士を結び、歌の最後に絡まった指をほどく、

 傍から見ても二人は仲良しというのが窺えた。


 「彼が危険な目に遭ったら私が助ける」と少女は誓い

 「彼女が危険な目に遭ったら俺が助ける」と少年は誓う


 それが……今から10年ほど前の話。


 成長した私達は、共に同じ「セントリア騎士団」に入った。

 大好きな彼と一緒に魔物を退治し、この街をずっと守り続けると、

団長に告げられたある一言まではそう思っていた……。


       ◇    ◇    ◇


「えっと……今、なんと?」


 セントリア騎士団の一室、私はふと、開いた扉から

椅子に座っていた団長が見えたので、少し話をしていた。

 そして、団長がある一言を発した瞬間、私は耳を疑い、

一歩前に近寄ると、団長は再度確認するように、自身の爪を見つめながら、


「だから、アルフくんは今日限りで騎士団から除名よ~」


 いつもと変わらない、おっとりとした喋り方の団長、ローズさん。

 口がパクパクと開きながら驚く私に対し、団長はこの事に対して興味がないのか、特に言葉に感情も込めず、爪をいじりながら私に目線を合わせない。


 除名に対し、どうしても納得がいかない私は、勢いよくバンッと団長の机を叩き、

顔を近寄せる、服を掴みかかってもおかしくないほど、身体は前のめりになって、

 不服そうな顔でさらに一歩詰め寄り、


「いや! 待ってくださいよ! 彼が何したって言うんですかっ!?」


 説明するのが面倒臭いのか、「ふー」とため息を吐く団長は、ガラガラと引き出しを開け、

そこから一枚の紙切れを取り出しては私によく見えるように掲げると、

上から下へ、スッーと適当に指でなぞりながら説明をする。


 箇条書きに書かれた紙には、彼が犯したと思われる罪状がズラーッと、数行の文字で羅列されていた


「女性騎士団員への強姦、本来なら地下牢に入ってもおかしくないのだけれど、彼がこの街にした功績を考えて除名までに留まったらしいわ~。国王に感謝ね~」


「そんな……」


 崩れ落ちるように青ざめた表情でヘナヘナと、私は机に頭をつける

あいつがそんな事を? いや、信じられない、何かの間違いだと私は思った。


 彼とはもう、何十年の付き合いになる、彼の知らない部分を探す方が難しいほどの仲だ。

 そんな彼に私の知らない一面があったなんて……と、私が「アルフ」について振り返っていると、突然、コンコンとドアが叩かれ、招き入れる団長。


「どうぞ~。 ……あら、噂をすればなんとやら~ね」


「ども、ローズ団長に装備を返そうと思ってきました」


「そこ置いといてくれる~? あ、アルフくん元気でね~」


「ローズ団長こそお元気で」


 ペコリと頭を下げるアルフ、そう言って彼は両手で持っていた装備を、

団長に指でさされた場所へと置くと、「失礼します」と言ってその場を去ろうとする。

 去り際の彼の顔は特にいつもと変わりなく、明日にでもまたこの場所へ来そうな雰囲気を感じた、私は驚いた表情で「ちょ、ちょっと!」と立ち去ろうとするアルフの腕を掴み――


「ま、待ちなさいよ! この紙! 本当なのアルフ!?」


 あんたの為に、「幹部」のあんたが喜ぶと思って私……。

 頑張って「上位騎士」まで登り詰めたのに、こんな形でお別れなんて……、絶対許さないんだから!! アンタの理由、ちゃんと聞くまで納得しないからねっ!!


 彼女に聞かれた事に対し、首をかしげながらアルフは尋ねる。


「え、どの紙?」


 手でパシッ、と団長から紙を奪い取り、


「これよ!!」


 それをアルフに見せると、「んー?」とアルフは悩んだ表情でじっくり紙を見つめ……。


「……あれ、これ俺じゃなくて、酒飲みさんじゃないですか?」


「……え?」


 紙をクルリと見えるように返し、アルフは呆ける私と「あらあら~」と、

確信犯のようにわざと首をかしげる団長に見せる。


 どれどれと私は一番下の部分に目をやると、確かに「アレフ」と書かれていた、うん、確かに一文字違う、これはつまり、その、団長の勘違いという事になる、いや! 何してんのよこの人ほんと!!


 ローズは頬に手をやり、お茶目な顔をしながら私達を見て


「あら~、あんまり見てなかったわ~ごめんねっ」


 可愛くしたような作り声で手で頭をポカッと、軽く殴りながらそう言った。


 ……いやいやいやいやいや、待ちなさいよっ!!

って事は、手違いでアルフは騎士団から追放されたってこと!?


「ごめんねっ! じゃないですよ!!」


「めんごだわ~」


「謝り方に対して私は言いたいんじゃないですっ!!」


 ていうかあんまり見てなかったって、それで済まされる問題じゃないでしょ!!

私がここにいる理由ってアルフの為なんだから! もー、ちゃんとしてよ!!


「(というかこの団長、適当な人だと思ってたけどここまで適当とは思わなかった……!)」


 沢山の言葉を思考しながら巡らせ、火山が噴火したように怒る私に対し、意外なほどアルフは冷静だった。特に表情を変えず、髪をポリポリと手でかいて、呆然とした表情のまま、

そのままあくびをしてもおかしくないほどの他人事のような話し方で、返事をする。


「あちゃー、やっちまいましたねローズ団長」


「ほんと、やってしまったわ~」


「(ちょっと待ってなんで二人とも和んでるのよ!? というかアルフはもっと抗議しなさいよ!!)」


 慌てた足取りで二人の間に入り、手刀の形を作った手で数回、ぶんぶんと振り下ろしながら私は、


「えっと、今からどうにかならないんです!?」


 アルフの代わりに声を荒げ、抗議をする、あーもう、アンタが言わないなら私が言うわよ!!

でも勘違いしないでほしい、これは個人的に納得がいかないから抗議する訳で、

別にアルフの事が好きだからとかそういう事ではない、断じてない!!


「(ただ幼なじみだから言うだけ!! ったく、今回だけなんだからねっ……)」


「ん~朝、国王に受理した書類を出しちゃったわ~、仕方ないからアルフくん。受け入れてくれる?」


「いいっすよ」


 ずこーっ。と私は何かに躓いたように転んだ。すぐに立ち上がって、


「いいっすよ、じゃないわよバカ!! 来なさい!!」


 グイッとアルフの耳を引っ張るように掴むと、二人は部屋を後にした。

 ローズは手を振って「仲良くね~」とお別れの言葉を言うと、鼻歌交じりにまた爪の手入れに戻る


 私の意図がアルフに上手く伝わらず、あの頃と違って何か上手くいかない。

 昔はこんなんじゃなかったんだけどなあ、とリンは怒りながらも昔の事を考えていた。


「(バカアルフ……!!)」


       ◇    ◇    ◇


 「あいたたた」と声を出しながら引きずられるアルフは、時々足がもつれそうになりながら、彼女の後について行き、大理石で出来た廊下を歩く。

 アルフは他の騎士団員に見られて恥ずかしいのか、「離してくれ」と一言いうと、

彼女は手を離し、不機嫌そうな顔で見つめる。それを見たアルフは疑問の表情で、


「あのさ、な、なんでリンが怒ってんの?」


 リンは片足をあげ、タンッと強く地面を叩いたと同時に、


「怒ってないわよ!!」


「(いやめっちゃ怒ってるじゃん……)」


 もー、バカ。ほんとバカ、アルフのバカ! コイツはたまにこういった事態に対して、

凄く鈍感なところがある! 何年も前からずっとそう! だからいつまでも私の気持ちに気付いてない!!

 こんなにも好きなのに! 私の気持ちなーんにもわかってないっ!!


「なあリン、どこ行こうとしたんだ?」


 アルフはリンのワガママに付き合い疲れたのか、そろそろ解放してほしい素振りをすると、察したのかリンは眉を歪ませ、苛立ち混じりの声で、指をビッ、とアルフに向かって突きつける


 数人の人が「なんだ?」と振り向くほど、騎士団のひろーいロビーの中、私の叫び声が響き渡った


「国王の城に行くのよ! 抗議してやるわ!!」


「えーっ、俺の事はもういいって」


「いい訳がないでしょ!! あんたが騎士団にいないと……」


「……いないと?」


 俺はどうしたらいい? みたいな困り顔で私を見るアルフ。

 心配してる私がバカみたい、自分の事なのに、興味がなさそうな彼の態度にイライラし、

私は一人で行動した方が手っ取り早いと考え、くるりと振り返り視線を外すと、入り口の扉を蹴破るように勢いよく手で開け


「バカ!! もういいわよ!!」


「(いや、そんなバカと言われましても……)」


 アルフはリンの背中しか見えず気付かなかったが、早歩きで街の外へと走り去るリンは、

若干目に涙を浮かべていた。それはまるで、彼女が彼の事を強く思っているのに、気持ちが上手く伝わらなかった事が、自分にとって悔しかったように。


       ◇    ◇    ◇


 釈然としない顔で歩きながら「何か悪い事をしたのかなあ」と首をかしげるアルフ。

 俺は正直、書類の手違いならわざわざ国王に説明しなくとも、数日待ってれば団長がその辺はやってくれるだろうと軽く考えている。そうでなくても、過剰にリンが心配するのは、何年経ってもよくわからないんだよなあ……。


 騎士団の場所で彼女に引っ張られたせいか、少し腫れてしまった耳を晒し、俺は行く当てもなく歩いていると、突然「おーい」と声をかけられ、振り返るとそこには同じ団員の……名前なんだっけ、おっさんがいた。


「おう! アルフじゃねえか、お前クビになったんだって? この街の英雄にが騎士団を離れるたあ、そろそろ世代交代の時だな!」


「クビというかまあ、間違いでそうなったというか……(いや、あんたの時代にはならないだろう、というか誰だろう)」


「ま、もう会う事もねえだろ、元気でな。ちなみに俺達は明日、ダンジョンへの訓練メンバーを選考する。お前はせいぜい畑仕事でも探すこったな! ガッハッハ!!」


 男は嘲笑するように笑うと、言いたい事だけ言って立ち去ってしまった。


「(そうか、明日はダンジョンへ向かうのか……リンのやつ大丈夫かな?)」


 チラッと聞いたけど、上位騎士と言っても油断してれば怪我したりもする、もう除名された身だけど、一応いつでも助けに行けるよう、後をついて行った方がいいかな、と口に手を当て一考していると、


「アルフさまー!」


 一人の女性がこちらへ向かってくる、足下まで隠れたスカートは走っている最中に転ばないよう、両手で裾を持ち上げ、後ろ髪は腰辺りまで伸びていた。

 彼女、フレデリカを一言でいうなら、貴族の令嬢というのがわかりやすい表現だろう――


「ああどうも、フレデリカさん」


 俺は手をあげて笑顔で返事をすると、キラキラと輝いた目で彼女は挨拶をした。

 実は彼女の両親と仲が良く、結婚の話まで決まっていたのだが、セントリア騎士団員である間は「恋愛禁止」というのが盟約としてしっかりと決まっている


 しかしそれは団員の時のルールであって、除名された今の俺は団員ですらない、それならば結婚を前提に彼女と交際する事も今なら可能という事だ。


 戻るか、このままフレデリカさんと付き合うか、人生にとって大事な選択が迫られていた。


「今日は外回りの仕事ですか?」


 一緒に歩きたそうに尋ねるフレデリカ、「んー」と難しい顔をして、頭をかしげる。

決意をしたのか、アルフは彼女に除名された事情を説明すると、「まあ」とフレデリカは一言驚いて、嬉しそうに両腕を上下に軽く振る


「それでしたら仕事を紹介致しますわ! 結婚の話も屋敷で進めましょう!」


「う、うん(この子やっぱり、グイグイ前にくるなあ)」


 リンと同じように腕をグイッと掴まれ、どこか別の場所へと運ばれるアルフ。


 早歩きで連れて行くフレデリカの姿を見る事はなく、ぼんやり人生について考えながらアルフは空を見上げると、太陽はちょうどてっぺんで美しく輝いており「これからどうしようかな」と、頭の中で軽く問答していた。その最中、ふと。リンの事を思い出した。


「(そういえば、リンを守る為に俺って騎士団に入ったんだっけ……それから、なんとなくだけど、彼女とは疎遠になったような気がする。)」


 まるで薄い壁一枚を二人の間に置いたような感じであんまり話さなくなった。今日だってたまたまだったけど、相変わらずだったなあ、リンのやつ……。

 いつからだっけ? 一緒に遊ばなくなったのは……? いつからリンの気持ち、全くわからなくなったんだっけか。

 もう俺達が大人になったって……ことなのかな? リンってそういえば、好きな子とかいるのかな?


 アルフは昼行灯のようにぼーっとした顔で、10年前リンと遊んでいた時の事をうっすらと思い出そうとしていた……。


       ◇    ◇    ◇


 嬉しそうにリンは王国の扉を開ける、どうやら明日にでもアルフが団に戻る事で話は済んだようで、

大好きな彼が戻ってくる事が嬉しかったのか、弾むようにスキップをしながら街を駆ける


「ふんふんふふーん」


 そうだ! と私は閃いて、復帰祝いになんかプレゼントしてあげようと考え、お店が立ち並ぶショッピング通りを進む。

 あそこなら色んな商品が立ち並んでるし、きっとアルフが喜ぶモノもあると思う!

「何が好きかな~」と私は楽しく考えるが、中々思い浮かばない。というかそもそも彼が何を好きなのかわからない……。


「(あれ、そもそもアルフって何が好きなんだっけ……?)」


 好きなモノ、んーっ……そもそも何をプレゼントしてもあいつって、子供ような笑顔で嬉しがってた気がする。


「リンのくれた物なら何でも嬉しい」


 ってな事言ってたっけ……ほんと、単純なやつ。


 通りに着くと、とりあえず商品を見てみるが、あーでもないこーでもないと悩みながら、リンはアルフが大喜びするようなプレゼントを探す。

 結局悩みすぎて日が暮れてしまったが、豪華な剣の鞘をプレゼントする事に決まり、店員に袋に包んでもらいウキウキと店を出ると、遠くで立ち尽くすアルフを見かけ、手をあげる


「(あ、アルフだ! でもまだ怒った態度で接しないとね……よーし)」


 ゴホンと一言いって、あげた手を戻し、不機嫌そうな作り顔で近寄ろうとすると、


「アルフ様! ここでなら仕事をしてもよいそうですよ」


「あーうん、ありがとうフレデリカさん」


「これから私達は永遠に結ばれるのですね!」


「うーん? うん」


 リンの顔は一瞬で素顔に戻る。


 誰……あの人? フレデリカ? 誰? アルフの知り合い?

腕を組んで、仲良さそうに歩く二人を見て、気付かずにポトッと私はプレゼントを落とした。


 アルフは感づいたのか、ふと後ろを向き、「あれ? リン?」と声をかけるが、

リンは頭を少しあげ、頬は赤くなり、何かすっぱい物を食べている時、それを我慢しているように目を細くした表情を、アルフ達にむける。


「……バカ!! アルフの鈍感!!」


「え、おいリン!」


 アルフの声が聞こえたが、無視した。

 プレゼントを拾い忘れるほど頭の中が大雪のように真っ白に染まり。零れる涙が頬から地面へとこぼれ落ちた。フレデリカという女にアルフを取られたから泣いている訳ではない。


 私の知らないアルフの一面があった事。それをどんどん知っていくのが、一番辛かった。


 アルフのバカ。私がアンタの為に一生懸命動いてあげたのに! 何よ! アンタは気にせず好きな女とイチャイチャ歩いて! バカ! 死んじゃえ! 死んでしまえ!!


 走り去ったリンがプレゼントするはずだった袋を拾い、アルフは一言呟く


「これは……?」


       ◇    ◇    ◇


 次の日の朝、騎士団員達は庭に集まり、これからダンジョンへ向かうメンバーを団長が紙を読み上げながら発表する


「リンちゃ~ん」


「はっ、はい!」


 私は三番目に呼ばれた、少し緊張混じりの声で返事をし、既に呼ばれていた人達の隊列へ加わると、用意した武器を担ぎ、防具を身につける。

 その後何人か呼ばれ、計五人でダンジョンへ向かう事になり、残りの団員はそれぞれの朝の任務へと戻った。


「うんうん、訓練と言っても~、怪我する危険があるからね~、下手すると~死んじゃうかも……?」


 声はおだやかだが、真剣な表情でローズ団長は一列に並んだ五人を見る、

 曲げた右腕を胸元の手前で止め「はっ!」と張った声を出して敬礼をした。

 いよいよだ、私は心臓の鼓動を聞きながら一、二、と足を交互に出し、行進を始める、この訓練が上手くいけば、団の幹部にもなれる。


 ――でも、なってどうしたいの私は? 彼ともう付き合えないのに、この騎士団に何の意味があるんだろう?

 そもそも、彼を守る為に強くなりたくてここに入った。

 ならばもう、この辺りで十分なんじゃないかな、私は「本当に」したい事するべきなんじゃ……とダンジョンへ向かいながら考えていると、


「がんばれよー」


「騎士団さんたち頑張れー!」


 街の人達が声援を投げかけるが、無言で私達は歩き続ける

 私はアルフがいないかキョロキョロと辺りを見渡したが、当然と言えば当然だが、彼の姿は見えない、どうせフレデリカとイチャイチャしてるんだろう。

 ほんと、バカ。少し期待してた私もバカ。


「(バカアルフ、この姿を一番見て欲しかったのに……)」


 アルフの事はキッパリ忘れ、街を出てしばらく歩いただろうか、森の中にある洞窟へ辿り着くと、ここが訓練場所である事が容易にわかるであろう看板が立てられてあった。

 この辺りの魔物はあまり強くないが、団長が言うように油断していると、

怪我や死亡の恐れもある、慎重に事を運ばなければいけない、

そんなプレッシャーが、私の頭を真っ白にさせていき、


「おい! 明かり!」


 一番前を歩いていた団員が松明を配ったのか、バケツリレーのように渡ってきたのを気付かず「すいません!」と反射的に謝って受け取る。

 いけない、魔物もいるんだ、ちゃんとしないと……。


 大分歩いただろうか、最初狭かった洞窟は段々と広がっていき、大きな鍾乳洞のような神秘的な場所へ出る。


 「みんな、見てみろ!」


 私を含め、男の声の方向に全員が振り向くと、大量に地面に置かれてあったキラキラと光る財宝を抱きしめるように握りしめ、恍惚の表情を浮かべていた。


「こんだけあれば、団長も喜ぶぜえ~!」


「バカ! 訓練だぞ! 何をしている!!」


「まあそう固いこと言うなって……うわあ!!」


 見にくい暗闇の中、松明の明かりだけではハッキリとはわからなかったが、大きな影が見えた、魔物……?

 いや、でかすぎでしょ!! 人の何倍はあるのよ!!

 想像していた大きさではない事に驚きを隠せず、私達は剣を構え、戦いやすいよう距離を離して陣形を取る。


「魔法準備!」


 騎士団員の足下に次々と魔方陣が発動し、拘束魔法の詠唱を始める。


「拘束せよ! リストリクションズ!!」


 グオオオッ!! と咆哮する魔物だったが、立ち止まる事はなく、こちらへ向かってくる、魔物の姿がハッキリ見えたその瞬間、見えないほどの速度で拳が飛んできて、一人の騎士団員が吹っ飛ばされた。


「うわあああ!!」


 パニックになったもう一人の団員が剣を振り上げ斬りかかろうとするが、厚く覆われた皮膚は剣を通す事もなく、ポッキリと根元から折れてしまい、

腰が引けたのか、団員は大地に尻餅をついてカタカタと震える。


 グオオオオッ!!


 ――全員やられる、私がそう思った時、突然一人の騎士が現れた。


 騎士は前に剣を構えると、再度飛んできた魔物の拳をいなすように斬り、あっさりと切断する。

 すると痛みと恐怖を感じたのか、魔物は血を流し、斬られた腕を抑えながら、逃げるように背中を見せ逃走する。


「(凄い……!!)」


 周りが無事だと安心したのか、騎士は剣を鞘にしまうと、隠れていた頭の兜を取る


「大丈夫か? リン?」


 ……昔、こんな事があった、子供の頃の私は街の外へ出て、騎士団と街のみんなが心配になって私を探した。


 森の中を歩き、街へ帰ろうにもどこへ行けばいいのかわからなくなった私は、途方に暮れ、ウロウロと彷徨っていると、四足で歩く魔物と出会ってしまい。

 ギロリと睨む目に怯え、足はすくんでしまい、ただ震えていると、同じように、男の子が走って魔物へ斬りかかった。


 その時のセリフと、全く同じで……10年前、あの時の事を思い出した。

私が困った時、いつもあなたがそこにいて……。


「……バカ! なんでいつもピンチの時に、アンタがいるのよ」


 震えた声で叫ぶ、アルフはニッコリと笑顔で、


「リンが危険な目に遭ったら俺が助ける、10年前に誓ったろ?」


「別に助けてなんか言ってないし、そんなの昔の話なんて覚えてない!! ……ばか!!」


 ボツ、ボツと数粒の涙を地面に落とす。顔はくしゃくしゃになり。

頭が真っ白になって、何をどうしていいのかわからない中、リンは一生懸命に首を横に振った。

 死んじゃえ! なんて嘘だ。そんな事言ってごめんって思ってる。

アルフが死んだら私は悲しい、アルフが好きなの、ずっと一緒にいたいの。


 忘れてなんかない、アルフも覚えててくれたんだ、あの時の約束――


「俺は忘れない……リン。誓う前の出来事、ようやく思い出せたよ」

「(あの時、金もなかったリンは、俺に送るプレゼント花の髪飾りを作ろうと、一人で森の中へ入っていったんだよな)」


       ◇    ◇    ◇


 訓練が終わって、一部を除いた出来事を報告すると、私達はこっぴどく団長に怒られた。

 魔物に吹っ飛ばされた団員は怪我をしていたが、命に別状はなく、何とか全員無事に帰還する事が出来たので、後日幹部への昇格発表があるそうだ。

 アルフも無事に団に戻るという事になったが……どうやら私が動かなくても既に話は通すつもりだったらしい。「じゃあさっさとやりなさいよ!」というのは、

もう団長にとっても、アルフにとっても野暮な事なのだろう……。


 ちなみにアルフが一緒に歩いていた、フレデリカという女の話は、結局本人が団に戻るということで、団のルールに従って結婚の話も保留となり、当然……私が思っているアルフへの気持ちも保留のままになってしまった。


 報告が終わると、彼女はニヤニヤとした笑みを浮かべ、私達に尋ねる


「で、洞窟の中でその後、二人はどうなったの~?」


 私は何も答えない、が。

 この空気を読むという気持ちが欠片もないバカはヘラヘラしながら……


「いやあそれが昔と同じようにリンが危険な目に遭いそうだっ、ああああっ!!」


 思い切りアルフの足を踏むリン、「何するんだよ!」とアルフは理由を聞くが、


「ばーかっ、バカ! バカアルフ!!」


 リンは怒った声でそう言うと、ドアを開けどこかへ行ってしまった

 足にふーっ、ふーっと息を吹きかけアルフは、


「なんなんだよ、リンのやつ……」


「あなた達、ほんっと見てて面白いわあ~」


「んんっ??」


 廊下を早足で歩く、私は怒った顔をしていたが、別に怒ってなんていない。

 私達はこのままでいいのかもしれない、アルフはアルフで、私は私だ。

 もし彼が危険な目に遭った時は、私が助ける番。

 命を失っても絶対にアルフを助けようと思う、二回分の借りは絶対に返す!


 ――でもいつか、もし団を抜けて、お互い歳を取って

 アルフが受け入れてくれるなら、結婚したい

 キスとかいっぱいして、愛し合いたい……な


 10年前、彼と一緒に魔物を退治し、この街をずっと守り続けるという血盟

 お互いの歯車は相変わらずかみ合わないが、信頼とはまた違った何かで……


 きっと、二人は繋がっている。


私、別にあんたといたい訳じゃないんだからねっ!!

~幼馴染がたった一文字違いで騎士団を除名されました~


おわり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私、別にあんたといたい訳じゃないんだからねっ!! ~幼馴染がたった一文字違いで騎士団を除名されました~ 杏里アル @anriaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ