第3話「缶コーヒー」

 日本の冬は寒い。

 少し人口の多い地方都市のコンビニエンスストア。その軒先で先ほどから降り出した雪をやり過ごすために退避した。

 何も買わずに雨宿りすることに罪悪感を覚えた俺は缶コーヒーを一本購入する。

 全体を乳白色が覆い表面に表品名がデカデカと書かれた缶コーヒー。

 表記的には缶コーヒーなのだが中身はカフェオレ。それもカフェオレ業界では屈指の甘さを誇る缶コーヒー。

 かじかんだ指で苦労しながらプルタブを引く。

 「カシュッ」という音の後に飲み口から湯気が立ち上る。

 火傷を警戒しながらゆっくりと口元へと運ぶ。湯気が鼻先を掠め独特の甘い香りを感じる。普段通りに一口飲む。

 「甘い」

 この缶コーヒーの感想はたった一言。普段飲むコーヒーは基本的にブラックコーヒーだけあり未知の甘さだった。その甘さはジュースと勘違いしそうなほどだった。

 けれども決して苦手を覚えるような味ではなかった。

 二口目は口へと大きく流し込み咽喉を潤す。

 少しのため息を漏らしつつ雪がちらつく空を見上げる。

 6年前、ありとあらゆる物のサイズが大規模の太平洋を隔てた大国からやってきた少年と少しの間寝食を共にした。

 その少年は白い缶コーヒーをえらく気に入った。

 その気に入りっぷりは極度のもので腹痛を起こしながらも帰国するその日まで毎日飲み続けたことを思い出した。

 お土産に1ダース分の缶コーヒーを持って行ったときは小躍りしていたことをよく覚えている。

 その光景を思い出し少し笑いながら最後の一口を飲み干す。

 当時拙い英語で何とかコミュニケーションを取っていたがやはり言葉を足らなかった。あれから色々と勉強しあのころよりかは話せるようになった。そのせいか余計にあの頃の自分に歯がゆさを感じる。

 話したいことをいくつも思い浮かべていると降り続いていた雪はいつの間にかやんでいた。予定には大きな乱れはなくかの大国に向かう飛行機へ乗るために空港への道のりに足を踏み出す。

 白い缶コーヒーを1ダース抱えながら。

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